日本のアンモニア石炭混焼による脱炭素は現実的か?
日本の電力会社は、脱炭素戦略の一つの柱として、石炭とアンモニアを混焼できる発電所の開発に取り組んでいます。本記事では、アンモニア石炭混焼とは何か、それは本当に二酸化炭素排出量の削減に寄与するのか、コスト面で現実的な戦略となり得るのか、について説明したいと思います。
アンモニア石炭混焼とは?
アンモニア石炭混焼とは、既存の石炭火力発電にアンモニアを混ぜて発電を行うことです。アンモニアは燃焼しても二酸化炭素を排出しない物質であることから、混焼することで二酸化炭素の排出を抑えることができるという利点があります。
アンモニア石炭混焼の課題は?
アンモニア石炭混焼の課題は、アンモニアの安定的な量の確保です。発電分野での利用が開始された場合、現在の世界の生産量では足りなくなることが予測されています。供給不足となれば、価格が高騰し、アンモニアの主要用途である肥料の分野にも影響を与える可能性があります。
アンモニア石炭混焼には、環境面の課題もあります。それは、アンモニアの燃焼では亜酸化窒素などの他の温室効果ガスが排出されることです。アンモニアには窒素が含まれており、燃焼すると亜酸化窒素が発生します。100年単位で見た亜酸化窒素の地球温暖化係数(GWP)は、二酸化炭素の273倍になるとのことです。
脱炭素戦略として現実性があるのか?
ブルームバーグNEF(BNEF)の分析レポートでは、日本にとって、電力部門におけるアンモニアと石炭の混焼は、経済性の高い手段にならないという見解が示されています。
BNEFの予測では、アンモニア石炭混焼発電の平準化発電コスト(LCOE)は、洋上風力発電、蓄電池併設型の太陽光・陸上風力発電などの再生可能エネルギーのLCOEを上回るとのことです。
アンモニア石炭混焼の採算を合わすためには、日本の炭素税を大幅に引き上げる必要があると指摘しています。例えば、2030年にクリーンアンモニア20%混焼の採算が合うようにするためには、少なくとも二酸化炭素1トンあたり300ドルの炭素価格が必要と推定されています。しかし、日本の炭素価格は、現在1トンあたり3ドル以下に抑えられています。日本の「地球温暖化対策のための税(温対税)」が、今後上記の価格水準まで上昇することは現実的に難しいと考えられます。
アンモニアの混焼を行うためには、既存の石炭火力発電所を改修する必要があります。改修には莫大な費用がかかり、電力会社は採算が取れないとBNEFのレポートは指摘しています。そのため、日本では、電力部門の脱炭素化については、再生可能エネルギーの導入が適していると述べています。
コストが高く、供給量が限られるアンモニアは、電力部門に使用するのではなく、他に脱炭素化手段がない肥料製造などに優先して使用すべきであるとの見解をBNEFは示しています。