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電影鑑賞記『淺淺歲月 Truce Love, for Once in My Life』(製作2024 / 香港公開2025)
いつものことながら全くの前情報無しで鑑賞。主演さえ誰なのかチェックせずに観に行った。香港亞洲電影節も全く行けなかったので同映画祭での首映があったことも知らなかった。全くのノー・マーク状態。
数日前に会った Fruit Chan 陳果導演が「俺の《淺淺》が’」「《淺淺》はな」と広東語を嗜む日本人からすると非常にアブナイ音を連発してくれたので、むむ?何のこと?ああ新作?程度の了解だった。てっきり新しい監督作かと思ったら陳果氏は今回は監製であった。
ノー・マークからの鑑賞の感想。良い!とにかく良い!そして面白い!喜劇としての面白さじゃないよ。何が面白いのかは後で書く。
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香港迷はこのポスターだけで本作を鑑賞する価値があるのわかるよね。この叮叮は120號かな?車内の木の状態と緑からすると120號だと思うのだけれど以前乗った時に撮った写真のデータがぶっ飛んだので検証ならず。叮叮から見える風景が私の家の近所すぎて、これだけでも、良い!と叫んでしまう自分の街大好きっこな私。
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映後分享では、陳果監製がもう自由でノリノリ過ぎたので本記事が陳果写真集状態になってしまった。とにかくじっとしていない、動き回って好きに喋り倒す。元からよく喋る方だけれど、話の内容も動きも面白過ぎた。陳果写真集もお楽しみください。
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てっきり陳果が導演だと思っていたのだけれど、導演は蕭冠豪。新人監督だそうだが新人らしからぬ風貌と風格。新人でもこれぐらいどっしり構えていないと陳果と丁丁発止で渡り合えないのだろうと今回のトークを聴いて感じた。陳果、「おっさん」過ぎだ、君は(笑)。
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出品人及編劇の謝淑芬氏がこの方。ご自身で書いた小説を映画にしたかったが為に編劇班に入って脚本の書き方を学び、そしてこの作品の出品人となったと。首部劇情片計劃の支援は獲得していないので、資金繰りも大変だったろう。
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もう見てこの陳果。観客にお尻向けても気にせず喋りまくり。「係唔係全部自己友嚟㗎?=(この観客は)全員身内か?」と聞いて「違うよ」と言われているのに自己友とそこらへんで立ち話している状態。
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陳果監製は謝淑芬氏に言い及んで「みんな見てみな。謝淑芬はこの歳になってから編劇班に入って勉強して脚本書いたんだぞ。いいかみんな、いくつになっても何でもできるんだぞ。」と茶化しなのか良い話なのか複雑ではあるけれど、でも謝淑芬氏は凄いと思う。私もまだまだ頑張ろう、頑張れる。
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小説自体は7年前のもの。そして謝淑芬氏自身が脚本を書くのに4年かかったと。その後、「もういい加減撮影しなきゃならんから、あとは俺らにやらせろと取り上げて俺と監督で脚本を仕上げた。」と陳果。良い意味での執念のこもった作品なんだね。
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途中で何度も出たのが「予算が少ないので」という言葉。そんな中で明星級のお二人、謝君豪、Cecilia Yip 葉童を使った。この二人のギャラで相当額が必要だったので、あとはかなり節約したらしい。
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導演から主役の二人への注文は「自然で抑えた演技をしてほしい」ということだったらしい。
謝君豪は舞台俳優なので、やはり表現が大きくなりがち。なので今回は抑えめでお願いしたいと何度も言ったかいあってか、抑えた演技をしてくれた、と導演。いやしかし抑えた演技なら『過時・過節 Hong Kong Family』(2022)ですでに経験済みだと思うぞ。この時は「舞台的な演技を一生懸命抑えました」感満載だった。今回上手く抑えた演技ができたのは、『過時・過節』のおかげだと私は思うぞ。
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導演が話している間もじっとしていない陳果。
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ずっとうろちょろしている陳果。子供か(笑)。
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葉童にもかなり抑えた芝居にしてもらったと導演。ネタバレするが、離婚を切り出した時の芝居について。結局4テイク撮った。最初はびゃーびゃー泣く感じだったのでNGを出した。2テイク目も泣き過ぎだったので、またやり直してもらった。そして結局4テイク目で私が望んでいたかなり抑えた芝居になった。泣くということは涙がボロボロ流れるのだろうから、そのたびにメイク直しが要ったんじゃない?との高先支配人 Winnie Tsang からの質問に「そうなんだよ。」「それにしても葉童は凄いね。セットに入った瞬間にボロボロ泣けるんだから。」と。
