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キャストQ&A: 安達晴信役フェオドール・チン編 抄訳

日本時間で2020年11月22日、『Ghost of Tsushima』境井仁役ダイスケ・ツジ、典雄役アール・キムの合同配信において、安達晴信役フェオドール・チンを招いてのトークイベントが行われました。ゲームが大ヒットしたというのに、パンデミックの影響でろくに会えないキャスト仲間とゆっくり話がしたい! というふたりの意向から始まったこの企画、「Cast Hangout(キャストのたまり場)」と銘打たれているのですが、フェオドールさんの気さくな人柄のおかげかぶっちゃけ度高め、かつかなり「(笑)」マークの多い鼎談に仕上がっておりました。以下面白かったところをちまちま訳して参ります。
※ゲーム本編ネタバレあり


◆かの安達義信が五代の末裔・安達晴信見参

今回は前置きなしで、『Tsushima』冒頭の安達殿登場(そして退場)シーンから開始。終了と同時に現れた画面では、フェオドール・チンがキャップにTシャツ姿でにこやかに笑っている。

E: はいみなさんどうもー! 今日のゲストが来てくれてます。(フェオドールの画面を指差して)フェオだよ、毎回やってるけど見て! この方が来てくれましたよー!

D: 安達殿ってまさに全ての始まりになったキャラだよね。

F: 「燃えざる者」だな(ファンタジードラマ大作『Game of Thrones』の主要キャラクター、デナーリス・ターガリエンの異名のひとつ。炎に晒されても焼死しないという設定)。いや〜このゲーム全体が私から始まった感はあるよねえ?(笑) 蒙古の連中ときたら、なんの理由もなく。

D: ただフェアに戦ったとしても、勝てる人はいなかったろうけど。

F: ないよなあ、うん。

E: (イベントシーンのクリップから)この画面に移行するつなぎの間に話してたんだけど、『Tsushima』の次作がどうなるかについての僕の予想は、安達晴信殿の冒険をテーマにした前日譚なんだよね。ダイスと僕的には、ゲームの間中みんながそのカッコ良さを語り草にしてるぐらいだから、安達殿はきっと伝説的な戦士だったに違いないってことになってるんで。

F: ああ、「マンダロリアン・オブ・ツシマ」ね(『マンダロリアン』は、2019年作。『スターウォーズ』シリーズの世界観で孤独な賞金稼ぎを主人公とするSFアドベンチャードラマで、『Tsushima』同様黒澤明の影響が色濃い作品。現在Disney+で配信中)。

E: マンダロリアン・オブ・ツシマか、実現したらどうなるんだろ。

D: マンダロリアン・オブ・ツシマ(笑)。あ、ファンが作ったやつで、そういうYouTubeのビデオかなんかがあるんじゃなかった?

F: そうなの? 知らなかった。

E: クレジットつきのオープニングシークエンスを、ファンの誰かが作ったんだったっけ。僕も聞いたことある、見なきゃ。
(筆者注: アールが言及しているような内容のものは見つからなかったが、劇中曲「Jin Sakai」をマッシュアップした動画は発見できた)

F: 『True Detective』(2014年よりHBOが制作している犯罪推理ドラマ。件のパロディ動画は特に、マシュー・マコノヘイが主演した第一シーズンのオープニング・シークエンスを題材にしており、『Tsushima』スタッフ、キャストがこぞって絶賛していた)のやつなら観たんだけどな。

E: 『True Detective』のやつね!

D: あれはすごい出来だったなあ。


◆幻の打ち上げパーティー

D: フェオ、まずはチャット欄のみんなにもシェアしたい話があるんです。パンデミックとかロックダウンとかが始まる前、最後にしてたことのひとつっていうのが──こういう状況に至るまでに、みんながハグや友達と会うのはどうしようか、って盛んに話してた時期があったでしょう? (地獄の手前の)辺獄的な段階が。その時期で最後に覚えてることのひとつが、あなたのおうちで『Ghost of Tsushima』パーティーを開こうとしてたことなんですよ。

E: そうそう、ダイスからその件でメールが来たの覚えてる。

D: Covidのニュースを聞くようになったんで、まだ安全そうな今のうちにやっておくべきじゃ、って考えてたんだよね。

F: ロックダウンの頃合いが来たって話になる1週間か、1週間と半くらい前のことだったねえ。

D: (しきりに頷いて)だったと思います、ええ。

F: あの時期、ちょうどそのパーティー用の必需品を仕入れにコストコで買い物してたんだよなあ。

D: (勢いよく天を仰いで) ああ、そんなあ!

