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ダイスケ・ツジ「LAN Parties」インタビュー訳


日本時間で2020年12月4日。米ネバダ州のローカル紙「The Las Vegas Review-Journal」のビデオゲーム/e-スポーツ担当記者ルーカス・エッゲン、ライアン・スミス両氏が毎週更新しているポッドキャストにおいて、ダイスケ・ツジのインタビューが公開されました。収録日はMCMコミコンの翌日(日本時間で11月30日)とのことで、『Ghost of Tsushima』発売から4ヶ月半経過時点。2020年の「The Game Awards」直前のインタビューとなっており、本人の配信ではまだ明かされたことのない心境や裏話もちらほら。番組終了後、司会のおふたりが「今までで1、2を争う楽しいインタビューになったよね(笑)」と述懐していた内容を以下に紹介します。実際の音源はこちら




(司会ふたりが軽く感謝祭の話をしてからダイスケ・ツジ登場)

どうも、お招きありがとうございます。楽しくやってますよ。いまロンドンにいまして、こちらに来たのは今回が初なんです。しかし感謝祭の話を聞くとちょっとねたましくなりますね。僕にはないも同然で、って(アラーム音が鳴り出す)すみません、気にしないで。

──大丈夫ですよ。何のアラームだったんですかね?(笑)

実はこのインタビューのためにセットしたんです。感謝祭らしいことは何もできてないんですが、(今苦境にある)役者をやってる者にしては働けているだけラッキーですから、不平は言えません。

──すばらしい。まずは順当にお祝いを。『The Game Awards』でのベスト・パフォーマンス部門ノミネート、おめでとうございます。

ありがとうございます。

──どういたしまして。『Tsushima』についても勿論、ベストゲーム部門含めた計7部門にノミネートされたわけですが、そこから話を始めさせてください。ご自身の知名度があがり、参加作品がここまで高い認知度を得るさまを目の当たりにするのは、どれほどワクワクする気分でした?

いやー。そうですね、予期してなかったので本当にワクワクしました。開発中はもちろんこうなることを願ってましたけど、ゆな役のスマリー(・モンターノ)とはノミネートされちゃうかもよ、なんてジョークで言ってただけで、本気にはしていなかったので。いざそれが現実になってみると、心からワクワクしますし謙虚な気持ちにもなってますね、ええ。でもどうなるだろう。何か獲れればいいんですけど。何せついこの間も──おふたりが話題にしたいかは分からないまま言いますけど(笑)、『Golden Joystick Awards』では5部門にノミネートされたのに、全部『The Last of Us 2』にかっさらわれたんで。もちろんそれだけのことはある作品なんですが、えー、ウチもいっこぐらい貰えてもいいんじゃないのかなあって(笑)

──「なんか賞貰えませんかねえ?」って?(笑)

「なんかいっこでいいんで、お願いしまーす」(笑) という感じで、言うまでもなく何か獲得できればいいなとは思ってますよ(笑)。こういう賞が八方美人的になって、各作品に受賞させたりするみたいなのは好きじゃないので、そういうことはやって欲しくない。ただ勝ちたい(笑)

──(笑)。このゲームに惚れ込んだファンが相当数ついてますけど、そうなるのも道理な出来ですよね。画面も作りも華やかだし、感動せずにはいられないエモーショナルなストーリーもありますし。開発当初の話に遡ると、まず仁役のどういった点に惹かれましたか? また最初の時点で役についてわかっていたことはどの程度だったんでしょう? 開発はかなりの長期間にわたったようですが。

はい、3年がかりの仕事でしたね。配役が決まったのが2016年の終わり頃。ちょうど昨日、オンライン開催で初めてのコミコンに参加したばかりでして、そこのMeet & Greetでもファンの方に聞かれたばかりなんですが──何か似たようなことを、オーディションを受けた理由は、とか。嘘いつわりなく言えば、身も蓋もない答えですけど「仕事だから」(笑)。お金は必要ですからね、役者として生計を立てる以上は(笑)。僕らにとっては、オーディションって片っ端から受けるものなので。ただ仁役で際立っていた点は、キャラクター概要を読んだ時自分にぴったりだから応募しなきゃ、と思ったこと。まるで全部が──いつもこの話題だと言っていることですが、受からない方がおかしいという気持ちでした。きっちり仕事しさえすれば受かるだろうと思いながら臨んだんです。もちろん以前には、同じような気持ちで受けたオーディションに落ちたこともありますよ。でもこの役に関してはあつらえたような合い方をしていて、それが本当に良かった。

