平日20時過ぎの田中田式海鮮食堂魚忠、半泣きで噛みしめる和定食
時々、新幹線で仕事に行く。
定時ぐらいまでの仕事を終えて、帰路に就く。さて、夜ごはんを新幹線で弁当で済ませるか。東京駅に着いてからにするか。
私は割と弁当で済ませてしまう派だ。けれども、駅弁は割高で物足りない。東京駅では推し弁が決まっているけれど、出張先では固定するほど気に入ったものがない。乗り換え時間が少ない時や、お弁当を選びかねた時は、東京に着いてから何か食べよう、ということになる。
数泊を経て、だいたいこんな時は、疲れている。自炊から離れて外食が続き、いつもと違う居酒屋ごはんや、自分ではチョイスしないランチの後のひとりごはん。
うどんではさびしい、ハンバーガーは重たい。トンカツも焼肉も好きだけど、いまは辛い。丼も、そういことじゃなくて。ああ、和定食が食べたい。
味が濃いやつじゃなくて、お味噌汁も小鉢も、すとんと納得がいくような、整った和定食に癒されたい。
東京駅の改札内、ひとりごはん、整った和定食。
そうなると、グランスタの田中田式海鮮食堂魚忠しか思い当たらない(今のところ)。
田中田式海鮮食堂の定食は、2025年1月現在、2,180円。
私はお金持ちではなく、普段は松屋の定食で幸せな気持ちになれる。そのお財布感覚にとっては、定食で2,000円を超えるのは辛い。贅沢をしている気分になる。だからちょっと迷う。だけど結局、和定食のやさしさに包まれたい。しょうがない、ここは東京駅改札内なのだ。
そして、田中田式海鮮食堂の和定食は裏切らない。かれいの煮付けは、骨一本一本までしゃぶりたくなるほど、ちょうど良く脂がのって、辛過ぎず薄過ぎず、煮付けの正解ってこういうこと!と思う。定食の一品一品がちゃんと美味しい、お米もお味噌汁も、お漬物も小鉢もちょうど良い。
なかでも小鉢のゴマカンパチが美味しくて、心の中で、うーって言う。
スーツケースを引きずって疲れている時の、ひとり飯は、こういうのが良い。
お店は清潔で席間もほど良く、基本的に、静かで落ち着いている。一人客も多くて、女性一人でもとても入りやすい。同じように思う人が多いのだろうか、この店に来ると、毎回、自分の他にも、荷物の多い女性一人客がいる。
いつもより贅沢をしていることが、より美味しさを増幅させている。
ああ定食に2,000円超え…ちょっと贅沢してる、でも東京駅だし、でもここ数日頑張ったし、ああ、お米が美味しい、お味噌汁が美味しい。日本人で良かった。
整った和定食で、出張の緊張がほどけて、心の中で半泣きで味わっている。
家に着くまではまだだいぶかかる。荷解きがあるし、明日の仕事の準備も終わっていない。首凝りと腰痛でどっぷり疲れている。でも、今はただ、ごはんが美味しい。
誰かと一緒だと、会話に集中力の半分が行くから、こんな和定食はひとりで食べるのも悪くない。
定食ってお店それぞれの良さがあり、職場近くのお手頃ランチで好きな定食とかは、いろいろある。そもそも、ふだんは松屋の定食で私は割と幸せになる。
それでも時々、「ああ整った和定食だな」と思うような定食を食べるのは、とても良い。ひとくちひとくち大事に味わって、しみじみ、幸せな気持ちになる。
田中田式海鮮食堂の和定食も、とても良いと思いつつ、私のなかで、整っている和定食グランプリは「鈴波」だ。
ある日、とてつもなく落ち込んで、孤独な気持ちで六本木ミッドタウンで夜ごはんを食べようと思って、ふらりと入った鈴波。
銀だら定食を選んで、すべてが整っていて、ひとくち食べるごとに、口のなかから幸せに満たされていく感じがした。銀だらはもちろん、お米のちょうど良い固さ、赤出汁、美しい黒豆、お漬物。ああ、これこそが正しい和定食だと、しみじみ思った。ああ、明日からまた、生きていこうって大袈裟だけど、本当に思った。
整った和定食は、生きる力を口の中から満たしてくれる。
こんなことを書いていたら、鈴波にすごく行きたくなってきた。
六本木に縁が無さすぎて長らく行けていないのだが、このnoteを書いていて、日比谷にもあることを知ったので、近々行って来よう。
私はうんちくが言えるほどのグルメじゃなく、雑な味覚だけど、やっぱり美味しいものを食べるのが大好き。
今日も、美味しく食べて、生きていく。