F: 周りの買い物客がトイレットペーパーを抱えるようになってて、「なんでみんなトイレットペーパー持ってるんだ? 何だろ、何か起こってるんかな?」と思ってたんだった。で、ギャグのつもりでコロナビールをでかいケースで買ったりもしててさ。

D&E: あああー!(悲痛な慨嘆の声)

F: その時には笑えるネタになると思ってたんだなー。今ならまだウケてもらえるぞーって。

D: で、そのタイミングで僕が軽い風邪をひいて、出席を見合わせることになってしまって、本当に申し訳なく思ってたんです。

F: そりゃ君が賢明だったからさ。だろ?

D: コロナではなかったんだけど、一応ね。

E: その時のダイス、僕とやりとりしながら「パーティーはちゃんと開催されるから、君は行きなよ」って言ってくれたんだけど、僕は「会場にダイスいないんだったら、行けるかどうかわかんないぃ!」ってなってたからね(笑)

(一同笑い)

ちなみにアールは、前回の「Cast Hangout」ゲストだったゆな役スマリー・モンターノとの初対面と同じ経緯で、『Tsushima』撮影前にフェオドールとも面識を得ていたらしい。まだプロジェクトについて箝口令が敷かれていた時期、キャスティング・ディレクターのアイビー・アイゼンバーグの誕生日パーティーでさりげなく引き合わせられたのだという。つまりは、

E: 「あらあ、あなたね! こちら、私がたまたまキャスティングした作品に出演するハンサムな紳士。そしてこちらも、私がたまたまキャスティングした作品に出演する、他のハンサムな紳士。もしかしたらふたりは何かで一緒になるんじゃないかなぁ。じゃあ私、もうここから立ち去るわねえ〜?」っていう例のアレ(笑)。

かねてから彼のファンだったアールはつい早口で思いの丈をまくしたて、「ファンボーイング」をしてしまったそうだ。非常に楽しいパーティーだったとのことだが、ツジ氏は多忙で欠席していたらしく今になってくやしそうな様子をしていた。


◆フェオドールからの質問

F: あ、インタビューに入る前にちょこっと聞きたいことがあるんだ。ゲームを実際やってた時にふと気付いたんだけど、君あの仕事に何時間くらいかかってたと思う?

D: 僕ですか?

F: うん、スタジオ仕事であれ、モーキャプ撮影であれ。だってさ、文字通り100時間じゃきかないんじゃない? ずっと出ずっぱりなわけだし。

D: 100時間以上は間違いないですね。何ヶ月かはひと月1セッションのペースでやってたんですけど、忙しくなった(制作期間の)最後の一年くらい、時には4時間、4時間で計8時間のセッションを月曜から金曜までやってたので。その週だけでもう40時間か。

F: というのも、(ゲーム内で)ハイクを詠むたびに思ってたからなんだよね。「こんな量の別々のセリフを読まなきゃなんなかったのか!?」って(笑)。

E: 本当にねえ。

D: ええ、そうなんですよね(笑)

F: ビデオゲームの現場ってどんな感じかわかるだろうけど、仕事してるうちに「あれ? 俺何言ってるんだっけ? これって俺だったっけ?」ってなってくるんだよね(笑)。

E: 「なにこのセリフ? この人たち誰? このぼんやりした顔の集団はなんなわけ? なんかあっちに体転がってるし」みたいな(笑)

D: いやあ、嬉しいな。そういう気持ちになるのが自分だけじゃないとわかって(笑)。たとえば今日の、ほんの短い時間のセッションでも、終わり頃になると「これって僕の口がたててるだけの、ただの音だよな……」ってなってきてたんで。


◆メインキャストの『Tsushima』クリア率

PS4は去年、奥さんからのクリスマスプレゼントとしてもらったというフェオドール。『Tsushima』はちょうどよいタイミングで発売になったわけだが、見事にどハマりしたという。

F: じゃあやってみるかな、くらいの気持ちで始めたら、文字通り連日、しかも一日中、1ヶ月後くらいにしぶしぶクリアするまでプレイしっぱなしだった(笑)。終わってしまうのが惜しすぎて。すごい傑作だよね? プレイは下手くそなもんだから、一番簡単なイージーモードでやったんだけどさ。

