青年期の痙性片麻痺患者における片側および両側の松葉杖歩行に関する運動学的および筋電学的研究

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1.はじめに

今回の文献は歩行補助具(ロフストランド杖)が痙直型片麻痺の青年の背筋活動と全身のキネマティクスに及ぼす影響を調査したものです。

2.背景

▷脳性麻痺の歩行者の腰痛や歩行力の低下は、高齢になるにつれて一般的に
▷歩行時の安定性を向上させ、下肢への最大体重負担を促すために、歩行補助具が処方されることが多い

Jahnsenらは、CPの成人の約3分の1が慢性疼痛を有すると報告

CP患者の痛みの原因としては、背中、腰、下肢が一貫して挙げられ、中でも背中の痛みが最も多く報告

Krakovskyらは、CPの若年者を対象とした調査で、痛みにより失われる4つの重要な機能の1つが「歩行」であると結論づけている
Jensenらは、CPの成人の多くが歩行補助具や移動補助具を使い始めると、統計的には有意ではないものの、年齢とともに腰痛や下肢痛が軽減する傾向があることを報告

歩行補助具は歩行能力が悪化した状態で処方されることが多いが,使用者の歩行,脊柱可動性,背筋活動への影響についてはほとんど知られていない

3.方法

痙性片麻痺の青年は、身体障害者のための特別学校から、以下のような条件で募集
 (1)10m以上の独歩が可能な歩行者
 (2)過去3カ月間に腰や下肢の痛みがない
 (3)過去6カ月間に外科手術を受けていない
 (4)実験の指示に従うことができる
 評価
股関節屈曲拘縮はThomasテストで評価
動作解析システム(Vicon 370, Oxford Metric, UK):体の各部位の3次元的な位置と向きをモニター 
反射型マーカー:上部体幹と下部体幹,骨盤,下肢の動きを追跡(Figure 1)
表面テレメトリ筋電図:脊柱起立筋の活動をモニター
参加者間の比較を可能にするために,個々の参加者のEMGデータは,それぞれの最大随意収縮(MVC)で正規化

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 方法
杖:軽量のアルミニウム製Lofstrand前腕松葉杖(0.8kg)使用
杖の調節:仰向けに寝た状態で、肘を15°屈曲させた尺骨茎状突起から外果までの15cmの距離として標準化した

条件:参加者は全員、短パンと半袖のTシャツを着用
裸足で10mの歩道を自分の決めた速度で歩くように指示
歩行方法:データ取得前にトレーニングを行い,4点往復歩行(右手左足,その逆)を採用

各参加者は以下の3つの歩行条件をランダムな順序で行った
1)利き手に松葉杖を1本つけて歩く  
2)両手に松葉杖を2本つけて歩く  
3)独歩
各被験者は、それぞれの歩行条件で5回の試行を行い、それぞれの試行の間に十分な休息をとり、15回の試行はすべて1回の実験セッションで終了

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4.結果

参加者情報

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性別:男性5名、女性5名
平均年齢:12.1歳 範囲:8~15歳
日常的にロフストランド杖使用:4人(杖なしで10m歩行可)
股関節屈曲拘縮(対称的):3人 平均5.5°

3つの歩行パラメータすべてにおいて有意な差が示された

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下部体幹の最大・最小伸展
骨盤前傾の可動域とその最大・最小値には
有意な差が認められた

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矢状面以外の骨盤運動面では歩行条件因子の有意な影響は認めず
「松葉杖歩行時」
・骨盤の矢状面の動きの振幅が有意に増加
・骨盤はより前傾していた
・下部体幹は骨盤に対してあまり伸長していない
・立脚時に膝がより伸展するなど
 歩行条件の影響が顕著に見られた

ピーク筋電量と平均筋電量の両方で有意な差あり
松葉杖歩行時に低い結果

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5.結論

⑴ 時間-距離パラメータの結果

松葉杖歩行では…
被験者の歩行速度が有意に遅くなる
遊脚期と立脚期の支持基盤が拡大し、より安定した歩行が可能

支持基底面増加により安定性向上 → 歩幅に大きな変化見られなかったが、重複歩時間が延長、ケイデンスが低下し、歩行速度が低下 → 参加者は自分の動きをコントロールする時間が増加

⑵ 筋電図の結果

松葉杖歩行では…
脊柱起立筋の活動が低下
ピーク値、平均値ともに有意に低下
片側松葉杖歩行と両側松葉杖歩行では有意な差はなし

松葉杖を使用して適切な歩行訓練を行えば、背部筋の活動が減り、重複歩時間が延長することで、痙性CP患者はより低い代謝コストで歩行できるようになるかもしれない

⑶ 腰痛

原田らは、歩行可能な片麻痺患者の44%が腰痛を経験しており、9歳以下では腰痛を経験した人はいなかったのに対し、10〜19歳では38%であったと報告
歩行時の股関節の伸展不足は、骨盤の前傾と腰椎の前彎を増加させながら、主に腰仙関節で吸収される

股関節の屈曲拘縮が強いほど、後年の腰痛の確率が高くなる
Murphyは、L5-S1での脊椎分離症が歩行可能な片麻痺患者によく見られ、早期に診断しなければ脊椎すべり症に進行する可能性があることを発見

原田らは痙性片麻痺の腰椎に関する研究で、慢性的な腰痛は前弯70°以上の被験者の75%、脊椎分離症の被験者の55%、脊椎すべり症の被験者の全員に生じていた

松葉杖使用した結果…
骨盤の矢状運動の振幅が有意に増加(特に両側の松葉杖歩行時に骨盤の前傾が有意に増加することを伴っていた)

生体力学的には、身体重心が前方に移動した場合、前方への転倒を防ぐために伸展モーメントを発生させる必要あり

松葉杖が床に接触している状態では、地面からの反応で生じた伸展モーメントが前方への転倒モーメントを十分に打ち消す(松葉杖歩行時に脊柱起立筋の活動が低下したという筋電図の結果からも裏付けられる)

脊柱起立筋の活動が低下することで
脊柱への負担が軽減される可能性あり
矢状面の動きが腰部屈曲側に約6°シフトすることが
明らかになった(腰椎前弯が6°減少する)
「研究の主な限界」
▷厳しい参加基準のためにサンプルサイズが小さい
▷参加者6名は、松葉杖歩行が初めてで、松葉杖歩行時に不自然な歩行となり、結果に大きなばらつきが生じた
▷マーカーやEMG機器の装着により、データ取得時に不自然な歩行になっていた
▷装着した器具を固定するために使用した粘着テープによる刺激も報告

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