──あなたの経歴によるとビデオゲームの分野にはここ数年、比較的最近進出されているようですが、これまでのところゲームの仕事での経験はいかがでしたか? またあなたは「Oregon Shakespeare Festival」に所属されていたとか。私自身オレゴンに住んでいたことがあり、劇団のファンでしたので心からクールだなと思ってるんですが。舞台でのバックグラウンドが役立った点と、逆に慣れるまで苦労された点は何でしたか?

そうですね、どちらも少しずつあったと思います。舞台をやっていると時々観客の姿が目に入っても、たとえば軍隊の一団ですとか、そういうものが見えているように想像力を駆使しなければならないんですよね。モーキャプ撮影の現場も似たような感じで、自分ががらんどうのセットではなく、戦場などにいるよう想像することを求められるんです。だから類似点はありますよ。僕にはクラウンとしての経歴もあるので、ストーリーを伝えるために身体表現と、はっきりした顔の表現を使う点は全部モーキャプでの演技に活かすことができたかな。演技の具体性は僕が仕事上重んじている信念のひとつですので、脚本をもらってまず最初に考えるのも、ストーリーに必要なこと、ストーリーテリングの肝をつかむことでした。もうひとつの質問は苦労した点でしたよね? 舞台との違い。これはやはり(撮影用の)スーツです。舞台やドラマなんかでは衣装があって、どんな見かけでどんな服装をする人物になるべきかがわかるんですが、モーキャプではそうはいきません。ボディースーツと、大きなカメラつきのヘルメットみたいなものを身につけるわけですから。ただなんでも演技に活かしてやろうとはしてて、スーツを鎧のつもりで想像してました。重たい日本の鎧ときつい着心地のスーツは、想像力で結びつけるにはさほど遠いところにある同士ではなかったですし。あと境井仁はあまり兜をかぶらないんですが、侍にはつきものの装備ですよね。カメラ付きのヘルメットは現場で「角」と呼ばれていて、侍の兜にも角飾りなんかがあったりしますから、それも役作りに活かしました。たぶん僕個人の姿勢もちょっと良くなったんじゃないでしょうかね。侍はものすごく姿勢が良かったはずなので(笑)。たぶん。うん、そうに違いない。

──(笑)役柄に関しては、どの程度自分と関連づけられる点がありましたか? あなたが仁に共感できる、どのようなクセを取り入れたりしたんでしょう?

クセの話からしますね、忘れちゃうかもしれないので先の質問はあとでもう一度教えてください。まず仁のクセのひとつとしては、黒沢映画の『用心棒』を見たんですよ。ディレクターのネイト(・フォックス)が言い出した話で、たしかその時は演技の型についてお喋りしてたんじゃなかったかな。で、『用心棒』を見て、基本的には三船からパクったんですが(笑)、あの映画での彼は……何て言うのかな。ちょっとわずらわしさを感じている時に、独特な肩の動かし方をするんですよ。他人からヒーローとして持ち上げられると毎回そのクセが出るようなんですが、三船が演じている彼にはヒーロー役がどうもしっくり来てないみたいなんですよね。そこから思いついたのが、仁の腕を振るクセでした。腕に力が入りすぎて、緊張を解くためにやらずにはいられないみたいな──僕としてはあのクセ、志村殿に言い聞かせられてきたことが背景にあるんじゃないかと思ってるんですよ。ほら、「感情なぞ持つな」でしたっけ、「感情に支配されるな」みたいな、なんかそんなやつ(笑)……どうも物覚えが悪いんですよね、役のセリフも撮影ごとに覚えてすぐ全部忘れちゃうんで(笑)。

──(笑)