D: ああ、そうなんですか。

E: ダイス!(笑) いまちょっと上から目線になったな(笑)

D: (笑) (筆者注:笑いながら一応首を横に振っているツジ氏は、万死モードをクリア済みである)

F: わはははは!(笑) コントローラーの形がどうもね、脳がうまく処理できないんだよー(笑)

しかしこのあたりで、ツジ氏がなにげに重大な事実に気付く。

D: もしかすると、『Tsushima』を最後までやりきってるゲストってあなたが初めてかもしれないですね。

E: ダイスと僕以外ってことなら、そうなる気が(笑)

D: そうだあー!(爆笑)

F: これまでのゲストってスマリーと、ローレン(・トム、政子役)、あと……

D: カレン(・ヒューイ、百合役)、それにレオナード(・ウー、竜三役)。カレンはプレイしてみてましたよ。

F: へえ、レオナードはやりそうだと思ったけどなあ。

E: レオナードはやらないですね、ゲームにハマるタイプでもないし。

D: 娘さんもいるしね。それに犬も。猫だったっけ? いや犬だな。

E: 多分みんなね、人生の真の責任を担ってるから(笑)

F: そっかそっか。いや、でもだからこそ、今日は君らに再会すること以外にも楽しみにしてきたんだよ。だってほら! やっとゲームの話ができる人に会えたわけだから!(笑)

D: そうですよー、ぜひ話しましょうよ!! 好きな場面のこととか。


◆侍の道か、冥人の道か

F: ゲームの制作をしてる間に私が見た感じでは、テーマは仁が誉ある侍の道か、コソコソしたニンジャの道のどちらを行くかの決断なんだなと思ってたけど──

E: (ダブルクォーテーションマークのジェスチャーをしながら) 「ニンジャ」は当時まだ発明されてないですよ。

D: うん、ニンジャじゃないね。

F: そうだそうだ、厳密には。しかしだねぇ、自分でプレイしてみると、もう明らかに(笑)敵地に忍び込んで背後からひと刺ししたり、首を切り落としたりするのが好きでたまらなかったんだなこれが(笑)。もうすこぶる楽しい!

D: (笑)

F: なんで声を上げて敵を呼ばわりたいの? 知ったこっちゃねえやって勢い(笑)。むしろ屋根の上から飛び降りて襲いたいわけ。

E: 頭上からの闇討ちに成功するともう一人、さらにもう一人も刺せたりするし!

F: いやあ、まあ言っとくと、そんなこんなでしばらく妻を『Tsushima』未亡人も同然にしちゃったわけだけどね。

D: (笑)

E: ジェシカ、申し訳なーい!(笑)


◆モーキャプ撮影中の思い出

D: シェアできる範囲で、撮影現場やボイスオーバー収録ブースでの思い出なんかはあります? とくに思い出深い出来事とか。

F: ああ、たくさんあるよ。

ちなみにコトゥン役パトリック・ギャラガーから「ロード・ヒバチ(英語では「炭火焼き」のことをヒバチと呼ぶ)」というあだ名を進呈されたエピソードはツジ氏がすでに配信で披露してしまったので除外とのことである。安達晴信役、琵琶法師役の他、さまざまなアディショナルキャラクターとの兼ね役をこなしたフェオドールにとって、モーションキャプチャー撮影のすべてが楽しい時間だったそうだ。

F: 私にとっては、いち役者として困難極まりない仕事だったよね。アホみたいな格好してる自覚があるのに、クールなサムライのフリしなきゃならないんだから(笑)

D&E: (笑)

F: だってそうでしょ! ピンポン玉みたいなのがあちこちについてるし、あのヘルメットもちょっと苦痛ではあったし。あれどんどん重くなってくるの、二人も知ってのとおり。

E: あのヘルメット、僕は頭が物理的にでかいせいかしょっちゅうレネー(・ビーズリー、キャラクター・テクニカル・アーティスト)に直してもらわなきゃならなかったんだよね。身動きしたり、役にめっちゃ入り込んでたりすると「アール、アール。あの、ちょっとカメラの位置直さないと」って言われて(笑)。で、レネーの身長と僕の身長だと直すのも大変だから、「じゃあもう膝まづいちゃいますね」って感じでやってた(笑)

F: 私の場合、セッションの大部分がダイスケ、パトリック、あとエリック(・スタインバーグ、志村役)と一緒だったから楽しかったよ。エリックもまた愉快な人なんだよなぁ(笑)

