スティーブバノン:分裂すれば倒れる【前編】
2024年大統領選挙の前哨戦といわれるアメリカの中間選挙が今年11月に行われます。それに向けてひとりの男が暗躍しているといわれています。スティーブ・バノン。トランプ政権を誕生させた立役者であるとともに2020年の選挙結果を覆す計画を企てていた疑惑がもたれています。今回はスティーブ・バノンのCNN特集を書き起こします。
ナレーション:バノン氏は今年の中間選挙でトランプ支持者の議員を勝利させるため、ある仕掛けを準備をしているとみられています。ここはジョージア州郊外の選挙区。今回初めて共和党から立候補する女性と選挙区管理スタッフを取材しました。
投票管理者ステイシー・アルティエリー:投票を管理する立場から現状に不満をもつなら政治に参加するべきです。
ジョージア州下院議員候補ウェンディ・アーレンキール:彼女と私はいったい何が起こっているの?とよく話し合いました。この国、子どもたち、そして経済に関してです。
ナレーション:ウェンディ氏とジョディ氏は共に共和党員です。ウェンディー氏はジョージア州の下院候補として初出馬。ふたりともある人物に影響を受けました。
共和党員 ジョディ:チャンネルを変えたらどこかで見たことがある人物だなと思ったんです。それがバノンさんでした。
スティーブ・バノン:今は10年に一度ではなく生涯に一度と言える左翼グローバルリスト達を破壊するチャンスだ。
ジョージア州下院議員候補ウェンディ・アーレンキール:バノンさんは “ただ文句を言うのではなく市民も政治に関わるべきだ” と言ったんです。私はスティシーに何か地元でできることをするべきじゃない?って言ったんです。
記者:彼を以前から知っていましたか?トランプ氏との関りとか。
ジョージア州下院議員候補ウェンディ・アーレンキール:いいえ、あまり・・・。
記者:ホワイトハウスでのことは?
3人同時に:いいえ(笑)
ナレーション:スティーブ・バノン氏は一度も議員になったことはなく、議会が認めた正式な役職でもありません。しかし今のアメリカの政治ではトランプ氏の次に影響力を持っている可能性があります。
スティーブ・バノン:我々は公正で自由で透明性のある選挙を信じている。下院議会で80~100議席を取るだろう。圧倒的勝利だ。君たちは今政界の再編成を目撃している。議席を勝ち取ったら100年は我々の支配だ。
ナレーション:バノン氏は毎日放送している自らの番組「ウォールーム」でその政策を述べています。あらゆる媒体で放送され、政治ポッドキャストではトップ3に入ることも。
スティーブ・バノン:この番組を始めた理由は予備選挙と11月までに照準を絞って民主党を崩壊させるためだ。
ナレーション:この民主党を破壊する戦略とは極右人員を選挙管理スタッフに仕立て選挙をコントロールするとCNNはみています。
スティーブ・バノン:重要な開票は我々が行う。選挙管理スタッフを送り込むからだ。
ジョシュア・グリーン(「バノン悪魔の取引」著者):2020年の選挙の崩壊を防いだのは共和党員の選挙管理スタッフが有効票を無効にはしないと言ったからです。バノン氏はこの状況を見て2024年にトランプ氏が再出馬したときのために選挙管理スタッフにトランプ支持者を配置したい、と言ったのでしょう。
ナレーション:バノン氏は全て合法的に集計されることを望むと発言していますが、それは大統領選挙でトランプ氏が勝利したという独自の主張が前提です。バノン氏は多くの新人政治家を擁立し、共和党への影響力を強めようとしています。選挙の陰謀論を信じる極右の議員候補者や連邦職員までバノン氏の番組「ウォールーム」に押し寄せています。
デヴィッド・シャリアン(CNN政治ディレクター):どんな生活をおくっていて何故出馬を思い立ったのか?という極端な候補者ばかりですが、バノン氏は共和党内に彼らの居場所を作りました。
ナレーション:100人を超える極右思想の政治家がバノン氏の番組に出演。予備選挙では20人以上がすでに勝利しました。
ジョシュア・グリーン(「バノン悪魔の取引」著者):バノン氏の考え方はどうすれば武器にできるか。このエネルギーをどこにむければ効果的なのかというものです。彼は裏で暗躍するダース・ベイダーのように見られたいんです。
ナレーション:2012年、極右サイト「ブライトバート」を買収して以降 バノン氏は一度に数百万人の心を動かす方法をみつけ、それが政治に活かされる時がおとずれます。ドナルド・トランプ氏が現れたのです。
ドナルド・トランプ:我々のリーダーたちは愚か者だ。政治家たちは愚か者だ。メキシコ政府は悪い連中の面倒をアメリカに押し付け送り込んでくる。
スティーブ・バノン:ついに政治家の専門用語とは違う言葉で語る人物が現れた。彼は非常に不完全だが強力な弾丸だ。
ナレーション:バノン氏はトランプ氏を銃弾のように使い、長年にかけて準備を整えたネットのフォロワーたちに送り込みました。
ジョシュア・グリーン(「バノン悪魔の取引」著者):一日中、ネットに時間を費やす数百万人の人々がターゲットでした。バノン氏は彼らのエネルギーをトランプ支持の「ネット集団」を築くために利用すると言っていたんです。
