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電影鑑賞記『武替道 Stuntman』(2024)

以前の記事:香港電影鑑賞記:『九龍城寨之圍城 Twilight of the Warriors: Walled In』(2024)に引き続き、また別の素晴らしいアクション映画が公開された。

『九龍城寨之圍城』は完全なる娯楽作品だけれど、この『武替道』は私にとってはセミ・ドキュメンタリー。おかげで泣きまくった。(泣かせどころわかっている2回目鑑賞時もボロボロに泣いた。)

10月1日の半額デイ、しかも朝一番の回なので近所のお年寄りがわんさか来ていて、上を下への大騒ぎ。遅れて入ってきたせいで場内真っ暗なので席へ向かう階段をおばあちゃん踏み外すわ、周りが「おばあちゃん大丈夫!?」と騒ぐわ、列の真ん中席なのに遅れて入ってきたせいで既に座っている人の前を通るのに難儀するから詰めてもらえばいいじゃないと言われても「いいやワシの席は真ん中だから真ん中まで入る!」と譲らない声がデカすぎるじいちゃんとか。頼むよホンマに。

私の隣のご夫婦、私より少し年上な感じ。リアクションが良すぎて笑える。オープニングのクライマックス・アクションで「うぉおお!」と叫び(マジでごっついデカい声やった)、監督が「嘩!」を取りに来てるなというポイントでは必ず「嘩!」と声を上げる理想的な観客。これこそ劇場鑑賞の醍醐味。

まずは出演者について。

主役の森哥役 Tung Wai 董偉。私たち龍迷には言わずと知れた「Don't Think! Feel!」の彼、龍哥で育っていない世代にはTVBでよく主役を張っていた役者、といったところ。随分年を取ったなあとも思うけれど、童顔なのでまだまだ若々しく見える。

トレイラーには出て来ないので写真撮れなかったけれど、龍哥の銅像がドドーンと出る。龍哥の傍らで思いに沈む董偉、という絵は龍迷にとってはやはり嬉しい絵であり必須の絵である。監督の龍哥と董偉へのリスペクトだと見た。

セットのロケハンをした時に、武指の頭の中では既にその場でアクションが見えている(出来ている)というシーン。私は、監督やアクション監督の傍にいつもついているので、監督の頭のなかでこういう風にアクションが既に組み立てられているのだよというのをこれまで皆に説明してきたのだけれど、それが可視化されていて多くの皆さんにわかってもらえるのが嬉しい。

威哥役の Philip Ng 伍允龍のアクションは安心して観ていられるので、ついつい芝居に注目してしまった。今や有名になってしまってそれをちょっと鼻にかけているという設定とはいえ、ちょっと粋がり過ぎかも。「Never Say No」の発音が English native speaker のそれではなく香港人発音になっている(敢えてそうしているのだろう)のが笑える。

私は割と早くに気付いていたのだけれど、途中で威哥の過去についての種明かしがあった時に、隣のおっちゃんが「おおお!(そういうことか!)」と綺麗なリアクションの声を上げてくれていた。理想的観客アゲイン。

龍仔役の Terrence Lau 劉俊謙は、実は思うほどアクションしていない。『九龍城寨之圍城』の信一の方がよっぽどアクション・シーンが多かったので、これから観る皆さんは信一以上のアクションを期待されないように。打打殺殺のアクションよりは蹴られて吹っ飛ぶまさに武師のアクションが多い。

しかもまだまだ駆け出しでちょっとどんくさい設定なので、造形的にも垢抜けない。信一のほうがずっとカッコいい。

信一、いや龍仔は副導を任されているという設定なのだけれど、我らが李小龍會仲間の Leo Loも副導のような設定でずっと出ているので、結局どういう設定なのかが最初から最後まで気になった。龍仔が第一副導で Leo が第二副導なのかな。今度会えたら聞いてみようと思う。

[10月11日の2回目鑑賞で謎が解けた]
謎ではなく私のうっかりだった。龍仔が任されたのは「副導」ではなく「副指導」だった。つまり「副武術指導」。なので Leo Lo が(あ、また役名チェックするの忘れた)「副導」、龍仔は「副武術指導」なので役職は被らない。疏忽してしまい失礼しました。

やはり劉俊謙は芝居が良いので下の写真のシーンの迫力は十分だし、威哥の替身のシーンなので髪型も作ってあってカッコいい。髪型的には信一より好き。

常に辛口の映画評をする映画界の友人(女性)が「董偉は実に良い、劉俊謙が劇中で靚仔すぎるのがこの作品の「欠点」だが、それ以外には文句は無い」と言っていて笑った。

またまた劇場で面白かったことを。下記写真のシーンの紹介になるショットで、トラスのねじが緩んでいるのがアップになった瞬間に隣のおっちゃんが「お!(これは危ない!)」の声を上げ、トラスが崩れた時にも「嘩嘩嘩ー!」ときっちりリアクションしてくれた。理想的観客なおっちゃん。

このシーンでも、申し訳ないが森哥が上がってきてひとしきり話した後に「パッド付けてこい」って言った瞬間に、ああ、森哥がやるんだ、ってわかっちゃった。監督、察し良すぎてごめん。

とか言いながら今回(2回目)鑑賞で、屋上に上がってきた森哥が替身セットのバッグを持ってきたのに気付いた。が、バッグちょっと小さすぎだろ、衣装も入れたらもっと嵩張るだろうに?とも思ったけどね。

