ワタシは宇宙人 「劇場の開演」 #26
結婚して間もなく、わたしは新しい命を宿していた。自分が母親になることがとても不思議な気持ちだった。実感が湧かなくて夢を見ているような感じだった。
母親になるってどんな気持ちなのだろう。
しかし、まだ気付いていなかった。
妊娠してからとっくに始まっていたのだ。わたしの「弱り目に祟り目劇場」が。
それからわたしはツワリが始まり、後に貧血に悩まされた。
朝、起きてからの1発目の吐き気は最悪だった。起きるとすぐ洗面台に走る。嘔吐いても苦い胃液しか出なかった。それが毎日毎日続く。
妊娠4ヵ月。
突然に下痢のような痛みが下腹部に走った。一定のリズムで来る痛みがドンドン強くなり、これは何かおかしいと思い病院に行った。
切迫早産の危険があり即入院だった。何とかお腹の赤ちゃんは無事だった。
妊娠するとはこんなに大変な事なのだろうか
しっかり大きくなって、元気に生まれて欲しいといつも考えるようになった。
絶対安静の入院生活。
病院ではトイレも車椅子で、寝るときも起きる時も看護師を呼ばなければいけなかった。必要最低限の動きしか許可が下りず、誰とも会話もなく、ただ与えられた大量の薬を飲んでいた。
こんなに薬を飲んで大丈夫なのかな…
お腹の赤ちゃんへの影響が不安で仕方なかった。それと動けない反動から、走り回りたくてずっとウズウズしていた。
入院して14日が経ち、わたしはストレスでずっと胃が痛んでいた。
そしてあれだ。
胃カメラ検査。
妊娠中なので胃腸の動きを抑える注射は出来ないと言われ、そのままカメラを喉に通された。
最悪だった。
やっと落ち着いてきたお腹の赤ちゃんが、生まれてしまうのではないかというくらい嘔吐いた。激しい嘔吐きに苦しみ、涙で全くモニターを見ることは出来なかった。
胃潰瘍だった。
その後、先生には強く止められたが自宅での「安静」の約束をしてわたしは無理矢理退院した。病院にいては、逆に病気になると思った。
妊娠6ヶ月目。
切迫早産の危機も乗り越え、その頃のわたしは酷い貧血で、毎日毎日病院へ注射をしに通っていた。毎日針を刺していると血管は硬くなり、やがてどの血管も針を刺すのが難しくなった。最後は足の甲の血管から注射をしていた。
その時期、わたしはいつも氷をガリガリとかじっていた。氷が食べたくて食べたくて我慢できなかった。暇さえあればいつも氷をかじっていた。
なぜか氷をかじると幸福感に満たされるのだ。
何年も後になって分かった事だが、これは氷食症という病気だったらしい。鉄欠乏性貧血の人に見られる事が多いらしい。が、当時のわたしは知る由もない。
結果、わたしのつわりと貧血の状況はあまりにも酷く、またまた1週間の入院になった。とにかく愛する氷とはしばしおさらばだ。
退院した時、わたしはすっかり氷の禁断症状は無くなっていた。全く未練はない。
ツイテない時は、とことんツイテないのがわたしだ。そしてわたしの弱り目に祟り目劇場には、まだ続きがある。