障がいを持つ子どものサポートウォーカーの使用と認識について :イギリスでの調査

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1.背景

サポートウォーカー(以下SW)は補助器具の一種であり、運動障害を持つ子ども達が自立して歩行できるようになり、腸管機能、骨密度(BMD)、運動能力、自立性、参加性、社会的機能などの改善を促進する可能性がある。しかし、これらの効果を裏付けるエビデンスはほとんどなく、臨床現場でのSWの使用について記述した研究も不足しています。本研究では、臨床現場における障害児に対するSWの使用状況を検討することを目的とした。

support walker(SW)とは
手持ちの歩行器ではサポートしきれない,体幹,骨盤,頭部などのサポートを必要とする子どもたちの移動を可能にする機器と定義

2.方法

デザイン:横断的な調査デザイン

参加者 :PTなどSWを処方する専門家(=処方者)と、教師などSWを使用する子どもに関わるが処方しない専門家(=非処方者)を対象

調査方法:参加者へアンケート
(障害の種類には制限を設けず、子どもたちの特徴,補助歩行器の通常の使用方法,補助歩行器の使用に関連して認識されている利点と問題点に関する質問を非処方者28、処方者29問/close-ended型の質問が主+3つの自由形式の質問)

データ解析:記述統計(平均、SD、範囲、パーセンテージ)
 *その他という選択肢がある質問に対して、5人以上の参加者が同じ回答をした場合、これらの回答は新たなカテゴリーとなる
 *導入時の年齢の質問で年齢の幅があった場合は、その幅の平均値を算出し、その後、全回答者の平均値の算出に含めた
 *その他のコメントの質問に対する回答はより詳細な内容分析のプロセスを経て、重要なフレーズを記録し、類似したフレーズと照合し、その後、カテゴリーに分類

分析対象

125件が分析対象に
(合計126件のアンケートが返送されたが、18歳以上=成人としか仕事をしていないと回答されたものは除外)
*対象者のうち何人がアンケートを受け取ったか不明であり、回答率は算出できず

回答者の属性

処方者の多くは女性(97.2%)、理学療法士(98.1%)であった。作業療法士1名と治療助手1名もSWを処方していると回答。処方者は,地域社会(80.4%),SEN学校(57.9%),主流学校(42.1%),外来患者(28.0%),入院患者(6.5%),「その他」(3.7%)など,複数の環境で働いていた。非処方者の職業は、理学療法士(33.3%)、作業療法士(33.3%)、教師(22.2%)、教室アシスタント(5.6%)、その他(5.6%)と、よりバラエティに富んでいた。処方者は平均16.1年(範囲2~35年)、非処方者は平均11.7年(範囲1~25年)、補助歩行器を使用している子どもに関わっていた。

3.結果

子どもの特徴

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● 使用年齢

2~12歳までの子どもが最も多い

● SW導入の平均年齢

平均3.6(標準偏差SD 1.6)歳
最年少の導入年齢:
処方者が平均2.4(1.4)歳
非処方者が平均2.9(1.0)歳

理想的な導入年齢:77名の処方者が回答
平均2.5(1.0)歳(範囲は1〜6歳)
※  30人の処方者が文章で回答し、理想的な導入年齢は子どもの状態(n=20、66.7%)、特に発達段階、認知、意欲、運動能力に依存することが明らかに。5人(16.7%)の処方者は、子どもが体重をかけて歩こうとしていることを認識した後、SWを処方することが多いと回答
先行研究より…
平均年齢は2歳半が「理想」とされているが、これは、一般的な発達段階にある子どもが自立して歩き始める12.1カ月よりもはるかに遅れている[15]。早期に導入することで、運動機能の発達が促され、その結果、心理的・認知的な発達が促されるのかもしれない[16]。

● 使用者の診断名

すべての処方者が痙性脳性麻痺の子どもに補助歩行器を処方していると回答。また、多くの処方者が、運動障害性CP、運動失調性CP、染色体異常、二分脊椎の子どもに補助歩行器を処方していることを報告
多様な症状の子どもたちに処方されている!

