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私がどうやって広東語通訳者になれたのかを紐解いてみる(59) -『肥龍過江 / Enter The Fat Dragon』大陸ロケ3 -

餐廳

クライマックスのラスト・バトルへの前哨戦は餐廳(=レストラン)で始まる。これはとある会員制高級クラブの一室。メイン・セットを組んでいたリトル映画村から車で小一時間かかる別鎮の郊外。田舎の中心部から道を数本向こうに行ったところにギリシャをテーマにしたと思われる高級住宅群が突如現れた。その一角に、かなりの金持ちでないと会員になれないらしい会員制クラブがあった。

西洋風にしたいはずなのに中華な紅い提灯がぶら下がるゲートを入ると、そこは・・・。

やはり中華テイストで西洋風なアンバランスな建物と装飾。「これはメチャクチャ高いんだぞー」的なデカい壺とか重厚なテーブルが並んでいるのだけれど、なにせ成金趣味過ぎて致命的にセンスが無い。にわか成金がカネに物言わせて買い集めたのだからモノにセンスが追い付かないのは仕方ないか。

あとはやはり洗手間=お手洗い。高級クラブなのでホテル並みの洗手間なのに、使い方が汚い。公衆衛生概念がまだまだ追いついていない人達。

この餐廳のアクション・シーンはクラブ内の一番広い餐廳で撮影することに。高価な置物を壊したり傷つけたりしてはいけないので全て撤去してセットを組んだ。

セットが完成したからと下見に来た時に動作組のワイヤー師Oさんが唸った。「うー・・・これ、どうやってワイヤー引くかな・・・」

工場だと天井に鉄筋だのパイプだのが縦横に走っていてワイヤーを下げやすいのだけれど、本来餐廳なのだから天井にワイヤーを通せるほど頑丈な鉄筋が露になっているわけがない。しかし流石にプロ。Oさんは瞬時にワイヤーの通し方と支点をササッと考える。ホンマ凄い。

ここでの撮影もやはり大変だった。まず準備が大変。

撮影場所を決めてアクションを決め、そして怪我をしないようにあちこちに小細工をする。派手にぶっ壊す大道具は上手く壊れるように小細工をする。カメラが回っていないのに試して壊れたらいけないので細心の注意を払っての準備。テイク毎にその場その場で細工をするのだから時間もかかる。

更に、餐廳設定なので小道具が物凄く多い。NGでもう一度撮るとなると、壊れたものは回収し、同じものを同じようにセッティングする。アクションが繋がっているシーンを撮る時なんかもっと大変。先のアクションで何がどう壊れてどう転がっているのか全て同じにセッティングしなければならない。

DVDなどというものが一般に出回るようになり、繰り返したり一旦停止しながら観ることができるので、「繋ぎ」がおかしいと指摘してくる人が増えたそうで、製作者としてはそのあたり手を抜くわけにはいかなくなったのだ。おかげでテイク毎に「Cut!」の声がかかると「触るな!動かすな!」と言いながら場記やら美術部やらのスタッフが繋がるシーンで同じように再現する為にスマフォで現場の状況写真を撮る。本当に細かい努力をしているのだよ、現場のスタッフ達は。

東京タワー

餐廳の撮影をしている間に工場の別場所に東京タワーが建った。俳優だけでなくカメラ機材とカメラ・クルーも載るし、ワイヤーを引っ張るのでピンポイントで力もかかるし、ワイヤーの引き手も載ったりするわけだから、かなり本格的な鉄筋製。

私は高所恐怖症なのだけれど、クルーや動作組が高い所にいるなら私も行かねばならない。いやマジで怖かった。

『Man Hunt』の時も、酒井のオフィスがハルカスの高層に組んであったので現場のガラス壁に近付くと、もろ展望台状態で脚がブルブル震えたものだ。本作はもろ鉄筋のみ。あらゆる手すりをガッツリ掴んで移動するけれどホント怖かった。いやはや現場通訳の仕事って高所恐怖症や閉所恐怖症や暗所恐怖症には地獄。

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ここでのバトルは松永Jeoyがいいアクションを見せてくれた。そしてド兄さんの相手をした日本人スタントマンのクオリティが高くて、ド兄さんノリノリになっちゃって楽しそうだった。やはりガチのアクションが出来る人は相手もクオリティ高いと楽しくなっちゃうんだね。見所満載なので劇場公開をお楽しみに。(続)

撮影日数が延びてしまい、次のスケジュールが入っている日本人スタントマン数人は先に帰国した。そんなことすっかり忘れて最終日の撮影終了後に「動作組の最終日だから一緒に記念写真撮ろう!」と言ってくださったのはいいけれど「あれ?人数足りないじゃん?」と言い出すド兄さんでした。

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