でもまあ、そのクセにこめたのは、おそらく父親が死んだいきさつと関係してると思うんですけど、仁の意識の深いところに秘められた怒りがあるということなんです。仁が抱え込んでいる自分への不満を「力を抜け、右腕が固くなりすぎておるぞ」みたいに矯正するのが志村殿だったんじゃないかと。だから腕振りのクセはそのリマインダーなんでしょうね。ただ映画なんかと比較して面白いのは(笑)、ビデオゲームだといつそのクセが出るかわからなかったりすること。開発チームがあとから付け足したりもしてるので(笑)。自分でプレイしていると、そのクセが折々、ランダムに出て来るのを見かけるんです(筆者注: ゲーム内の仁にはアイドル中に腕を振るクセのモーションが入っていることがある)。でも最高ですよ。ネイトと一緒に考えついたことがゲームに、しかもイベントシーンじゃないところで出てくるわけですから、本当にクールだなって。最初の質問はなんでしたっけ? クセの前の。

──あ、それなんですが、ちょっと違う質問に切り替えようかと。実は私は『Tsushima』未プレイなんです。PS5がうちに来るまで待とうと思ってまして。私のようにあえて情報を入れず、右も左もわからないままプレイしようとしている者は、『Tsushima』からどんなことを期待できるでしょう?

どんなことを期待できるか? ああ、僕にゲームの売り込みをしろと(笑) 。

──(笑)

そうですね、ただ自分がサムライになったと想像してみて欲しいです。封建時代の日本の、対馬という美しい島にドップリ浸りきることができますよ。ファンタジー作品ですからね。プレイヤーをファンタジーの中で生きさせること、1274年の日本の再現にかけて、Sucker Punchは素晴らしい仕事をしてます。ゲームを堪能するために多分一番良いのは、対馬に導かれるまま遊ぶこと。オープンワールドゲームというのは、次の収集品なんかを見つけようとして、プレイヤーの意識がマップに持っていかれがちでしょ。個人的にはそれでもまあ構わないんですけど、しょっちゅう楽しみの妨げになるようだといけないじゃないですか。ゲームの世界観じゃなく、ゲームのマップや収集したいものに没入するなんてね。その点『Tsushima』では、マップが常時表示型ではなくて──僕らが「パパの風」と呼んでるものがありまして、やってみればわかるんですけど(笑)次の目的地に導いてくれる風のことです。ただあたりを見回してみるだけでも、町から煙が立ち昇ってるのが見えたりして、そこへ行ってみるとミッションがあったりします。だから、とてもいいゲームですよ。あ、あと『Legends』もあって、これは(本編とは)別のゲームなんですが、連携……協力型? 協力型ゲームなんです。まったく異なる趣向のゲームで遊んでいるみたいで、僕も本当に楽しくプレイしてるんです。 おすすめします! GOTY!

──(笑)。本当にはまらずにはいられない、感情を揺さぶってくるストーリーで、引き込まれるまま思わぬ展開になったりもするんですが、そこもまたキャラクターとの一体感を深めてくるんですよね。プロジェクトの開発中「あれ、これはひょっとしてかなり特別な作品になるかもしれないぞ」と思うようになった瞬間などはありましたか? それとも完成品が世に流通するまでそういう気持ちにはならなかったでしょうか?

アジア系アメリカ人的な側面では、もとから特別な作品だとは思っていましたよ。ゲームの全キャストにアジア系俳優を雇用するというのは、アメリカのAAAカンパニーがあまりやらないことでしたから。そこだけでまず気持ちが昂りましたよね。他のキャスト仲間もその意味で特別な作品になると考えていました。でも最初のトレイラーが出るまで(2017年)は、僕もぴんとは来てなかったんですよ。開発当初はゲーマーというわけではなかったので。今でもまだ勉強中の身ですが、当時はSucker Punchのことも何ひとつ知らなかった(笑)。最初のトレイラーが出る前、(撮影監督の)ビリー・ハーパーが開発途中のクリップを見せながら「OK、Sucker Punchのロゴは一番最後に出るよ」と説明してくれた時も──実際のトレイラーを見ると本当にその通りになってると思うんですけど──わざわざ「なんでかって言うと、俺たちちょっとした大物だから!」って言ってたくらいの(笑)無知だったんですよ。で、トレイラーの完成品を見てみると、日本の風景が出てきて「へえ、日本が舞台のオープンワールドゲームか、いいじゃん」となったところから一番最後にSucker Punchロゴが出てきて、「あー! あの会社が作ってるのかー!」という反応になるんですよね。『inFamous』ファンがたくさんいましたから。彼らの実績を知らず最初のトレイラーへのファンの反応を見て本当に興奮しましたし、トレイラー自体の出来も予想よりずっと見事だったので、その頃には特別な作品になりそうだという手ごたえを感じてました。日々の仕事中は大ヒット作になるかどうかなんて考えていられないですからね。開発チームが作っている映像の一部を見てみなければ、そういう感触は得られないもので。ただ、ゲームの発売前はちょっとナーバスにもなりましたよ。後にはましになりましたけど。

