新年初
年が明けた!2023年となった!真事(マコト)は2022年12月31日23時59分59秒に別れを告げて2023年1月1日0時00分00秒に歓迎の挨拶をした。世界の空気が一年分の濁りを取り払い新鮮な空気に変わったような気がした。真事は年明け直前で呼吸を止めていたのを一気に吸い込んで吐き出した。"新年初呼吸"だ。そして次は、閉じていた目を開けて外を見回す。"新年初景色"そして続けざまにぃ〜!?大きく息を吸ってから「あ!」と声を上げた。ふふふ、これが"新年初発声"まだまだ行くぞぉ〜!"新年初歩行" "新年初笑い" "新年初座り" "新年初蕎麦啜り"(これによって"新年初食事"も同時達成)"去年は一回もやってなかった新年初腕立て伏せ" "新年初SNS" "新年初クソリプに失望" まだまだ序の口!さぁ次は新年初…………
……おっと、そうこうしている内に外も明るくなって来たな。"新年初徹夜"だな。そろそろ行くか。
真事はコートに袖を通して("新年初"以下略)冷蔵庫から饅頭等の必要な物をを袋に入れて外に出る。扉を開けた途端に新鮮な冷気がそっと身体を包み込む。
"新年初外出"だな。周りは普段と違いしんと静まり返っており自分の足音とただどこからか聞こえる鳥の鳴き声だけが街に鳴っていた。ふと歩道の向かいから青年が歩いてくるのが見えた。私は名も知らぬ彼とすれ違う際に軽く会釈を交わし心で"新年初すれ違い"と考えながら変わらぬ速度で歩を進める。あらゆる"新年初"を体験しながら歩き続け、目的のあの場所まで向かう。しばらく歩き少しだけではあるが空気に暖かみが増して来た頃、目的の場所まで辿り着いた。ここは街外れの小さな霊園。私は墓石の並ぶ道をかけ抜け目的の石の前に止まる。そこで私は立ち止まり、お供え物を置いてから手を合わせる。
「人生初お参り」私は少し前にこの下で眠る事になった彼女に向かって小さく呟いた後
"新年初君との挨拶"と補足した。
……君が居なくなってから、少し過ぎたけど、ようやく新たに生活を始める決心が付きました。元気でやってます、だから心配しないで下さい。貴女の分まで一生懸命生きようと一つ決心をしました。
真事の周りでは彼女が静かに耳を傾けているようにそよそよと風が吹いている。
どんな事にでも挑戦して、それを忘れないで記憶して、死ぬまで思いつく限りの事をとにかくやって行こうと思ってます。どんな些細な事でも構わないから。それで私は、生きていると証明しようと思う。君の居なくなったこの新年も、その先も。
真事はにっこりと笑い彼女にぺこりと頭を下げてから手を振って別れを告げた。「また夏に"今年二度目のお参り"に来るよ」真事は振り返って霊園を後にした。少しして自分の目が濡れている事に気がついた。
どうやら"新年初涙"らしい。ごしごしと目元を拭ぬがどんどんと溢れ出してくる。止まらない涙を必死に堪えながらも真事は歩き続ける。澄み渡った空は冷たく、それでいてどこか暖かい風を運んでいた。