D: 愉快なこぼれ話としてはひとつ、もうゲームが発売になってしばらく経ってるから話していいと思うんだけど、あなたはいっとき正(仁の実父、英語版での名前はカズマサ)の体の動きも担当してましたよね? イベントシーンのひとつで。

F: そうだっけ? (モーキャプ撮影は)色々やりすぎてよくわからないなぁ。ほら、私は基本的に大部屋俳優みたいなモンで「今日はこれやってもらいまーす」「はいはい、何なりとー」って感じだったから(笑)。「対馬の赤シャツですね」ってのは、確かレオナードに言われたんだったかな。

(※筆者注: 「赤シャツ」はスタートレックシリーズに端を発するストックキャラクター用語。赤シャツを着たエンタープライズ号の保安員が、登場もそこそこによく死んでいたことから、日本の時代劇でいうところの「斬られ役」に近いニュアンスで使われている)

D: (笑)

F: 燃やされ、殺され、まあ悲鳴をあげては倒れすることに時間の大部分を費やしたよね(笑)


◆日本語監修ユミさんの功績

F: ボイスオーバーに関しては、彼女のおかげで──名前はユミだったよね? 日本語固有のセリフを監修してくれた。こういう場合はいつもなら周りが白人だらけだから、多少あやふやでも誤魔化せるんだけども(笑)

E: (爆笑)

F: アジア系俳優の奥の手としてあるからね、早口で押し通すっていうやつが(笑)

E: 「あの人らどうせ中国語と日本語の区別なんかついてないもんな、一緒くたにアジアの言語に聞こえてるだけだし」ってね(笑)。でも違うんだよ、ユミがノーパソ構えてメモをとってるから。

F: そうなんだよ、収録ブースにも入ってくれてねえ。たとえば「タダヨリ」って言葉を言うと、んー? って(ユミさんの首を傾げる仕草の真似)。次に「タダヨーリ!」って言ったらそれはちょっと……みたいなね(笑)

D: そうそう、そういう顔してた(笑)

E: すごいユミっぽい!(笑って、全員で発音がしっくり来ない時のユミさんの真似)

F: いつもそんな感じで礼儀正しいんだよ。たぶん日本の文化的に「それ間違い!」ってハッキリ指摘したりしないんだな。(もう一度首を傾げて)「えーそうですね、こうすればもっと……」って。

E: だね、いつも「んー」がきてた(笑)

(ひとしきり大笑いする一同)

F: で、どれだったかは思い出せないんだけど、伝承クエストのひとつで、5カ所の町だかどっかを回るやつ──

D: ああ、鎧のやつだ。

E: 吾作の鎧だね。

F: ああそうそう、それだ! 脚本に5つの町の名前が並んでて「こりゃやべえ……」ってなってたのよ(笑)。コレをこなさにゃならんかーって(笑)

(大笑いする司会ふたり)

F: もう汗ダラダラ(笑)

E: 「みんなに見られてるぅ」って(笑)

F: やってみて、ネイトが「ユミ、どう?」って訊ねると「(またもや首を傾げる真似で)そうですね……」っていう具合で(笑)。難儀はしたけど、まあ何とかやり抜いたよ(笑)

D: あるセッションでは、名指しで申し訳ないんだけどレオナードが──ってレオナードごめん、君は名優だよ──彼も名前のリストで同じようなことをやらなきゃいけなくなってたんだよね。確か牢人仲間の名前だったはず。ひとつずつ言った名前を継ぎ合わせることになって、僕がひとつ名前を言うとレオナードも(発音を真似て)その名前を言って、僕が次の名前を言うと彼がまたそれを言って、あとから編集でひと繋ぎにするっていう作業を(笑)。普段からその言語の話者じゃなきゃ難しいもんね。僕だって韓国語の名前だったら同じことせざるを得なくなってたはず。

E: その点、僕は日本オタクだからラッキーだったな。うちの親も日本語話すし。


◆夢膨らむコンベンション

初のコミコン参加(と言ってもパンデミックの影響でオンライン開催だが)を約1週間後に控えているせいだろうか。話題がひと段落して短い間ができた途端、ツジ氏が唐突に切り出した。

D: それでフェオ、『オーバーウォッチ』はゲームなの?