──『Tsushima』が発売された時というのは、どんな気持ちでしたか? もう期待が最高潮に達していて、ファンは入手したくてウズウズしているわけですよね。一方で作り手側は、彼らの飛び込んでいくゲームの世界が、望み通りにグッとくる内容になるか確信が持てない瞬間などもあるわけで。その間のタイムラインというのはどんな感じだったんでしょう?

ええ、正直に言いますね。まず最初にゲームのレビューが出たんですが、まったく気が楽になるような内容じゃなかったんです。批評家とプレイヤーは少し見方が違っていて、プレイヤーの皆さんはこちらが圧倒されるくらいゲームを気に入ってくれたんですが、批評家は──彼らも悪くはないレビューを書いてくれてたんですよ。でもこちらとしては、もっと良い評価が欲しかった。そういうレビューが火曜に出て、ゲームが木曜の夜に出たわけなんですけど、その火曜から木曜の間の僕はかなり情緒不安定でしたよ(笑)。とてもじゃないけど家にいられなくて、買い物に出かけた先でも車の中で泣きそうになって──実際泣いたかどうかは覚えてないんですけどね。つまり、もう3年もの間、懸命になって取り組んできた仕事だったわけですよ。僕だけじゃなくて、一緒に働いてきた人たちは僕なんかよりさらに懸命に、長い時間をかけてこのプロジェクト一本に打ち込んでたんですよね。なのに批評家はMetacriticで90点もくれなくて、「そんな……何が悪かったって言うんだろう? どこにもっと改善の余地があったんだろう。なんで?」って。その時点では続編が出せるかどうかもわからなくて、もちろんそう望んではいましたけど、レビューが出た時は(笑)「もう一巻の終わりだ。誰にも気に入ってもらえなくてもう誰からも雇ってもらえなくなるんだ」という思いが頭の中を駆け巡ってましたよね。

──(爆笑)

「もう一度チャンスが貰えたら、全身全霊で頑張って、実力を見せつけてやるのに」って。でもその後ゲームが発売になって、ファンの人たちが反応を返してくれるようになってからは最高の気分でした。今もまだ最高の気分ですよ。

──そのバランスはどんな風にとっているんですか? 役者さんたちが批評家の意見を聞くところと、ファンの意見を聞くところのバランスについて話していたのを聞いたことがあるんです。このふたつの声は食い違うことも多々あるわけですよね。ゲームに惚れ込んだファンと、まあ気に入ったけどファンが言うほどのレベルじゃないねという批評家の意見とのバランスをとる上で、学んだことは何でしょうか?

うーん、そのへんは気にするべきじゃないとわかってても、気になるところですよね。気にしないようにはしてます。レビューも読まないように、って言い方をするってことはやっぱり読んじゃってるんでしょうね、どうしても。もうねぇ……レビューはいい内容だった試しがないんですけど、目に届く範囲にあるもんですからやむを得ないんですよねぇ……。人からも見せられるし。時々は気に入ったっていうレビューもあるんですけど、「ただし演じてる俳優が」とか「メインキャラが」って但し書きがついてて「あっそフーン」となるので(笑)。僕の両親も「これ見てみなさいよ、好評だよ」って教えてくれるんですけど、それにも「俳優が……」とあって「あっそフーン」(笑)。

──(爆笑)具体的にどこの記事なんですか?(笑)