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冒頭で喜劇ではないが面白いと書いた。本編中、喜劇的なシーンがある。麒振(謝君豪)の身の回りの世話を前妻・靜芬(葉童)と現妻・趙迅(稅潔)が争う。麒振は二人の争いに腹を立てて興奮してしまい、重病のはずがベッドに立ち上がり、ベッドから落ちて病室から怒り心頭で出て行く。しっかり抑えた芝居をしつつもイラついて怒っていることを十分に表現する謝君豪。お見事。このシーンは眉をひそめながら大笑いしてしまった。
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それにしてもこの上映会の観客は、文雋も来ていたし、アイドルやら明星を使った作品とは一味違った人が多かった。上がってくる質問がテクニカルでプロフェッショナル過ぎて、絶対に業界人だな、というものが多かった。
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例えば、「本編の最初は wide shot ばかりで、最後は close shot ばかりになった。これはどういう意図か。」との質問。流石にこの質問には陳果も導演も「おおっ!」となった。そうなのよね。実は私も「なんで?」と思っていたので、この質問と回答には身を乗り出してしまった。
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導演の回答。「凄いね。よく気が付いてくれたね。実は、最初は wide shot ばかりにして、途中 middle shot ばかりにしてから最後の close shot へと三つの段階を踏んでいるんだ。人生というのは最初は可能性が限りなく広がっている。それが進んでいくうちに先が細っていく=焦点距離が短くなっていく=自分のことがよくわかっていく、ということを表現したかったからだ」と。なるほどっ!!!質問者も凄いけど、導演凄い。
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別の質問者。「全体的に映像がとても raw だと思う。特にコーナーの lighting がとても甘い。これは意識的にやったのか?」
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陳果が「おい、スゲェな」と唸った。この質問の意味がわかる人は電影人を名乗って良し。私も電影人の端くれとして coloring の粗さと画面のコーナーの暗さはなんでなん?とは思っていたので、私もこの質問者は「スゲェな、プロフェッショナルだな」と唸った。
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陳果からの回答。「手機(iPhone)で撮ったので元の素材自体がとても raw だ。それを敢えて raw な感じのまま使いたかった。予算の問題もあったけれど、敢えて実験的なこともやってみたかった。」
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また別の質問者。「カメラは1台だけだったのか?私が観た限り1台に思えたが・・・」
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質問者の質問が終わっていないのに「4台使った。」とすかさず答える。
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その質問者が「いやだって、一つのシーンに同じアングルしか使っていないから4台も使ったようには・・・」と続ける上から「いや、4台回したんだってば。」と差し挟む陳果に言葉を止めない質問者もたいしたものだが、「いや、いいから、まず俺の話を聞けってば。」と、とにかく無理やり話を自分に引っ張る陳果。面白すぎる。
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「14 x 4台で撮ったんだよ。当時は16とか17まだ出てなかったから。それぞれ長めに回して良い所を使おうと思ってたんだが、結局、感情の流れとかを見たら、あれこれ編集で切って短いのを繋ぐより長回しを使う方が良いと判断した。だからカメラ1台で撮ってるように見えただけさ。」
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「今回は全部手機で撮った。全編手機で撮った映画はまだほとんど無い。だから今後の映画界の発展や映画の作り方の革新の為に、手機だけで撮ることにチャレンジして、いろんな可能性を探ってみようと思ったんだ。」いや、陳果さん、黃浩然の『全個世界都有電話 Everyphone Everywhere』(2023) は全編 iPhone 撮りでっせ。確か台数ももっと少なかったと思いまっせ。
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「葉童は素晴らしい俳優だよ。彼女は映画で育ってきたので、finder に向かって芝居することに慣れていた。ところが本作では大きな撮影用カメラを使わず、手機で撮った。彼女からすると、周りに埋もれてしまってカメラがどこにいるのかわからない。当初は戸惑ったようだがすぐに慣れて、とても自然な演技をしてくれた。」と葉童ご本人のインタビューと同じことを語ってくれた陳果監製。
