市駅前やお日切さん、パート2

前回話のつづきになります。
  
当時のお日切さんは、現在と同様に南に面していたが山門は、竜宮城のような、白壁の山門をしており、滑らかな曲線と、直線で構成されている小さな欄干や、屋根模様は、乙姫の出現を連想させるにじゅうぶんなものであった。
 山門を潜る。連れの悪友からとりあげた三輪車の後ろに足を乗せ、ケンケンで、走り込んでいくと濛々とした線香の煙と、鳩の群れにむかえられる。悪童に追い払われた鳩は一瞬の飛びたちのあと、すぐさま舞い降り、参拝客の撒いた豆にむらがってゆく。
敷き詰めた石参道の隙間に落ち込んだ豆は、水を吸い乳白色に大きく膨らんでいる。
正面の本堂に真っ直ぐに進み手を合わす。
境内の東には、小さな池があり、苔むした岩の上で、甲羅干しをしている大きな石亀をよく見かけたものである。
池の前から東の通りに抜ける路地があり、路地の両側は、小間物屋か、糸屋か、さだかではないが、腰高のガラス戸があった印象が、強くのこっている。
 抜けた通りの東側には「馬鹿盛」でじゅうぶん名の通った食堂が、あった。三輪車の向きを再び境内にむけ、鳩の群れに、突っ込んで行く。バタバタバタバタ、鳩の群れに突っ込んだものの、その羽音にたじろぎを見せて立ち止まり、「ホー」と、大きな息を吸い込む。
 亜然とただずむ間に鼻先の冷たさを感じ、袖口で鼻を横になで境内で、東向きに店をかまえる「日切焼」の前に足をむける。
 「たいこまん」を買う小遣銭等をもらって来ているわけではない。が自分の顎の高佐あたりに位置する窓敷居越しに「たいこまん」の焼き上がりを覗く。頭には、白のタオルで姐さんかぶりをしているが、割烹着のポケットのところは「あんこ」がついて薄茶色に汚れている。
 竹の筒に入れた油布でひとつひとつの型穴を
「クルッ」「クルッ」と拭き取り、赤銅の杓子の口から、クリーム色に溶かれたメリケン粉を流し込んでいく。ほどよい焼加減の時期を見計らい、目打ちのような金具をつかい、ひっくり返しては焼き上げていく。
 

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