覚えてないですよ(笑)。でも僕にレビューを教えてくれる皆は最初のパラグラフしか読んでないのかも。なんだろうな、そのへんはうまく舵取りするコツをつかもうとしてる最中ですね、正直なところ。だって(ファンの意見に重きをおいたとして)もしファンが気に入ってくれなかった場合はまたどうすればいいかもわからないですもん。とくに続編で、って続編があるかどうかはまだ僕にも不明ですけど。そして具体名をあげるとヤバイからそこも話さないようにしますけども(笑)、最初の作品をファンが気に入りすぎてしまうと期待が大きすぎて──ストーリーがどうなって欲しいとかキャラクターがどうなって欲しいとか、高い熱量で思ってもらえているほど、それが一転してヘイトに変わってしまうというのが続編の大変さですよね。ものすごく大好きだから、大嫌いにもなるんです。そこをどう対処すればいいのか。僕にはわかりません。そういう立場にならずに済めばいいとは思いますけど、なったらなったで「まあでも出来るだけのことはやった。失敗から学ぶこともあるかもしれないしな」と思うだけですよね。あらゆる種類の批判に対処するにはそれが唯一の方法なんじゃないでしょうか。Sucker Punchのネイトやビリーはフィードバックを歓迎していて、僕はそういうところを称賛しているんです。勇気のいることですし、実際『Tsushima』のパッチや、ニューゲーム+で改良された点はプレイヤーからのフィードバックの内容を反映しているんです。開発サイドはそういう対処ができるんですけど、俳優にはそれが難しい。ちょっと自分の演技に修正を入れるというわけにはいかないですからね。僕が出来ることといったら、失敗してもそこから学んで、次はもっとうまくやることだけです。

──ありうるかもしれない続編について言及されましたので、「次」に戻ってくると仮定して伺いたいんですが。最初の作品では機会がなかったものの、続編で深掘りしてみたいキャラクターの側面などはありますか?

ええ、繰り返しになりますが、続編があるかどうかは何とも言いがたくて……(笑)

──もちろん仮の話としてです! あくまで仮で。

僕としては希望を高くもつばかりです。ただ正直、撮影はしたものの使われなかったイベントシーンというのもあってですね。あまり話すべきじゃないんですけど、基本的にはバックストーリー的なシーンになってます。たとえば百合のサイドクエストでは境井仁のキャラクター背景や父母との過去について多くを学べますが、役者はバックストーリーを考え出すのが好きですし、キャラクターの過去を探るのも大きな楽しみなんです。だからまあ、どちらかというとDLCか何か向けかな(笑)。あとは、『Breaking Bad』みたいな感じで。最初の作品は基本的に冥人のオリジンストーリーですから、そこから彼がどこまで悪に染まってしまえるかを探ればとても面白くなるんじゃないでしょうか。そうなった仁がヒーローのままでいられるのか、それとも制御不能のけだもののような人斬りに成り果ててしまうのかは、探り甲斐のある題材になるような気がします。

──さきほどゲームに関しては新参者だというようなことをおっしゃってましたが、これまでのところどのシリーズをプレイするのが楽しかったですか? コンソールを使っているのか、PC主体なのかはわからないですが、好きなタイトルは?

ああ、大好きな話題ですねえ。PlayStationを持ってまして、ちょうど5を買ったばかりなんですがぁー。

──(自慢げな声音を真似て)はいはーい。

はいはーい。ご自分ではもう入手されました?

──しました! 発売初日に(笑)。

それは良かった! 『Ghost of Tsushima』が美しい映像になりますね。PlayStation 5 でプレイした最初のゲームは『Spider-Man Miles Morales』。クリアしたばかりで、Twitchで配信もしました。面白かったですよ! 最初の『Marvel's Spider-Man』もプレイ済みでしたから楽しかったですね。予想より短かくて不平を言うはめになるかと思っていたらちょうどいい長さでしたし、とても良いストーリーでした。NYをスイングして回れる魅力には敵いませんよね。素晴らしかったです。PCやxbox、ニンテンドーなど他のハードに反感があるわけじゃないですが、PlayStationファンです。その方がシンプルでいられるので。別のハードがあったら、PlayStationだけでも遊び切れてないのに(笑)、さらに他をプレイなんてできないですもん。やっぱり独占タイトルとPlayStationの大ファンですね。……自分が独占タイトルのひとつに出演してるから言うんじゃないですよ?

