ワタシは宇宙人 「未来への約束」 #32
先生の口からは「2つのうちどちらかの病気の可能性があること」が告げられた。
・先天性白内障の可能性。ただし先天性白内障の場合は、他に合併症が起きている可能性があること。
・網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)という眼の悪性腫瘍。小児癌の1つである可能性。この場合は、覚悟が必要だと言うこと。
田舎ではあまり前例がない為、すぐにでも大学病院で詳しい検査を受けることを勧められた。
全身の血の気がスッーっと引いていくのが分かった。
先生、覚悟が必要とはどういうことですか…。
先生は多くを語らずこう言った。
そうであれば、これはこの子の宿命だから。
頭の中が真っ白になった次の瞬間、取り乱しそうになる自分を押し殺し、正気を保つ事が精一杯だった。
子を失う覚悟など、出来るバスがない。
待合室に戻ると娘を抱きしめて泣いた。
失いたくない。
神さま、どうか、娘を助けてください。
自分の命を引き換えに、我が子を助けることが出来るのなら喜んでそうしたい。
親とはそういうものだった。
その夜、夫に病院での全てを話した。彼はわたしとはいつも正反対だ。こんな時も騒ぐ事なく、黙って聞いていた。
ハッキリ決まった訳でもないのに、あれこれと騒いでも仕方ない。
そう言って娘を抱くと、いつもと何も変わらずに娘をあやして笑わせた。
その日は考えたくない事ばかり考えてしまい、一睡も出来なかった。
翌日、大学病院の先生から自宅に電話があった。昨日、眼科の先生が大学病院に直接連絡を入れてくれていたようだ。
大学病院の先生からは今後の検査の内容、そして日程について話された。年末で病院が休みになる為に、年が明けてすぐに検査する事に決まった。
恐れや不安に焦点を当てないようにすることが、今のわたしには必要だった。
誰も不幸になる為に生まれて来たわけじゃない。だから、娘や自分達の人生に起きることの全てを信頼しよう。
自分に言い聞かせたこの言葉が、暗闇の中の心を照らした。
わたしは子どもを失う覚悟ではなく、全てを信頼する覚悟を決めた。結果がどうあろうとも。
わたしは震える手を開き、小さな小さな娘の手を重ねて未来へと約束をした。
あなたが大きくなったら、いつか2人で温泉旅行に行こうね。そしてたくさん綺麗な景色をみようね。約束だよ。