古道具を楽しむ #5 プリミティヴアート 願うはイタイ
僕は日本の骨董商(古道具屋)
僕の経営する実売店"道具屋ホリデイズ"には基本的に日本国内のモノしか展示・販売していない。
ただし僕個人の興味関心は国内に限っているわけではない。
この度縁あってアフリカンアートのほか諸国民芸の数点を買取させていただいた。
プリミティヴアート
プリミティヴアート、という言葉はご存じだろうか。
美術史において非西欧的な"未発展な民族による文化"の再発掘・再評価の動きがあった。
アフリカンによる彫刻などはまさにその対象である。
素朴で、飾りっ気のない生命力のカタマリは見る者の心を突き動かす。
それがプリミティヴアートと称される美術群の魅力。
西欧諸国で成形された美術史の中で「非西欧的(非文明的)だけど美しいよね~」とのたまいカテゴライズする"エゴイズム"はこの際置いておいて、誰しも未分化の文化には焦がれる。
ンキシ
この度買い取らせていただいたモノの中でひときわ目立つ、悍ましい造形の像があった。
これはンキシと呼ばれる像。コンゴの一部地域にて確認できる、呪術にもちいられる彫像だ。
ンキシとはバコンゴ民族の伝承。
「精霊が内在する物質」を指す言葉だそう。
(翻訳サイトによってまちまち)
つまりこの像は精霊の具現化。
ンキシ像は「精霊への願いと、その成就」=「精霊との契約」のために製作される。
願いの内容は自由なので幸せを祈ることもあれば、誰かの不幸を望むことも本人次第。
また、像の造形も動物(ワニなど)の個体も確認できるそう。
ただし見た目の悍ましさとは裏腹に健康や幸せの成就のために作成されることが一般的な模様。
こちらの像の内部には風化した布のようなものがうかがえる。
"誰かの所有物の一部を入れてその人の健康や幸せを祈る"というのは比較的通例なようで、おそらくこの風化したモノの正体は腰巻や帯などではないだろうかと思われる。
願いの姿
古いモノとの向き合い方の上で、僕はこの言葉を大切にしている。
モノを手にして追体験することは叶わない。
ただし、手にするだけで1万キロ先の数十年、数百年前の想いだって理解できる(かもしれない)。
それは骨董・古道具と呼ばれるものはもちろん、古いモノ全般や美術・工芸品に共通する魅力だ。
こちらのンキシ像の出身地は遠く10,000km以上先。
制作時期のおそらくは100年近く前。
僕は毎日のように仕事を通じて、世界旅行と時間逆行を繰り返して、誰かを理解しようとし続けている。
人にとってプリミティヴ(原始的)な感情、願い。
なにかを願って彫像に釘を打ち続けた名も知らないバコンゴ族の誰か。
毎日のようにnoteにてデジタルタトゥーを残す僕。
なにかを願う姿はいつの時代もこんなにもイタイ。