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制限と創造性
「制限」と聞くと、ネガティブな印象を持つかもしれない。しかし、実は創造の助けになることがある。
何かを創造しようとするとき、私はある程度の制限があると取り組みやすい。ここでいう制限とは、例えばこんなものだ:
白黒写真
被写体は建造物
これくらいざっとでいいので、ある程度範囲が決まった中での方が、私は自由に創造性を発揮できるような気がする。
大学のとき、絵画の授業で「何を描いても良いですよ」という教授がいたのだが、真っ白なキャンバスを目の前に私の頭も真っ白になってしまった。何を描いていいのか、全くわからなかったのだ。30分はブランクのキャンバスを見つめていた。何百通り、何千通りの絵が可能なのだ。その可能性があまりにも無限すぎて、私は一体どうすればいいのか途方に暮れた。しばらくして、何とか動物の絵を描いたが、そのキャンバスには、美しさも強さもメッセージ性もなかった。
少しの制限があった方が創造しやすい、と気が付いたのは結構最近のことだ。小説を書き始めてから、ジャンル、テーマ、キャラクター、時代背景、環境などを考えるようになった。
小説の可能性も、絵画のように無限だ。無限の世界から何かを作り出すには、選び取っていく必要がある。選択肢がたくさんあればいいというわけではない。あり過ぎると、かえって選べなくなる。でも、一定の制限や決まり事があることで、深掘りしやすくなる。
だから、何を書いていいかわからないとき、私は制限をかけて枠組みを少しずつ狭めていく。
ジャンルは純文学
テーマはグラフィックデザイン
メインキャラクターは二十代の女性
時代は1960年代
舞台はサンフランシスコ
ハッピーエンディング
こんな感じでふわっとしたイメージができるようになると、そこからの物語のアイデアが出やすくなる。
メインキャラクターはどんな性格?何について悩んでいる?物語の中で、彼女はどんな経験をしてどのように変わっていく?どのように始まり、どのように終わる?どんなエピソードが考えられる?他の登場人物は?
「制限をかける」ことは、インテリアデザインでも、ファッションでも有効だ。
色は3色まで、材質を統一し、カーブを強調する
このように、少し制限された中でこそ、クリエイターの美意識が生きてくる。ミニマルデザインが洗練されて見えるのは、色数や形の制限があるからこそだ。
クリエイターの美意識は、制限の中でこそ研ぎ澄まされる。そして、どのような制限を自分にかけるのか、そこにクリエイターの独自性が滲み出る。
昔の私は選択肢の制限は創造性をも制限すると思っていた。でも、今はそれは違うとわかる。制限のある中でこそ、創造性は発揮できるのだ。
制限がないと、アイデアが散漫になりがちだ。だからこそ、私は今、何かをするとき、意識して選択肢に大まかな枠を設けるようにしている。