──(笑)

だって名作揃いじゃないですか。『God of War』、『The Last of Us』、『Horiozon: Zero Dawn』……この全作の続編が楽しみですね、『The Last of Us』にパート3があるかはわかりませんけど。2作目が一番楽しみなのは『Horizon』かな。悪の機械のウィルスにまつわるストーリーの全貌がまだ明らかになってないですし、待ちきれないですよ。お気に入りのタイトルはこれでしょうね。

──いいですね。俳優を生業とする方というのは手が回るだけの働き口を得ようとするものなんでしょうけれど、ご自分の理想としてはビデオゲームの仕事をどういう配分でやっていきたいものと位置づけておられますか? 定期的にやりたいものなのか、それともやってみて、楽しく仕事したら後は映画や舞台などに戻りたいのか。

そうですねえ。僕はこれまでも異なる分野で色んな仕事をさせてもらう幸運に恵まれてきまして、たとえばサーカスの一員だったことなんかもあるんです。サーカスのパフォーマーというより、役者としての参加という色合いが濃かったですけど。そういう仕事の後にはシェイクスピア劇、他の舞台やテレビの仕事にも携わりました。まだ映画に出演したことはないので映画業界にも入ってみたいですし、テレビの仕事ももっとやりたいですね。でも、ビデオゲームは大好きですよ。 ボイスオーバーも大好きで、もっと上達できる確信はあります。トロイ・ベイカーやローラ・ベイリーのような人たちが、どれだけの仕事をどんな高いレベルでこなしているかを目の当たりにしてますから。ああいう方々が尊敬の的ですし、目指すべき目標でもありますね。しかし今の状況を考えると、テレビドラマの撮影はコロナの影響で今ようやく始まったくらいですし。その点ボイスオーバーはホームスタジオを設けたりで、かなり安定して仕事を続けられています。だから財政的な見地からすれば、 ビデオゲームも含めてボイスオーバーを続けるのが賢い選択なんでしょうね。それとは別にTwitchでのゲーム配信も始めまして、最初は『Tsushima』が皮切りだったんですが、今では俳優としてのアイデンティティの一部になってるような(笑)。というのも、配信もパフォーマンスみたいに感じているからで、ビデオゲームも今後突き詰めるべきキャリアのひとつになってきてますね。いま抱えているプロジェクトはふたつあって、ワクワクするタイトルなんですが今は話せません。話せないくらいのワクワクなので(笑)。

──(笑)

いまはビデオゲームが2本と、あと何か新しいテレビドラマに僕が出てたら、また話を聞きにきていただいても(笑)

──もちろん、もちろんですよ。楽しみですね。ところで、Twitchでの配信についてはいかがですか? コミュニティを立ち上げて、そこに所属する人たちが配信に集まってくるのを見る気持ちというのは。

はい、いい感じでやってきてますよ。最初は『Tsushima』を両親に見せるつもりで始めてみたんですが、たくさんの人が僕をフォローしだして「えっなんでまだ観てるの? 意味わかんない」って。

──(笑)

最初こそショッキングでしたけど、慣れてきてからは、あ、僕自身がショウなんだな、と認識しました。ゲームにリアクションを返して、チャット欄とやりとりするショウ。そうとわかってからはなるほど、即興ゲームみたいなやつかと脳が切り替わりましたね。即興ゲームはクラウンの勉強中に通ったクラスでやっていたもので、ひとりだけ他の生徒の前に出され、ステージに立って何か面白いことをやるんです。何もないところからゲームを思いつくのは得意な方でしたし、あれ、あのトレーニングが役立つ局面かもしれないぞと思ったら、前よりもっと楽しくなりました。ゲーム中に何も起こらなかったりとか大変な時もありますけど(笑)。あと、いまだに戸惑うところもあって。現状、視聴者は100人かそこらなんですが、100人ってたくさんの人ですよ? 度肝を抜かれますよね。配信を仕事としてやってる人たちがいますけど、僕もモデレーターのチームがいたりして──週一でミーティングを開いてて、ちょうどこの後もやる予定なんですが──チャンネルがビジネスっぽくなってきた感はあります。予期してなかった展開ですが、同時に配信をよりよいものにしようとYouTubeの動画を見たりだとか、毎回微調整を加えようともしてるんで、そうなってくるとなんだか面白いですよね。配信のたび改良を重ねる自分のチャンネルがあって、楽しく遊べてるんですから。配信は思ってもみないことだったけど、面白くやれてますよ。あとそうだ、豆知識をひとつ。昨日はコミコンで39人とMeet & Greetを開いたんですが、2名くらいを除いて全員が配信の視聴者だったんです。もし僕が配信をやってなかったら、いったい何人がMeet & Greetに来てくれたんだろと思って(笑)

