とっくりと鼈パート2

「よしっ今晩はうなぎで一杯じゃッ。裏でミミズを掘りよれ…」私は否応なく庭の片隅を手鍬で掘り、空缶の中にミミズを捕っていた。

父は仕事を片付け、廊下で釣り道具の用意をしている。当時の釣り道具と言えば、凧糸に渋を滲ませた道糸に、鉤と錘をつけた簡単な投げ釣りの道具である。

薄暗くなりかけるのを待っていた父は、私を連れ西堀端にでる。

「誰も見よらせんかッ!見とれよッ!」と小言でささやく。それにつらされてこちらもキョロキョロするが、何をみていいのかわからない。そのうちに、 鎖鎌を使う忍者のように、キリ、キリッ、と釣糸をまわし、ドボンと掘りに放り込む。

数回の魚信に緊張したがいずれも徒労に終わり、一刻の勝負では鰻にならない。

「よし今晩は放り込んどいて明日の朝、上げに来るぞッ」

お堀の柵に結びつけた道糸は、わかりにくいように、コンクリート支柱の裏側にまわし、その晩は、引き揚げた。

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