● モビリティの使用状況

SWと車椅子の併用は処方者、非処方者ともに約90%
SWを使用している子どもが「手持ちの歩行器で歩ける」と回答した処方者は20.6%、「補助歩行器を使用している子どもが単独で歩ける」と回答した処方者は15.0%

SWの処方

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● SWの処方を決定する要因(Table2)

No1.子どもの運動能力(97.2%)
No2.子どものSWに対する耐性(86.9%)
No3.現在の活動レベル(80.4%)

● SWの処方の禁忌(Table2)

No1.頭部コントロール困難(78.5%)
No2.痛み(74.8%)
No3.行動上の問題(57.0%)

● 使用期間に影響する要因

No1.子どものニーズ(80%)
No2.臨床研究(76.6%)
No3.理学療法の目標(59.8%)
No4.エビデンス(26.2%)
No5.地域や国のガイドライン(9.3%)

● 処方されたSWランキング

No1.Rifton Pacer(88.8%)
No2.Ormesa Grillo(39.3%)
No3.Buddy Roamer(35.5%)
処方者が特定したSWは合計21種類

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● どの歩行器を選択するかに影響する要因

No1.臨床経験(91.6%)
No2.子どものニーズ(89.7%)
No3.理学療法の目標(72.9%)
また、両親と子どもを判断要因に含めるとほとんどの処方者から報告あり。
様々なタイプのSWが使用されていることが報告されたがそのほとんどは現在、その有効性を調査した研究がありません。

● サポートウォーカーの使用状況(使用場所・時間)

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● 処方されたSWが使用できない要因

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処方者意見
「子供を手伝うスタッフがいない」(88.8%)
「歩行器を使うスペースがない」(72.9%)など
非処方者意見
「どのような要因で使用できないのかわからない」(39%)
「子どもが他の移動手段を好んでいる」(39%)
Huangら[20]は、教師は大人数のクラス編成やすべての子供の学業成績に気を取られているため、支援器具の使用を奨励することはほとんどできないと述べています。 

● SWの使用をやめた理由

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症状が進行してSWの使用ができなくなったと答えたのは、処方者(79.4%)と非処方者(72.2%)で最も多かった。また、両グループとも、子どもが他の移動手段を好むようになったり、歩行能力が向上したりしたために使用を中止したと報告
先行研究より[11, 17]…
歩行能力の向上が中止の理由になると報告あり
子どもの状態の悪化…
ある種の疾患(例:筋ジストロフィー)の進行性の性質や、成長期に起こる負の変化(例:脊柱管狭窄症や股関節の問題)は、これらの子どもたちにとって歩行を困難または不可能にする可能性が高い [18]。結果として生じる痛みや必要なエネルギー量の増加が、その後、別の移動手段(例えば、車椅子)を好む理由になるかもしれない[19]

子どもがSWの使用を中止するまでに、42.1%の処方者が5~10年使用すると回答。

✔️3か月~3年という先行研究の追跡期間を超えていた[6, 9-11]
✔️Lowらは、最も一般的な使用期間は6カ月未満であると指摘[6]
 Lowらは使用中止の理由を説明していない

● SWを使用した際に感じた効果

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処方者が感じた効果は、「身体活動時間の増加」(98.1%)、「楽しみ」(94.4%)、「参加の増加」(90.7%)の3つであった。また、非処方者では、「自立性の向上」(94.4%)、「身体活動時間の増加」(94.4%)、「楽しみ」(83.3%)が多く報告

それ以外にも、筋力の向上、運動能力の向上、仲間や家族との交流の増加、呼吸機能の向上、骨密度の向上など、処方者と非処方者の半数以上が多くの効果を感じていることが分かりました。

先行研究…
✔️一般的に身体活動が少ないグループにとって、SWは身体活動への参加を促進し、障害のある子供の痛み、疲労、骨粗鬆症の軽減など、関連する健康上の利益をもたらす可能性がある [21]

✔️身体活動に参加することで、回答者の大半がメリットとして認識していた自信や自尊心が高まることも説明できるかもしれない[12, 22]

✔️McKeeverらは、両親が、直立していることで環境に対する認識が変わり、仲間や家族との交流だけでなく、参加も増えると考えていることを明らかにした[12]

しかし、SWの使用がQOLに与える影響は検討されておらず、今後の有効性の研究ではアウトカムとして考慮すべきである

● SWを使用した際に感じた問題点

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処方者から最も多く報告された問題は「スペースの不足」(79.4%)。その他の問題点としては,「乗り降りのしにくさ」(67.3%),「使い勝手の悪さ」(64.5%)が挙げられた。非処方者が感じた問題点としては、「操作性の悪さ」(66.7%)が最も多く報告された。
先行研究…
✔️Huangら[25]は、補助歩行器のような大きな機器を移動したり保管したりするためのスペースがないために、多くの子供たちが自宅での補助器具の使用を断念したと報告

✔️ある補助歩行器(David Hart歩行装具)を使用したとき、特に屋外の凹凸のある場所では、補助歩行器の不安定さと転倒の報告が過去の文献に記載あり[10]