──(笑)

わからないですけど、さぞ物悲しいことになってたかもしれないわけですよ(笑)。誰も来ない、誰にも気にかけてもらえない境井仁になってたかもしれなくて。なんせ「いいゲームだけど俳優がな」ですから(笑)

──(ひとしきり笑って)……で、あの(笑)。ゲーム内のイベントシーンで特別心に残っている部分などはありますか? 会心の出来になったものとか、逆に苦労したものとか、どちらでも構わないんですが。

悲しいことに、これまで会心の出来っていう気分になったことがなくてですね(笑)。それが僕の何を物語るのかはともかく、いつもはだいたい「けっこううまく行ったな」程度なので。強いてあげるとしたら(笑)、「離の段」の結末直前の竜三とのイベントシーンかな。少しネタバレになってしまいますが、バトルに至るまでのシーン。撮影では10テイクくらい、かなりの回数をこなしてまして、その最後にネイトから「やってみたいことを何でもやってみて」と言われたんです。それまでにシーンの段取りはよくわかっていたので、遊びを入れてみました。お互いそれまでよりアグレッシブに、いや、竜三の方が僕に対してもっとアグレッシブだったかな。それがかなり良い出来になって、いい気分でしたよ。すでに良いショットが撮れていた上で「ちょっとやってみて、どんな感じか試してみよう」っていうノリでやったことがうまくハマったわけですから。質問のもうひとつは何でしたっけ?

──難しくもやり甲斐のあるシーンなどはあったか、ですね。色々苦心してようやくものにできたシーンとか。

(笑)そういうのもなかなかなんですけど、たぶん最後のイベントシーンですかねえ。仁も泣くタイプじゃないですが、僕にとって泣きの演技はかなりの至難の技なので。感情のこもったシーンは何でもそうなんですけど、事前に出来るような準備もなく手ぶらの状態で現場へ行って、相手役の俳優との関係に集中しなくちゃいけないですから。僕は体の動きや演技の具体性など技巧を要することなら大の得意分野なんですが、生々しく感情を剥き出しにするとなると……。そういうのは、僕にとっては技巧のすべてをかなぐり捨てないと辿り着けない境地なんですよ。自分の得意分野と正反対のことをしなきゃならないというか。ただリハーサルでやった通り再現することも、出たとこ勝負のパフォーマンスも、両方こなせる俳優でありたいですけどね。決まった枠内で演技することに慣れすぎてしまって、臨機応変にその瞬間を生きるような演技が時々難しくなるんです。

──これはこの番組でよく聞く質問なんですが、世間には役者の卵がたくさんいますよね。とくに駆け出しの頃は心が折られがちな職業で、大多数の人はどこから手をつけてよいかも定かではないと思うんです。そういった人たちへ向けてアドバイスはありますか?

役者の卵というと、あらゆる分野の役者としてですか? それともボイスオーバーだけ?