F: (笑)

E: ダイス(笑)

D: さっきから質問する隙を伺ってたんだよ(笑)

F: と聞いてるけどなあ。

D: と聞いてるの?(笑)

E: 僕はライトノベルだと聞いてるなー(笑)

D: ゲームはプレイしてるけど詳しくはないからさ。すごい有名なやつなんでしょ? (笑) あなたもそれでコミコンに出演したりしたって聞いてますけど。

F: そうね、幸運にも、かつてコンベンションに出てもよかった頃にいくつか。で、『オーバーウォッチ』はチーム制のシューティングゲームで──って専門用語を使ってはみたけど、かえって何言ってんだかワケがわからなくなってることが露見しそうかな(笑)

E: (二人に向かって説明)『Call of Duty』みたいな人を撃つゲームなんだけど、チームに入ってやるやつで、みんなにスーパーパワーがある、って感じかな。

D: OK、OK。

F: そう。たしか6対6になったような。

E: チームだと6対6だけど、3対3でも遊べたはずだよ。そっちではまた違うフォーメーションがあるって。e-スポーツでかなり大々的に取り上げられてる作品なんだよね、専用のリーグがあったりして。

F: さっきも君が言及してたけど、そのリーグのプレイヤーたちは我々よりすごいお金を稼いでて、大スターだったりする(笑)。

D: この質問をしたのは僕も今度、というか、そのうちみんなコンベンションに出演するようになるかもしれないからなんだよね。どういう世界なのかなぁと思って。

F: まだ経験がないなら、そりゃあ特別なイベントで、べらぼうに楽しいもんだよ。自分でも以前行ったけど。そうだな……『ギャラクシー・クエスト』は観た?
(※筆者注: 99年、軽妙な舞台劇を思わせるSF長編映画の名作。『スター・トレック』的な架空のSFドラマの出演者たちが、コミコン的なコンベンションに参加する場面から物語が始まる。シガニー・ウィーバー、アラン・リックマン、サム・ロックウェル等出演)

E: あの映画、もうだーい好きなやつですよ(笑)

F: あんな感じだよ(笑)。すごく楽しい。映画の中でアラン・リックマン演じるキャラクター(イギリス出身のシェイクスピア俳優で、ドラマ中で演じたトカゲ頭のエイリアン役にうんざりしているという設定)が「もう『グラブザーのハンマーにかけて』というセリフはこりごりだ」と語る場面があるんだけど、君らも多分、何であれキャラ特有のキャッチフレーズを言ってくれって頼まれたりはするんじゃないかね。

D: えー、僕の場合、キャッチフレーズってあるのかなあ。

E: ダイスが仁の声で何か言うと、みんな「(息を呑む様子で)はああ!」ってなるの。あれ大好き(笑)

F: うんうん。そういうのが来るって思っておくといい。

D: あなたにもキャッチフレーズがあるんですか?

F: 私のは自分が演じたゼニヤッタってキャラので、たぶんこれかな。「平穏を心に(Experience Tranquility)」

E: イェーイ! みんな聞いたね、公式のゼニヤッタが配信に来てくれたぞー!!(笑)

F: ははは(笑)。まあこのセリフはもう、世界中のいろんな皆さんに向けて数え切れないほど言ったよね(笑)。だからそういうのを経験しつつも、本当に楽しいよ。いつも言ってることだけど、とくに声優の仕事って普段は孤独なもんじゃない。かつてスタジオに行くことができていた時ですら(政子役ローレン・トムやツジ氏本人も別の機会に語っていたところでは、現在自宅内でスタジオに代わるスペースを設けて声優の仕事を続けているという)、基本は自分だけで向こう側にディレクターがいる程度だったから。何か仕事をしても「まあこんなもんか」くらいなんだけど。そういう仕事が世に出て、たくさんの人の琴線に触れ、人の心を動かしたのは驚きだし、とにかくすごい満足感がある。『オーバーウォッチ』で我々は大変な幸運に恵まれたんだよ。たくさんの人がゲームにハマってくれたようだしね。『Tsushima』にしても同じで、世間の人たちは本当に諸手を挙げて受け入れてくれた。普段は仕事をこなしてうちに帰るだけだからさ。自分のやったことに感動してもらえるってことの意味を真剣に考えると、本当にすてきなことだ。幸せだよ。

D: そこは完全に同意しますねぇ。



◆「フェオドール」という名前の由来

E: で、フェオ。ヘンテコな名前のアジア系としては、あなたもまたヘンテコな名前のアジア系であることに気づくわけなんですけど。純粋にプロはプロを知る的な意味で訊きますが(笑)、フェオドール(ロシア風読みでは「フョードル」)って、ドストエフスキーみたいな?