その他のコメント(33名回答)

カテゴリー1:サポートウォーカーを導入する年齢

相反する2つの見解
自立歩行を早める可能性があり、SWを早期に導入すべき
VS
歩行能力の向上が見込めなくなってからSWを導入すべき
意見1
「歩行への早期のアプローチは、子どもがより早く進歩するためのステップとなり、移動できないことへのイライラを軽減する」
意見2
「子どもの歩行の可能性が満たされていることが明らかになるまでは、補助具を処方しないことにしている」

カテゴリー2:資金不足 

SWの資金調達の問題を指摘する意見が多かった。また、処方者の中には、資金が得られる場合であっても、一定の基準を満たさなければならず、子どもが歩けるようになる見込みがある場合にのみ処方されることがあると述べている。

カテゴリー3:認知された利点

意見1
「SWは、自立した移動ができない子ども達に、体位の変更、運動、移動を可能にし、子どもたちはそれを気に入っている」
意見2
「早期(発達)遅滞の子どもたちの中には、体重を支える方法としてSWを使用する者もいるが、彼らは長期的な使用者にはならず、自立した歩行には至らないだろう」との意見あり

4.研究の限界

比較的少ないサンプルサイズと回答率を算出できなかったことが、特に非処方群における本研究の最も重要な限界であろう。利便性の高いサンプルを使用したため、選択バイアスが生じた可能性あり。また、本研究はこれらの結果がスナップショットを提供するだけであり、処方のプロセスを十分に記述していないという点で限界あり

5.まとめ

✔️脳性麻痺、染色体異常、二分脊椎など、様々な疾患を持つ子どもたちに支援用歩行器が処方されていることが明らかになった

✔️SWの処方に影響を与える要因としては、子供の運動能力、耐性、活動レベルが最も多く報告された

✔️1日の使用時間は様々

✔️身体活動の増加、楽しさ、参加など、多くの利点が報告
● 引用文献(一部抜粋)
6. Low SA, McCoy SW, Beling J, Adams J. Pediatric physical  therapists’ use of support walkers for children with disabilities: a nationwide survey. Pediatr Phys Ther. 2011;23(4):381–9.
9. Eisenberg S, Zuk L, Carmeli E, Katz-Leurer M. Contribution of stepping while standing to function and secondary conditions among children with cerebral palsy. Pediatr Phys Ther. 2009;21(1):79–85.
10. Wright VF, Jutai JW. Evaluation of the longer-term use of the David hart Walker Orthosis by children with cerebral palsy: a 3-year prospective evaluation. Disabil Rehabil Assist Technol. 2006;1(3):155–66.
11. Kuenzle C, Brunner R. The effects of the norsk function-walking orthosis on the walking ability of children with cerebral palsy and severe gait impairment. J Prosthetics Orthotics. 2009;21(3):138–44.
12. McKeever P, Rossen BE, Scott H, Robinson-Vincent K, Wright V. The significance of uprightness: parents’ reflections on children’s responses to a hand-free walker for children. Disabily Soc. 2013;28(3):380–92.
16. Larkin D, Summers J. Implications of movement difficulties for social interaction, physical activity, play and sports. Developmental Motor Disorders: A Neuropsychological Perspective. The Guildford Press New York. 2004.
17. Barnes SB, Whinnery KW. Effects of functional mobility skills training for young students with physical disabilities. Except Child. 2002;68(3):313–24.
18. Koop SE. Scoliosis in cerebral palsy. Dev Med Child Neurol. 2009;51(s4):92–8.
19. Balemans AC, Bolster EA, Brehm MA, Dallmeijer AJ. Physical strain: a new perspective of walking in cerebral palsy. Arch Phys Med Rehabil. 2017;98(12):2507–13.
20. Huang I-C, Sugden D, Beveridge S. Assistive devices and cerebral palsy: theuse of assistive devices at school by children with cerebral palsy. Child CareHealth Dev. 2009;35(5):698–708.
21. Fowler EG, Kolobe TH, Damiano DL, Thorpe DE, Morgan DW, Brunstrom JE,Coster WJ, Henderson RC, Pitetti KH, Rimmer JH, Rose J, Stevenson RD. Promotion of physical fitness and prevention of secondary conditions for children with cerebral palsy: section on pediatrics research summit proceedings. Phys Ther. 2007;87(11):1495–510.
22. Barg CJ, Armstrong BD, Hetz SP, Latimer AE. Physical disability, stigma, and physical activity in children. Int J Disabil Dev Educ. 2010;57(4):371–82.

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