──そうですね、ではボイスオーバーでお願いします。

ボイスオーバーですね。僕の場合、主に舞台、ときどきテレビドラマ俳優としての自分を確立した後にボイスオーバーを始めたんですよ。だからまずボイスオーバーのクラスに通ってリール(演技のサンプル音源や動画)を作ることから入りました。リールは大事ですよ。色んなエージェントに送ったり、人脈を広げて人に自分の名前を出すようにしてもらったりするうちに、担当エージェントが決まってオーディションを受けられるようになります。安くない額のお金はかかりますよ。出来のいいリールを自前で偽装できる、とかじゃない限りはね。ここで言う「いいリール」というのは、実際にもう現場で働いてるかのようなプロっぽさのある仕上がりということです。この人なら稼げそうだと思ってもらえなければ、エージェントは契約してくれないですから。リールがプロっぽくありさえすればいいんですよ、すでにコマーシャルの仕事をこなしてるみたいな──(サンプルを作る場合)あきらかに自分が担当するわけがない、マクドナルドなんかの大企業はやめた方がいいですね。自分で創作した企業、創作した商品の売り込みCMがいい。それがプロっぽく出来上がって、いい演技ができていればエージェントがつきます。本物のエージェントがついて、オーディションを受けまくっていれば(笑)そのうちいくつかには通るかも。あとボイスオーバーの手始めはコマーシャル、アニメなんかの他の分野の仕事はそれからと言われてたんですが、僕の場合明らかにそのルートは通ってなくて(笑)コマーシャル仕事もそんなにたくさんはやっていないし、アニメも数えるほどですね。今後はもっとやっていきたいですけど。『Tsushima』に関してはモーキャプ要素がありましたから、面白いことにボイスオーバーじゃなく、舞台のエージェント経由で話が来ました。だから興味深かったですよ。その反応を見るとすごい技術的な答えになってましたかね。

──(笑)オンライン上のアカウントはどちらにあるでしょうか。あなたの新しい出演情報などはどこを見れば?

あ、はい。僕の名前が綴れる人向けですが(笑)、公式サイトがDaisukeTsuji.com。TwitterとInstagramもやっていて、Twitchでも配信をご覧いただけます。twitch.tv/dicek2g……全部のアカウントを盛んに更新してるかのような調子で言ってますけど、ぶっちゃけソーシャルメディアは大の苦手でして(笑)

──(笑)

時間が、というより根気が足りないんだろうなぁ。

──それ自体ひと仕事ですもんね。

そうですね。アシスタントを雇えるくらい稼げたら、ってそれを次の目標にしようかな(笑)。いや、アシスタントが必要になるまでまだしばらくはかかるでしょうね。まあでも、新しい仕事の告知はおいおい出します。今とりかかってるテレビドラマの仕事は、プロジェクト自体ならもうアナウンスされてるんですけど、キャスト発表はまだだったと思うので、話していい段階じゃなさそうです。でもまもなくだと思うので、えーと、なんか見ててください(笑)。あとはビデオゲームの仕事2本ですが、この仕事に関してよく言っている言葉がありまして。「どんなことでも起こりうるが、」……なんだっけ、「どんなことでも起こりうるが、何ひとつ……ナントカじゃない」(笑)

──(笑)

いま思い出せない(笑)。困ると余計ものを思い出しづらくなるなあ、いつも言ってることなのに(笑)。たしか後半は「何ひとつ確実じゃない」みたいな内容なんですよ。普段は保証って言葉は使ってないはずですけど。この言葉をいま出したのは、いくら「ビデオゲームの仕事が2本決まっててワックワク〜」って言っても、誰かと交代させられない保証なんてどこにもないからでして。僕の声がいまいち合わなくて、じゃあ他を当たるかってことにもなりかねないわけですよね。実際そういう例は見てきましたし、僕自身にもあったかも。ある時参加したアニメの現場で、1日だけの仕事だったんですけどね。連続出演する役だと聞いてたんですが、ディレクターに気に入ってもらえなかったのか以降呼んでもらえなかったことありますもん。

──(笑)

だから制作自体が頓挫したとかじゃなければ、たぶん僕に戻ってきてもらいたくなかったんだろうなーと。そういう場合があるからこその、「どんなことでも起こりうるが、何ひとつ確実じゃない」なんです。ビデオゲームの主人公になることだってありますよ。すごいことです。でもそのゲームには続編がないかもしれない。続編があったにしても、境井仁は主人公じゃなくなってるかもしれないし、登場すらしないかもしれない。どんなことも起こりうる、そういう心構えでいないといけないんですよね。なので俳優として駆け出しの人へのもうひとつのアドバイスとしては、いい時も悪い時もあるから、覚悟を決めて浮き沈みのある旅を楽しんで、ってことですね。良くも悪くも、どんなことも起こり得ますから(笑)

──まったくですね。ではダイスケ、今日は参加してくださってありがとうございました。