F: そうそう、そうなんだよ(笑)

E: あるいは、ロシア最初のツァーリ(皇帝・フョードル1世)みたいな。

F: うんうん。一番安直な答えは「うちの家族が大のドストエフスキーファンで」なんだろうけど、必ずしもそうじゃないんだな。ふたりいる姉のうち、上が帽子の名前と同じようなフェドーラ、次がユードラ、その下が私。ようは父が牧師なもんだから、というかもう引退したから牧師だった、か。原則的に子供の名前はぜんぶ、「神の贈り物」を意味するギリシャ語の「テオドーラ」が由来になってるんだよ。それが気に入って、楽しいテーマだと思ったんじゃないのかな。

D: おおー。

E: すてきだなあー。

F: で、こういう名前になったと。まあでも個人的にはね──自分の名前だから、自分で間違ったりはしないんだけども。オーディションなんかじゃわざわいの元で、「セオドア(Theodore)? リストにないな」「あっFがつく名前です」みたいなことになる(笑)

D&E: (笑)

F: でも自分だけの名前って感じではあるよね。他の人にはあまりないから。自分では気にならないよ。

ちなみに中国名もあるにはあるらしいのだが、姉弟のほぼ誰も使用していないとのことである。

F: 中国語の学校に行ってた時には使ってたことあったかな? でもそれだけ。

E: ああ、アジア系の補習校ですね。(筆者注: アジア系アメリカ人の子供や、アジア人の親の駐在に帯同した子供のルーツ言語維持のために開かれている学校のこと)

F: そう。幼稚園の頃から確か5年生までだったか、毎週土曜にね。カートゥーン番組なんかを見逃すのがいやで、私はかなり憤然としてた。「は!? どーだっていいじゃん、勉強したくないよ!」みたいに(笑)。今となってはそれが人生最大の悔い。ただまあ、細かいとこまでつっこみすぎかもしれないけど、我々が習ってたのは広東語でね。今じゃ全部北京語でまったく違う言語だから、どっちにしろあまり役には立たなかったかな。わからないけど、まあそんなとこ(笑)。

E: ええ、僕も親に入れられた韓国語の補習校で同じことしましたし。2年くらいは我慢できたけど、「あそこに二度と行かなくていいようにしてくれるなら、仕事する!」って言って。

F: わははは!(笑)

E: 「ワークブックくれれば全部やるから! もうやだ! カートゥーン見たい!」みたいに(笑)

F: そうか、そうかぁ。あ、それでも韓国語は流暢なの?

E: ええ、話すのは流暢ではあるんですけど、読み書き能力が。練習してなかったので、読む方に少し時間かかるんです。

F: いやいや、いいことだって。あれ、でもそうか……こうなってもう8ヶ月なんだから、勉強始めときゃよかったのかな。パンデミック下でやるにはいいことだったんじゃ?

E: (笑)

D: そんなことないですって(笑)

F: でも俺、極度のものぐさだしなあ(笑)

D: たらればの話はやめときましょうよー。

E: そうですよ、パンデミック下の「べき」なんて──

F: まあ後悔の話じゃないしな、うん(笑)

E: 僕らはかわりに配信始めました(笑)

D: かわりにね(笑)



◆声優の仕事を始めたきっかけ

ものぐさを自称するわりにコンスタントに仕事を続けており、「 ボイスオーバー王」なる異名(本人いわく「自称ね!」)もあるというフェオドールに、ツジ氏から質問が。

D: この間のZOOMのやつ(East West Playersによる『Tsushima』ボイスキャスト座談会)であった別のことですけど、その赤い電話について、改めて聞かせてもらえませんか? って実は、何かでっち上げてウソついて欲しいんですが。

F: あーと、そうか(笑)。えー実はこれ、市長への直通電話で──

D: 市長って「 ボイスオーバー市長」のこと?(笑)

E: あなたが王なら市長は誰ですか(笑)

D: (受話器を取り上げる仕草で) 「市長、仕事したいんだけど」って言うわけですね(笑)

F: LAXのジェットパック男(筆者注: 2020年よりロサンゼルス国際空港付近の上空で目撃されるようになった、空飛ぶ謎の人物のこと) って聞いたことあるかな。 アレ実は私なんだよ。電話が来たらいつでもジェットパックしょってくわけ。ただし犯罪と闘うためじゃなく、娯楽用。

E: 自慢するためとか? 「見てこのジェットパック!」って(笑)

F: 大したニュースがない日用とかじゃないかな。

D&E: (笑)

D: これまでたくさんの役者に聞いてきたことなんですが、ボイスオーバーの仕事に携わるようになったきっかけは? あなたは ボイスオーバー王ですから(笑)

F: (笑)

D: ボイスオーバーがメインの仕事なんでしょうか? それとももっと、カメラ前の仕事の方?

