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電影鑑賞記『誤判 The Prosecutor』(2024)

実は一般公開に先駆けて優先場のクルー用チケットで一度観たのだけれど、デカすぎる IMAX スクリーンの2列目だったせいで画面が視界に入りきらないわ、下から見上げるから画面が光ってよく観えないわで、鑑賞できたとは言えない状況だったことは以前の記事 『The Prosecutor 誤判』11/12/2024 優先場写真館 で書いた通り。

そして今度こそクルー用チケットを貰って自分の思うシートで観られるチャンスを得た。

私はスクリーン全部が視界に入りきる席が好きなので、これでも真ん中より後ろの列にしたのだけれど、ここもまたスクリーンが大きくてちょっとキツかった。もっと後ろ(上)でも良かったぐらい。

このポスター・ヴィジュアルは・・・わかるよ、かなりオール・スターものだから、なるべく票房取れそうな人物は出しておきたいのは。でも色目がちょっと暗すぎると思うの。ある程度の happy ending なのに。

ストーリーを大雑把に記しておく。刑事を辞めて検事になった霍志豪。初めて扱ったケースで被疑者を有罪に導いたものの、被疑者が突然主張を翻し無罪を主張し始めたことで、事件について再度調査する。裏でうごめく巨悪に気付き、身を挺して悪を倒し無実の被疑者を救い出す。大雑把過ぎかな?

追加撮影を含めた動作組の撮影が殺青したのは2024年2月。でもそこから脚本がかなり練り直されたのかして、当初の脚本からかなり変化している。例えば、楊鐵立(Francis Ng 吳鎮宇)は当初もっと悪役寄りの設定だったのだけれど、今公開されている版ではそういった影が薄くなっている。編集して尺を調整してみたら楊鐵立の嫌疑を外して尺をカットしていかないといけなくなったのかな、とか勝手に考える。

やっと全体を通して一つの作品として鑑賞できた感想としては、あれほど変更しまくりでぐちゃぐちゃになったものを、よくぞここまで纏めたね、というのが正直なところ。動作部分については日本の動作組がフル・メンバーで使える日程に限りがあったので必死で撮影。撮ったものはほぼそのまま全部使っている。これは大内タカさんを始めとする日本動作組チームが撮影する傍から編集を掛けて具体的なフッテージがすぐに観られるようにしていたおかげだと思う。編集能力が高いのが日本動作組の大きなアドバンテージ。

法廷での芝居部分は私たちが貰っていた脚本から随分変わっていたので、結局何度か追加撮影したのだと思う。芝居部分に関しては、動作組は出る幕が無いので、全く関与できず、役者との接触もほとんど取れなかったのが残念。法廷はセットを組んでいて、動作組は隣のスタジオでアクションを作っていたりした時に、セットの外で大法官の Michael Hui 許冠文やら辯護律師の Tommy Ju 朱柏康が休憩しているのは見かけたけれど、休憩とはいえ撮影中なので、セリフの練習をしていたり、その役に入りきった気持ちのセッティングを乱すわけにはいかないと思い声を掛けるのは憚られた。

役者同士でわいわい楽し気にお喋りしている時に、弁護士役で出演している『散後』(2019) の陳哲民導演には声を掛けた。『黃家欣』(2015) の Benny Lau 劉偉恒導演も裁判の傍聴者の役で出演していたのでちょっとだけお喋りした。

他にゆっくりお喋りできたのは、Mason Fung 馮皓揚 と Mark哥こと鄭浩南かな。馮皓揚は当初キャスティングが決まって名前を聞いた時に誰か思い浮かばなかったのだけれど、現場で会った時に、あ!『媽媽的神奇小子』だ!とすぐにわかった。撮影が終わってから、とても素晴らしい演技だったよ、と声を掛けたらとても嬉しそうにしてくれた。お世辞でなく、本当に素晴らしい演技だったと思っている。そして、Mark哥とは魚市場のシーンとボートのシーンでご一緒した。中村浩二さんがMark哥の部下役だったので、私が中村さんに付いていたのだけれど、Mark哥は日本語がとてもお上手で驚いた。なぜそんなにお上手なのですかと聞いてみたら、日本の文化が大好きなので勉強しましたと。大島さんのお名前を出すのはやはり憚られたので、そうなんですね!とお茶を濁しておいた。

