見出し画像

電影鑑賞記『Legends of The Condor Heros: The Gallants 射鵰英雄傳:俠之大者』(2025)

武俠片はアクション映画だから当然大好きだし、金庸の名前も知ってはいるけれど武俠小說は読んだことが無い。なのでよく耳にする「射鵰英雄傳」ぐらいは観ておいた方がいいかな、程度の感じで観に行った。

またも前知識ゼロで観に行ったので、オープニング・ロールで驚いた。監製に Nansun Shi 施南生の名前があるじゃんよ!と思ったら・・・

えええ!導演も脚本も Tsui Hark 徐克かよ!!!(と映画が始まってから知る私)

なんだよ、これ!絶対面白いに決まってるじゃんよ!!!

ということでオープニング・ロールからワクワクしてしまう私。

やはり大陸映画なので主役の郭靖(肖戰)と黃蓉(莊達菲)は全く知らない俳優であった。郭靖が降龍十八掌を教えてもらっている洪七公がなんだか見たことある顔なような気がするけれど洪金寶じゃないしな・・・と画面を見つめていて「おお!胡軍じゃないのさ!」と気付いた時に肩の力がやっと抜けた。

私は胡軍を『赤壁 Red Cliff』(2008) で初めて知った。将軍の赤ちゃんに対して言った「咱們走吧=参りましょう」の一言が素敵過ぎてガッツリ心掴まれたのよ。赤ちゃんに向かって「咱們」と言えるセリフの素晴らしさは吳宇森導演の腕が良すぎるだけではあるのだが。吳宇森導演の言葉の使い方のセンスの良さには常に驚く。脱線するが、本人に「導演の言葉選びのセンスはいつも超一流ですね」って言ったら「当たり前じゃ!」って笑ってたけどね。

そしてキャスティングで驚いたのは梁家輝の西毒・歐陽鋒への起用。『智取威虎山 The Taking of Tiger Mountain』(2014) の時は梁家輝だと気付くまで相当時間かかったのだけれど、本作での梁家輝は一発でわかった。梁家輝は優男から怪物まで何でも演じられる怪優なので芝居については心配しないけれど、なぜこのガマ男に起用したのだろうか。

そしてまた脱線するが、本作で東邪西毒についてやっと理解した。『東邪西毒 Ashes of Time』(1994) は観たことがあった。そこでは黃藥師/東邪と歐陽鋒/西毒という人物がいることを知っただけだった。本作では本来の《射鵰三部曲》には天下五絕と呼ばれる武功絕頂的五大高手がいるのだという解説があった。
東邪/黃藥師
西毒/歐陽鋒
南帝/段智興
北丐/洪七公
中神通/王重陽
ここで細切れに聞き知っていた名前がやっと繋がった。

内容は基本は典型的な武俠小說。親子・兄弟の情、男女の愛情ともつれ、といったスタンダードを敷いてあるので、ここが感動する所、ここが泣き所、というのがわかっているだけに気張らずに観ていられる。とはいえ、郭靖の心上人が自分の傍らにいる黃蓉だと知った華箏が、延々二人を引き合わせずにいるので、もうそこは負けたんだからさっぱりきっぱり譲りなさいよ!とイラついた。物語を展開させる為にはこういう風に引っ張るものだとわかってはいても。

そこへ徐克お得意のクルクル回る系が沢山出て来る。お得意とはいえ、ちょっとクルクル回り過ぎだろ感はあったが、まあいい、徐克だから(どゆこと)。ただ、近年の大陸映画にありがちな「派手であればそれでいい」だけではなく、流石に徐克としての美的センスを盛り込んだクルクルの多用だったことはここに申し添えておく。

場面の展開が非常に速いのだけれど、原作小説の構成が素晴らしいからか、徐克の脚本が良いからか、それぞれのシーンが長すぎず短すぎずで上手に紡いである。

しかし、「最後のクライマックスが完全に『功夫 Kung Fu Hustle』やん!」となった。西毒が『功夫』の火雲邪神なのよ。梁家輝が梁小龍なのよ。蛤蟆功の使い手なのよ。地面に這いつくばってガマになるのよ。『功夫』から先に入ってしまった私は『功夫』とおんなじやん!パクリかよ?と驚いたよ。しかし、調べてみると当然のことながら「射鵰英雄傳」が先だったのよね。原作小説で蛤蟆功に這いつくばって喉を膨らませる描写があるかどうかを確認せねばなるまい。万が一無ければ、このシーンの描写は『功夫』のパクリってことになるからね。

そして、西毒/歐陽鋒を征伐した後に差し込まれる「陣」の説明が『赤壁』やん!もあった。「陣型」自体は違うかもしれないが、「陣」のパフォーマンスを一つずつ見せていくのは『赤壁』のままだよ。吳宇森と仲良しだから、徐克が「描き方、ちょっと借りるねー」ってやったのか?などと邪推。

武俠小說好きな人、徐克好きな人、にはお勧めできる作品。ここから続編やらスピンオフやら作って欲しいな。ちなみに席は案外埋まってた。8-9割かな。若い女性もいたけど、結構おばちゃんおばあちゃんが多くて、もともと「射鵰英雄傳」観て育ったのかして、いろんなシーンであれこれコメントだの解説だのしてる人がいたのが面白かった。

康怡戲院にて鑑賞。★★★★

いいなと思ったら応援しよう!