私がどうやって広東語通訳者になれたのかを紐解いてみる(11)- 独学ノートの作り方 私の場合 -
広東語独学者への私からのアドバイス
独学を始めようとする際に留意すべきことを二つ。
一つは、長い道のりを諦めないでインプットを続けること。
もう一つは、自分のタイプを理解しておくこと。
インプットが先、アウトプットは遅れてくる
人はそれぞれ自分の中にコップのような容器があって、インプットしてインプットしてインプットしまくって、その容器が溢れ出したらアウトプットが自然と出てくるようになる。そんなイメージだといつも生徒さんに指導する。
コップの容量は人それぞれだから、他の学習者と進捗や速度を比較するのはナンセンス。人と比べることで諦めるのは悪手。
コップの容量は自分にもわからない。つまり、いつになったら溢れ出すのかわからない。だから諦めずにとにかくインプットを続けることが重要。
ある日突然「あ、言いたい単語がすんなり出てくる」と感じられるまでインプットを続けること。とはいえ、インプットだけをやっておけばいいのではない。当然アウトプットも並行して練習しておかなければ、それこそコップが溢れ出した時を感じることができなくなる。インプットとアウトプットの練習は並行して行うけれど、アウトプットは遅れてやってくる、ということ。
自分のタイプを理解しておくこと
私は比較的早くに自分に語学の才能があることに気付いた。ある単語の持つ雰囲気や類語との差異を本能的に感じ取ることが得意。そして耳で聴いた音をそのまま再現するのも得意。口や歯や喉や鼻腔などをどうやって使えばその音が出せるのかを本能的に把握して再現できる。これまで齧ってきたフランス語もロシア語も発音は得意。独学向きのタイプだったわけ。
反対に、本能的に自分で掴むより、他者から解説してもらう方が理解しやすいタイプの学習者は先生につくのが良い。教えてもらってコツが掴めるようになってから独学に転向するのもありかもしれない。ただし、各個人の理解の程度や仕方をきちんと見て取って、その人にとって最もわかりやすい方法で教えられる教師を見つけることが大切。ステレオタイプな教え方しかできない教師だとインプットの量や速度に成果が出なくなる。自分の性質を見て取ってくれる教師を見分けること。
どちらのタイプが凄いとか偉いとかではなく、単なる個々人の得手不得手と生まれついたタイプの問題。自分がどちらのタイプなのかを知れば、自分に向く学習方法が効率良く採れるというだけの話。どちらのタイプにせよ、インプットが先、アウトプットは遅れてやってくるのは同じ。アウトプットが開花するまで諦めないこと。独学する場合のアウトプット練習は発音練習段階までは良いけれど、会話の練習になると相手がいないので、そこをどう展開するのか考える必要あり。
単語ノートの作り方 私の場合
私の場合、インプットの取っ掛かりは前回書いた米国イェール大学の「Cantonese Course」の教本。英語の文法本に書き込みできるように紙コピーを取り、広東語の文法を解説している英単語がわからなければ英和辞典を引いて日本語の意味を書き込んでは広東語の文法を理解していくという遠回り。カネは無いが時間はある学生だったし、語学の勉強自体は大好きなので苦にはならなかった。
繰り返しテキストを使って学ぶうちに単語帳が欲しくなったので、動詞・形容詞・形容動詞ノートと名詞ノートの2冊を作った。
動詞・形容詞・形容動詞ノートは
左ページ 右ページ
単語 / 発音(イェール式)/ 日本語の意味 例文 / 日本語
去 / heui3 / 行く 我去銀行 / 銀行へ行く
とした。左ページには生活に関すること、運動に関すること、心情に関すること、など類似の内容で分類して纏めた。右ページには例文を書いたが、全部の文字にピンインを付けると長ったらしくてわからなくなるので例文と日本語訳のみ。
名詞ノートは左右ページともに
単語 / 発音(イェール式)/ 日本語の意味
腳 / geuk3 / 脚
衫 / saam1 / 服
地鐵 / deih6 tit3 / 地下鉄
狗 / gau2 / 犬
のみで例文は無しとした。こちらは、人体、衣服、交通、動植物、などの結構細かい分類で纏めた。
初めてのテキストを紙のコピーを使って1、2度通して勉強してから、再度通しで復習する際にこの単語ノートを作り始めた。
大学図書館にあったテキストを片っ端から借りた
米国イェール大学の「Cantonese Course」の教本を終わらせて、そこからは大学図書館Audio Video室にあった広東語のテキストを片っ端から全部借りた。ただし、紙のコピーもカセットテープのダビングもせず。テキストを見ながら、自分にとって新出の単語を単語ノートに加えていくのみ。元から広東語テキストが少なかったうえに、文法は先のイェール大学のテキストで学んだことと同じだったし、音声素材の附録も無かったので、ネタはすぐに尽きた。
次に大阪中之島中央図書館へ
次に広東語テキストを置いてあるところを探そうと思った時に思いつくのはやはり図書館。市内の中央図書館には語学テキスト自体が少なく、広東語テキストは無かったので仕方なく遠征した。大阪中之島中央図書館。さすがに規模の大きい図書館だけに、語学テキストもかなりあった。広東語テキストもウチの大学図書館より充実していた。
ただし、知らなかったとはいえ大きな誤算が。
なんと中之島図書館、語学テキストは「持ち出し厳禁」だったのだ。つまり貸してくれない。ということは館内で読むか、図書館設置のコピー機でコピーして持って帰るしかない。が、コピー1枚10円もする!本屋で買うよりは安いとはいえ、数あるテキストを全部コピーするとばかにならないコストが掛かってしまう。
そこで私の取った策は「毎週土日、朝から一日中図書館の机に座ってとにかく全部自分の単語ノートに書き写す」作戦。これなら電車代と弁当代だけで済む。
自分の手で書くことの効用
実はこのケチケチ作戦がとても大きな効果を生んだことに後々気付く。図書館なのでさすがに発音練習をしながら書き写すわけにはいかないが、それでもやはり目と手を使ったことで体に染み込んだように思う。語学学習においては「自分の手で書く」という行為の効果が実に大きい。
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何週間通ったか覚えていないけれど、毎回、朝の開館時に図書館に入り、閉館で図書館を出ると外は真っ暗だった。カネは無いが時間はある学生だったので出来た戦法ではあった。そうこうして単語ノートは充実していく。(続)