ナレーション:トランプ氏は共和党の新たな道を切り開き、世論調査で優勢だったヒラリー・クリントン氏と対峙しました。大統領選まで3ヶ月をきったとき、この型破りな弾丸候補者は自身の選対本部長にスティーブ・バノン氏を就任させました。バノン氏はトランプ氏の標的をひとりに集中します。
ブラッド・パースケール(トランプ氏選挙活動の元マネージャー):ヒラリー氏への攻撃は強力な切り札でした。
ナレーション:ブラッド氏はトランプ氏の2016年と2020年の選挙戦に参加。最前線で全てを見ていました。
ブラッド・パースケール(トランプ氏選挙活動の元マネージャー):我々はヒラリー氏の100倍近く広告を出しました。CM放送の許可を出せるのはバノン氏だけです。彼は全てのテレビCMをチェックしてまだ怒りが足りないと修正を迫りました。思い切った言葉に変えろと。
ナレーション:バノン氏の戦略が功を奏し、大逆転でトランプ政権が誕生したのです。バノン氏は主席戦略官 兼 大統領上級顧問になりました。
サラ・マレー(CNN記者):トランプ氏の一年目は混乱状態でした。バノン氏を含めてホワイトハウスに来た人全員が政治は“素人”で彼はむしろその混乱を利用していたんです。
ナレーション:バノン氏は大統領令によって重要な国家安全保障会議にも出席していました。通常は最高司令官や上級閣僚など限られた人しか出席できません。
スティーブ・バノン:我々の選挙は国家をまとめるものではない。
ジョシュア・グリーン(「バノン悪魔の取引」著者):ホワイトハウス内のほとんどがバノン氏を嫌っていました。性格が激しいし、気むずかしいからです。自分がいかに素晴らしく、敵がいかに悪いかをマスコミにぶちまけていました。それが彼がホワイトハウスから追い出された理由です。
ナレーション:雑誌「タイム」はバノン氏を偉大な操り人と名付けます。彼は暗黙のルールを破り、トランプ氏よりも注目されてしまいました。トランプ氏との家族との争いも絶えず、バノン氏は解雇されます。
マイルズ・テイラー(元トランプ政権 国土安全保障省首席補佐官):彼はホワイトハウスを離れた時 安堵した人も多かったと思います。
ナレーション:2020年の大統領選挙の前にバノン氏は既に“票は盗まれている”と語っていました。しかし大統領選の3日前のトランプ氏敗北後の計画を語るバノン氏の録音がリークされました。
スティーブ・バノン:トランプは勝利宣言をするんだ。いいか 彼は勝利を宣言する。彼が本当の勝者とは限らない。ただ自分が勝ったと言うだけだ。
ナレーション:選挙の結果に関わらず勝利宣言を!トランプ氏は自分が勝ったと事実とは異なる主張をします。バノン氏はその主張を繰り返し援護。アリゾナ州でバイデン氏が勝利するとバノン氏は「票は盗まれた」と地元の選挙管理スタッフに怒りをぶつけます。
デヴィッド・シャリアン(CNN政治ディレクター):バノン氏はバイデン氏の勝利をわかっています。しかし彼は選挙の直後に人々の怒りをあおる事が最も効果があることだと確信していました。疑惑の種をまき、運動を起こすんです。
ナレーション:バノン氏はその地位と影響力を“盗みをやめろ”運動に利用しました。抗議運動を金銭的に支え、水面下では2021年1月6日を新たな計画の日と定めていました。
スティーブ・バノン:“グリーンベイ・スウィープ”だ。
ナレーション:アメフトの戦略「スウィープ」にたとえられたこの計画は、右派議員に選挙結果承認拒否を呼びかける作戦でした。
スティーブ・バノン:ペンスが投票結果を認証せず、州議会へ差し出せば選挙は無効だ。
ナレーション:バノン氏の番組「ウォールーム」では1月6日までに37の番組でペンス副大統領に言及しました。バノン氏のこの計画は現在、議事堂襲撃事件の調査対象になっています。
スティーブ・バノン:ワシントンから生放送です。皆さんは無血クーデターの最も小さな支部の作戦本部にいます。
ナレーション:計画成功のためにリスナーへ議員への圧力を求めています。
スティーブ・バノン:一歩ずつ 一日ずつ 我々は全員1月6日に向けて近づいている。
ナレーション:承認阻止は「アメリカを救う」ための行動だと訴えます。1月5日、バノン氏とトランプ氏は2回電話で話しています。その後バノン氏はトランプ氏側近たちの会議に参加。議会の召喚状による選挙結果の承認を阻止するため議員たちを説得するためでした。
スティーブ・バノン:想像を超えることが起こるだろう。けた外れのことが起こる。「波乱を覚悟しろ」だ。「ウォールーム」の仲間のおかげだ。
ナレーション:翌1月6日、暴徒が議事堂の外に集まる中 バノン氏は「ウォールーム」のスタジオから計画を副大統領へ向けて発信しました。
スティーブ・バノン:プレーの指示は出した。マイク・ペンス計画の実行を。クォーターバックのボールを受け取れ。
ナレーション:ペンス氏は拒否。ペンス氏が命の危険にさらされる中、怒った暴徒たちは建物内をさがしますが彼は裏階段から脱出。副大統領は憲法を守り、歴史はこれはクーデターの失敗と記録しました。
【後編に続く】