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電影鑑賞記『風流一代 Caught By The Tides』(2024)
Jia Zhangke 賈樟柯 ジャ・ジャンク―の名前は日本にいる頃から、素晴らしい監督だと皆が口を揃えるのを見聞きしていたが、監督作品を観たことがなかった。私としては「ジャ・ジャンクー」という名前が「ジャジャンボ」に似てい過ぎて下手に印象深いという映画と全然関係ない理由と、昨年観た『狗陣 BLACK DOG』(以前の記事参照)で物凄く癖の強い耀叔を演じていたのが賈樟柯だと知ってから、とりあえず観ておくべきリストには入れてあった。
そしていよいよチャンスが。
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作品は「2001年」の文字で始まる。フィルムの質感。出てくる人たちの服装なども2001年の雰囲気。この作品はドキュメンタリーだったっけ?という絵が長回しで続く。本作の製作に関して深く調べてはいないけれど、これは絶対に一般の村人たちの中に入って撮っているに違いない。だって、順に歌う女性たちの歌もお喋りも自然体。カメラを見るなと言われてはいても、ついつい見てしまう人がいる。この女性の中の誰か一人が本作の主役なのだろうか?延々と続く複数の長回し映像を、どういうことなのだろう、どう展開していくのだろう、面白いがそれにしても変な作品だな、と変にドキドキしつつ観続ける。
順に歌う女性のうち、最後の女性が『別問我是誰』を歌い出して、ついつい彭浩翔導演を思い出してしまった。(わかる人にはわかる。)
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ドキュメンタリーじゃないよね?という疑念を抱きつつ観続けていると「あれ?この人みたことあるぞ?」という女性が出てくる。巧巧役の(Zhao Tao 趙濤)である。「しかもこの人、前に観た作品でもこのカツラだったよ?どゆこと?もしかして私、この作品、前にも観た?これいつの作品だ?でもこんなシーンは記憶にないから別の作品だよね?相手の男性の顔、こんなんだったっけ?違う人だよね?違う作品だよね?どゆこと???」ともう混乱するばかり。
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帰宅して調べてみると、私が記憶していたのは『江湖兒女 Ash Is Purest White』(2018) という賈樟柯作品だった。私の記憶は間違っていなかった。しかし実は賈樟柯作品を観たことがあるのだった。ということは私の記憶は半分間違ってもいたのだね。
作品鑑賞中は趙濤のカツラ姿と、時が経って中年になった際の自然な髪型とメイクと衣装(『江湖兒女』で撮影したフッテージを使いまわしたと思われる)が同じせいで「これ、前にも観たことあったっけ?実は私、この作品を観るのは二回目なのかも?」が続いた。ストーリーも共に長年連絡が取れなくなった恋人を探して旅に出る設定が同じ。混乱が増すばかり。
ただ、相手の男性(恋人)の顔がどうも違うような気がしていたこと、そしてラストの展開が完全に初めて観るものだったので、これは絶対に別作品だると最後の最後に確信した。
それにしても良い意味で変な導演である。こんな挑戦的な作りのものを一つの作品に仕上げてしまえるというのは凄い。本作を観る方は、できれば『江湖兒女 Ash Is Purest White』と続けて観ることをお勧めする。主役の女性は同じ女優が同じカツラで演じて、相手役の男性は違う俳優が演じ、どちらも男性を探して旅に出るストーリー、そして探し当てるが元の鞘に納まらないことは同じ、しかしエンディングが全くちがう、という二つの作品を見比べると面白いと思う。
本作単体では、碎鏡の使い方や「どこまでやるのか?」と思わせる長回しのままアングルのゆっくりな戻しのパンなど、実に面白い手法が沢山使われている。この作品でのこういった手法が賈樟柯独特のスタイルなのか、本作で初の挑戦なのか、他の作品も鑑賞して比較してみたくなった。
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百老匯電影中心にて鑑賞。★★★