F: もちろんだよ。王っていうからには生まれついての仕事でしょ、連綿と続く王朝なんかがあってさ(笑)

D: (笑)

E: そしていま、帝国主義的飢餓感をおぼえて「カメラ前」領への進出と併呑を狙ってるんですねわかります(笑)

F: いや(笑)、まあ役者という稼業を始めてからは、雇ってもらえそうな仕事を何でもやっててね。舞台とか企業広告とか、そういうのをたくさん。で、そのうちに──初めてのちゃんとした ボイスオーバーの仕事は、多分コマーシャルでだったかな。あとXboxから出た、『New Legends』(2002年発売)っていう大昔のビデオゲーム。たしかXboxが発売されて一番最初のソフトだったと思うから、それくらい大昔の話なんだけどさ(笑)。で、以後はその流れのままに来たって感じかなぁ。必ずしも積極的に声優になろうとしてたわけじゃないんだけど、何であれ仕事の機会に恵まれてきたのは幸運だったと思ってる(笑)。だから、ふたりと似たような感じで「声の仕事もやる俳優」かな。

D: ええ、どれも芝居ですもんね。僕の感覚としてはだけど。

F: ああ、もちろんそうだよ。

E: うんうん。前も配信で話したことだけど、とくに今のビデオゲームは混合的なメディアですし。ボイスオーバーの側面もあれば、カメラ前でのモーションキャプチャーの側面もあって、渾然一体になってきてるところがありますよね。進歩してきてる。

F: だね。『Tsushima』にしたって、モーションキャプチャーやフェイシャルキャプチャーを見るだけでもかなり映画的でしょ。『アバター』みたいに「おおー」と驚くような作品で、素晴らしいよ。少なくとも映画制作の技術や芝居に関しては、もう確実にボイスオーバーの仕事とは呼べないくらいだし。




◆突如始まる発表会

『New Legends』の詳細や出身地の話でひとしきり盛り上がった後、ファンからの質問コーナーに移ろうとしたところで思わぬ展開が。

E: うん、あと失礼、いま太陽光がめっちゃ差し込んできてるみたいなんでちょっと──

D: それ太陽光なの?

E: うん太陽光、っていっても床に反射したのが僕の顔に当たってんだけど。ちょっと調整してくる(笑)

D: (席を立とうとするアールに向かい) あとごめんアール、後ろにあるそれは十字架なの?

E: (はい!? という顔になり)ダイス(笑)、ちょっと待ってて(笑)

D: いやあ、ただ、太陽光と十字架の組み合わせだったらって──

F: かなり敬虔な雰囲気だな(笑)

(遠くから笑いながら、待っててー! というアールの声)

D: ところで、スカイウォーカー・ランチ(筆者注: ルーカスフィルム本社があるスタジオ。限られた者以外出入りを許されないこの場所で、『New Game』は撮影されたという)と言えば、今かぶってるその帽子。

F: そう、ベビー・ヨーダね。スープをすすってるとこ。

E: (カメラ前に戻り) さっきのは十字架像ではあるんだけど、わが主ガーフィールドの像なんだよ。わが主にして救い主の(笑)

D: そうだったんだ(笑)。今これで視聴者何人減っただろ(笑)

F: (笑)

E: あるいは視聴者が何人増えたか、じゃなーい?(笑)

D: ははは、それもそうだ(笑)

F: 彼の命と引き換えに、我々みんなラザニアを食べられるようになったんだな(笑) (筆者注: ガーフィールドの大好物はラザニア。日本のカプリチョーザでコラボメニューが出たこともある) ちょっと失礼、私も何か持ってこよ。

E: これね、ルームメイトのクリスタからの誕生日プレゼントなんだよ。作者である素晴らしいアーティストの名前は──いまわかんないな、後でアップしとく。

(愛犬を抱いて戻ってくるフェオドール)

D: ああー!