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ちょっと脱線。『爸爸』上映の時に劇場で見つけたけれど手元に陳果氏の作品のグッズを持っていなかったので無理やり『爸爸』のポスト・カードにもらったサインも載せておく。「これ爸爸のじゃねぇかよ」と言われ「だって今手元にこれしかないんだもん」とわけわからん理由で無理やりサイン貰ったエピソードは「電影鑑賞記『爸爸 Papa』@東京国際映画祭&@香港 謝票場」をご参考ください。
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もう傍若無人と言ってもいいほどの「俺が俺が」なオッサンなのに、なんだこの可愛いポーズは。上記の奇行が数日前だったことと、その場で高先電影院の中の人が「え?観たい?じゃあチケットあげるよ」と速攻やってくれたので陳果氏は私のことを覚えていたらしく、顔を見た途端「お、来たのか」と言ってくれた。
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叮叮借りるのに結構なお金がかかった、4時間で1万ドル超えだよ?僕らみたいな低予算からすると大変なんだよ?時間も短いから必死で撮ったよ。と笑いながら教えてくれた導演。叮叮から見える景色が私の近所過ぎてついつい背景ポリスしてしまった。一つだけ前後の順がおかしいんじゃない?と思う所があったのはご愛敬ということにしておこう。
叮叮の外から中を撮っているショットは、手機を持った手を窓から外に伸ばしてこうやって撮ったんだよー、とお茶目に教えてくれた。
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「真愛,一生只有一次。」このコピーが本作の重要ポイントだそう。愛ってこういうものなのかな。なぜこんな男をずっと長く愛せるのかな。といろいろ考えさせられた。
香港での正式公開は3月だそう。日本プレミア取れるから大阪アジアン映画祭に出したら?と言っておいたので、暉峻さんお願いしますよ。皆さんも OAFF で観たいよね?
高先電影院にて鑑賞。★★★★★
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【2024年1月9日 二度目の鑑賞】
高先電影院から優先場にご招待いただいたので友人を誘って再度鑑賞。広東語をほとんど解さない友人だったので、鑑賞前に登場人物の説明とおおまかなストーリーを解説しておいた。
友人が観終わって開口一番に「英語字幕を追っかけながら観たけれど、字幕を読み切れないうちに消えてしまうので大変だった。日本語字幕はきちんと読み切れる字数に考えて作ってあるのは凄い。」と。日本語字幕製作者の苦労や努力を実感していただけて嬉しい。
今回の映後分享はもう一人の脚本家・呂筱華 も参加。
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チームワーク良すぎて映後分享に出て来た4人とも超リラックスしていて、そこらへんの友人と話しているような雰囲気。小説の著者で本作の脚本家でそして本作のプロデューサーである謝淑芬は、自分で思いついたこの話を映画にしたくなった、映画にする前に小説にしておこうと小説を書き、脚本家講座で脚本の書き方を学び、映画化するにあたって資金が必要だったので家を売って資金を作った、だそう。良い意味での執念の作品。
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ラストの小学生だった二人が元夫婦として叮叮に乗って最後の想い出を作るシーンは完全に創作だよ、と陳果。
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今回観て思い出した。途中で靜芬がダンスを習いに行くシーン。出てくる老師が完全に『Shall We Dance』ののり。身体的特徴は田口だが、キレッキレの踊りは青木。この老師でスピンオフ作ってほしいな。
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チケットを頂いた時に「ちょっとしたギフトがあるから、観終わったらチケットを持ってきてね。なぜこのギフトなのかは映画観ればわかるから。」と言われた。観終わってホワイエに出て頂いたのがこれ!
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なぜアイスなのか、本作を観ればわかるので、日本で公開されたら是非観ていただきたい。
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アイス食べるにはちょっと寒い日ではあったが、アイスは美味しかった。
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ほぼ真っ白な状態で観てくれた友人の素直な感想。「たくさんの想いの詰まった映画だった。香港人と大陸人の違いもよくわかった。貰うのではなくあげる人生も悪くないなぁと考えさせられるものがたくさんあった。願わくばCS放送で 日本語字幕で観たい。」嬉しい感想を頂きました。鑑賞前のおおまかな紹介以外は上映中敢えて何も耳打ちしなかったのだけれど、言葉がわからないし字幕も追い切れない中で、とても細かいところまで感じ取ってくれたのは素晴らしい感性だからだね。観てもらえてよかった。日本での公開は映画祭かキャセイの機内上映ぐらいじゃないかと思うので、チャンスある方は是非観てみてほしい。