魚市場とボートのシーンの撮影はマジで寒すぎて死んだ。めっちゃ着込んだうえにダウン着た。魚市場は海に面しているので寒い。しかも市場の営業の邪魔にならないように夜中の撮影。そんな中で中村さんは薄いシャツに魚屋さん用のエプロン。老臨(エキストラ)で参加した動作組の一人はテロンテロンの半袖シャツ。これでも十分寒いのに、まな板に南亞人の手を押さえつける役のうちの一人はの場務スタッフは黒のタンクトップ。かなり良いガタイで顔もなかなかのイケメンなのをド兄さんが見初めて「お前、顔も身体もいいな。ちょっと幕前やれよ。」とスカウト。スカウトするの良いけどあの寒さでタンクトップは可哀そうすぎだろ。その後引き続き俳優の仕事が入ってくるようになったのかどうかは知らない。

そしてそれより更に寒かったのはボートのシーン。当日は超寒くなると聞いていたし、ボートだから当然海上だから風ピューピューだし、しかも甲板部分は屋根こそあれ壁が無い吹き抜け、という地獄。そんな状況で中村さんの衣装はアロハ・シャツ1枚。流石に服裝部がアロハ・シャツの下に着るもの用意してくれたけど、それでも寒いって言ってた。役者は全員、カメラ回すまでは上着を着ておいて、準備に入ったら脱ぐ。もう可哀そう過ぎた。突然良い案を思いついた、って言ったってこの時期にボートは無いっしょド兄さんよ。しかも自分は出演無いからって一人だけぬくぬくの格好で、今日は寒いなー!ガハハ!とかあかんぞド兄さん。

ド兄さん、当初はこれほどまでのアクションを予定していなかったのだけれど、観客が欲するド兄さん像を提供する為にとアクションがどんどん増えていったのよね。でも傍にいた者としては、やっているうちにやっぱりアクションやりたい魂に火がついてあれこれやりたくなっちゃったように思える。満身創痍だし、もう年だから、と言いながらもアクション好き過ぎて結局やりたくなっちゃうんだろうな。そしていつものことながら日本の動作組のクオリティと努力は素晴らしい。いろいろなアイデアやアクションが生まれるのをその場で観ていられる幸せよ。

狙い通り観客の笑いが取れたシーンは二つ。ココナツを投げてぶつけるシーンと、楊鐵立をボロクソ言うシーンでの「打飛機」のセリフ。でもこの「隻揪」のシーンはなんかちょっと無理やり感あると私は思うのよね。

地鐵のシーンは美術部+VFXチームの才能と努力の賜物。VFXはPIKA PIKA がやっていたと思っていたのだけれど、end roll で FreeD になっていたぞ?そゆこと?

当初、ドローンは1カットだけの予定だったのに、やり始めたら欲が出てくるもの。あれもドローンで撮りたい、こんなドローン・ショットが欲しい、とアイデアが膨れると共に予算がガンガンに膨れていく。予算も考えなければならないが作品のクオリティの為には金を出す。その分、美しいショットが沢山撮れているので、かなり満足なのではなかろうか。

地鐵車輛のセットは邵氏片廠に組んであった。そのクオリティの高さをド兄さんも高く評価していて、地鐵車輛の撮影最終日だったかに「こんなに素晴らしいクオリティのものを撮影が終わって壊してしまうのはもったいない。どこかの博物館に寄付したらどうだ?」と言い出す。制作側から「いやいや甄生、このスタジオのレンタル期間があと数日で、撤収作業の日数を考えたら今日明日で引き取ってもらえる所を探さなくちゃいけないのですが、それはやはり無理です。」とダメ出しを喰らう。そこは流石に理屈がわかるので「あー、もったいないなぁ」と言いながら引き下がったド兄さんであった。

こういったちょっとした裏エピソードを知った上でこの製作特輯を観ると更に面白いと思うので是非どうぞ。

日本でも公開するでしょうが時期的には多分かなり後になると思われるので、世界中のどこかで観る機会のある方は是非劇場へお運びください。票房(興行成績)が良かったら慶功宴(成功パーティー)やると言っているので私に是非タダ飯をかっ喰らうチャンスをください!(そこか)

K11 Art House にて鑑賞。★★★★★(動作組を始めとする全クルーの辛かった日々を思い出せば★5個つけるしかないっしょ)

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