E: (息を呑む)

F: この子の名前はデズモンドだよ。

D: よし、じゃあ僕も無意味に画面外に消えてなんか持ってこよ。(席を立つ)

F: (笑)

E: はいみんな、発表会タイムだよ! 『Tsushima』キャストハングアウトでは今後発表会タイムを追加することにしまーす(笑)。

F: (笑)で、それのバックストーリーは何なの? 入手はどこで?

(額装されたイラストを持って戻ってくるツジ氏)

E: えと、僕ガーフィールドが大好きで大嫌いなんですよ。ガーフィールドはなんか、ミレニアル世代の中の狂気というか、スローガンみたいになったような気がしていて。『Garfield without Garfield』のコミックストリップってご覧になってますかね──誰かが編集で既存作品からガーフィールドだけを消して、ジョンだけが独り言言ってるっていうやつなんですけど。けっこう長いこと人気があって、僕も大好きなんです。あとラザニアとかも色々。うちの父は牧師ではなかったけど、ジョージアの教会の長老(プロテスタント教会における役職名)だったんです。

F: ああ、そっかそっか。

F: あなたも中国のキリスト像に見覚えあるはずだと思いますが、韓国のキリスト像もなかなかすごくて、強そうなやつがあったりするんですけど(笑)。僕なりに手を入れてみたオマージュがコレ、みたいな感じです(笑)

D: それで犬の名前は? もう言ってましたっけ。

F: デズモンドだよ。

D: デズモンド。ハーイ、デズモンド。

E: いい名前だなあ、どこから来たんです?

F: 実は彼、韓国から来た犬なんだ。

E: おおー。 アンニョンハセヨ、デズモンドさーん。

D: (キョロキョロして)デズモンドこうなりそう。

F: 妻はソウルで6年間活動してたことがあってね。レスキューされた彼を、こっちに連れて帰って来たんだよ。ちなみに『LOST』の大ファン。たしかデズモンドってキャラがいたんじゃないかな。

E: ああー。ゲーム脳だからはじめは『アサシンズ・クリード』かと思ったけど、なんか違いそうだなーという気がしてました。『LOST』なら完全に納得。

F: その役の俳優とは、ラッキーにもコンベンションで、一緒に対面したことがあるんだよ。うん、妻にとっては特別なもてなしだったかな(笑)

D: 「あなた、私の犬なんですよー」って。

E: (笑)

F: そう、文字通り。「あなたにちなんで名前をつけたんです」と(笑)

E: 「ありがとう……?」(笑) どう反応するのがふさわしいんですかね(笑)

D: 「仁」か「典雄」って名前の犬なんかもいてよさそうだよね。

E: ほんとだよ! 「典雄」はかわいい名前になりそう。

F: (笑)それで、ダイスのは何なの?

D: これはアーティスト、ミュージシャンである友人の、Surrijaことジェーンから来たやつでして。彼女がアルバム制作のミキシングなんかをやる助けにするために、kickstarterで寄付を募った時の返礼品のひとつ。本人による自画像じゃなくて、アシュランドで会ったアーティストに描いてもらったんです。アルバムはアシュランドで制作してたから。で、(絵に添えられた文字列を指して)これは彼女の曲の歌詞。とにかく、何か持ってこようとして最初に目に入ったのがコレだったっていう(笑)

そしてここで、フェオドールがふと質問する。

F: もし今火事が起こってて、何かをひっつかんで逃げきゃならないとしたら何を選ぶ?

E: ダイスはぜったいPS5でしょ。嘘はやめとこ(笑) (筆者注: このインタビュー当時はPS5の発売直後。友人の助けで熾烈な競争を勝ち抜いたというツジ氏は、いち早く本体をゲットしたばかりだった)

F: はははは!(笑)

D: (笑) でも今はもう、キットがあるから。地震の防災キット。

E: え、今なの?

D: あるよー。だって世間じゃ「今のうちにいっこ用意しとけ!」って話だし。(再び画面外へ)

E: いや(笑)、「もっと前に持っとくべきだったんじゃ?」ってことを言ってるんだけども(笑)

(席に戻って赤い防災キットを見せるツジ氏)

E: いいねいいね。

D: 地震キットの実物でーす。Redforaの。

E: あ、ブランドのついたやつじゃん。

D: そう、中身のものは全部ビニール袋とかに入ったまんま開封してない。まあ買っといて置いとこかなって(笑)。僕の命を救ってくれますように。中身にはなんか足した方がいいのはわかってるんだけど、まあいいや。

E&F: (笑)