夏といえば【リアルワールド】
夏といえば?
炎天下、コンビニに入るたびに、安堵と背徳感、ウシロメタサが想起される。
なにかに追われている焦燥感、夏はことさらひどくなる。
リアルワールド
親を⚫︎してしまったミミズを、女子高生4人が成り行きでかくまってしまう。
犯した罪からの逃走劇、アイデンティティとの闘争劇、桐野夏生【リアルワールド】
ぼくは石出デン画の漫画を先に手にとり、その後小説を読んだ。
物語におおきく差異はないが、ぼくの中でインパクトが強かったほう、【漫画版】でお話を展開したい。
私的あらすじ
舞台は夏、親を⚫︎してしまい指名手配されるミミズ。
なぜか彼をかくまってしまうこととなる女子高生4人。
ミミズの隣の家屋に住む主人公のホリニンナ(仮名)=山中十四子、今時な女の子のキラリン、性自認に悩むユウザン、知的で厭世的なテラウチ…。
個性的な登場人物群だが、劇中でエキセントリックなパーソンとして扱われることは少ない。
各々、自分を深掘りするターンがあるが、物語の根底に直接影響を及ぼすこともなく「ふーん」程度で済まされる。
【なにがリアルか】
リアルと冠するだけあり、非常に生々しい描写が多数存在する。
【女子高生4人組】
「仲良さそうだけどジッサイは悪口言い合ってんだ」
というぐらいなら納得しやすいと思う。
しかしこの4人は「仲はいいけど運命を共にするほどではない、好きだけど嫌いになる決定打を見つけたい、なんなら嫌われたい」という【イビツ】さが伺える関係だ。
文章中でイビツ、と割り切ったが現実世界の人間関係はどうだろう。
友人や家族に申し訳ないとは思うけれど、ぼくは関係を持つ人たちにそのように思ったことは、ある。
人間関係ともかかわるが悩みとの向き合い方。
登場人物はそれぞれ悩みを抱えている。
キャラ付けのためにもわかりやすいし、それぞれの題材も20年経つ今にも通用するソレだ。
しかし、物語上で彼女・彼らの悩みはひとつも解決しない。
むしろそれぞれ解決しようなんて思ってもなければ「そう生まれたんだからしょうがない」と割り切った前提で話が進む。
読んでいて置いていかれる感触さえある。
※このあたりは当作がメディアミックス手法によるコミカライズのためか、急ぎ足で章ごとの結論を急ぎ足で紹介しているような節もある。
最後に、登場人物の山中十四子を除く皆は、関係性に感情を持たないまま運命を共にする。
より私的な感想
ミミズとキラリンが共謀して逃げる最中にラーメン屋に行く、の節がある。
「オカシしか食べないコ」キラリンが逃走の最中、行き着くラーメン屋でうめえとがっつく「トッピングでぐちゃぐちゃにしたとんこつラーメン」
以降ずっと食べてみたかった。
高校生の夏、新宿の駅前ではじめてとんこつラーメンを食べた、もちろんトッピングでぐちゃぐちゃにして。
劇中ではあんなに美味しそうだったのに、食べてみたらあっけなく、さした感想も生まれなかった。
読了した後にぼくに訪れた月並みな話。
よくあることだけれど、大学1年生の頃が一番無気力な夏を過ごした。
東京に出てきたのはいいけれど目標が定まらない、思ったより大学は面白くない、バイトは決まらない、ツレの仕事が終わるまでの時間をパチ屋か図書館で潰す。
家はクーラーがない、けど涼しさを得るには都会は困らない。
作中ではミミズがコンビニを「好き」と表現する。
ぼくはコンビニを好き嫌いで考えたことがない。
なにもない、の代表者として描かれた「ミミズ」よりもぼくは自我がないのかもしれない、と焦った。
劇中、主人公であるホリニンナもぼくのようであった。
偽名を語る、たったそれだけの自分。
きっと主人公に据えられるだけあって大多数がホリニンナだ。
最終章、傍観者であったホリニンナは偽名を捨て山中十四子として意を決する。
先にお話ししたよう、山中十四子は彼らと運命を共にしていない。
物語がカタルシスに辿り着いても、それから何年も夏のコンビニとラーメン屋にはぼんやりとウシロメタサがついて回る。
以上が、ぼくの「夏といえば?」に対する小作文。
あまりネタバレやあらすじがweb上にもないものだから、ではぼくもとぼかしたいがあまり抽象的な感想文となってしまった。
今となっては入手が難しい今作だが、全二巻と短く読みやすいのでぜひ。
あと、イシデ電センセイの作品群にかんしては本人のTwitterを見るべし。
アベソラタロウ
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