森哥が飛ぶ設定になっているのは察したとはいえ、もう現役スタントやっていない董偉がマジで自分で飛ぶとは想像だにしなかった。普通さすがにお年寄りにやらせないよね。替身立てるよね。だから飛び終わって段ボールの中から顔出して「無事だよ」とかいう絵が無いのだと思っていた。ところがよ!このシーン!董偉がマジで自ら飛んだのよ!現場でスマフォで撮った個人の動画が流れてきて本当に驚いた。董偉まだまだ現役。凄すぎる。

私的に出演者の中で特筆すべき数人も上げておく。

若き日の森哥を演じた Sing Lam 林耀聲。董偉に無理やり若作りメイクをして作らず、別人を立てたこの作戦は本当に良かったと思う。で、この林耀聲が次に観た『我談的那場戀愛 Love Lies』に出て来たので驚いた。単なる偶然で、それだけだけど。芝居はまだまだなのよ。頑張ってるの知ってるけど。

閒題休題。この林耀聲が引き起こした事故のシーン、実は『天使行動』での事故がベースになっているらしい。ただし、現実に怪我をした武師は訴訟を起こしたものの被告が破産宣告をしたせいで一文ももらえなかったらしい。

森哥が金仔の茶餐廳に行った時に Stephanie Che 車婉婉が出て来て、うぉっしゃ来たでーーーッ!となったね。深い悲しみを抱えているが故に相手にきつく当たってしまう性格の役をやらせたらピカイチなのよ彼女は。

そして茶水の蓮姐。『深宵閃避球 Life Must Go On』(邦題:真夜中のドッジボール)より芝居の尺が増えていて笑えた。てか、蓮姐に気付いて爆笑していたのは会場で私だけだった。そりゃそうだけどさ。

先日参加したド兄さん最新作『誤判 Prosecutor』(実はこの作品、当初は本日2024年10月1日公開を予定していたらしいのだけれど、編集が全然終わらず間に合わなかったらしい。本日時点で公開日がまだ確定していない。)でご一緒した香港武師たちが沢山出演していた。知った顔があっちでもこっちでも出て来て嬉しかった。街でバッタリ会えたら「観たよ!」って言ってあげたい。

そしてこれはネタバレというより、皆さんが観る前に言っておくから今観る機会があったらしっかり探してね、というのがワイヤー引っ張ってる男性連中の一番前にいるのが Sammo Hung 洪金寶の弟・二肥哥こと李志傑。何度かしっかり映るのでお見逃しなく。『イッテQ』でみやぞんが功夫のショート・ビデオを作った回を観た方は「あ!この人だ!」と思うだろう。

本編の内容についてもネタバレ最小限で私の感想だけ書いておく。

まずはオープニング。成龍の永安廣場のアクション・シーンのオマージュだけど、いきなりフィルムの色と質感。ここだけフィルムで撮ったのかと思った。もしかしたらフィルムかもしれないから謝票があったら監督に聞いてみたい。もうこの色と質感で胸キュンで泣いた。

何度も何度も泣いた。動作組付き通訳をずっとやってきているので、アクション映画、動作組の現実を知っているから。

オープニングの回想シーンでも。そうだよね、あの頃の武師たちはこういう風に命知らずでやってたんだもんね。当時の現場にはいなかったけれど、話はいろいろ見聞きしているので、ここでも胸キュン。事故については私が参加した作品でも武師が大きな怪我をしているのでほぼ実体験あり。

副指導の龍仔が当初は威家班の連中から相手にされなくて精神的に辛い状態、とあるアクションで気概を認められて溝が埋まりお互いをリスペクトし合える仲になっていく・・・といった運びについて。
こういったことは現場で本当によくあることなので、手短に纏められたこの過程を見ていて万感の思いが押し寄せて観る度に(といっても2回だけど)号泣してしまう。
私は日本動作班と香港動作班、あるいは大陸動作班が一緒にやる現場専門。お互いに其々プライドもあるし、やり方も違う。その溝を少しずつ埋めていく、或いは埋まっていく過程が必ずあって、皆がお互いをリスペクトし合える気持ちになった時に本当にスムースに回り出すのよ。それが現場でのしんどさでもあり面白さでもある。とはいえ、今の香港動作演員は日本のスタントマンと一緒にやったことがある人も多くてお互いに顔見知りだったりもするので、あからさまなすれ違い感は以前より少なくなったような気もする。そして幸いにも私はそういった現場に複数回参加しているので別の現場で一緒だった人も沢山いるし、動作現場慣れしているのは誰が観ても明らかだし、年がいっているせいで(特に香港人の)若手は姐さんとしてリスペクトしてくれるので、龍仔ほどの孤独感は無いかも。

所々にちりばめられた「香港武打片は低迷しているけれど、火を絶やしてはいけない、諦めない」というセリフやシチュエーションにこれまた泣けた。

アクションの現場でいつも目にしているけれど映画本編の画面には映り込んではいけないイントラやトラスやクレーンといった設備、それを動かしているクルー、安全確保用のウレタンといった物や人が現場のままに出てくるのが嬉しくて泣いた。

最後に龍仔の兄ちゃんが段ボールを山ほど持ってきた時。流れ的に絶対そうなるとわかってはいたけれど、あの数を見たら泣いてしまった。あれだけの段ボールを急遽調達するのって本当に大変なんだよ。画面に映っているのは多分500個程度だと思うけれど、実際の現場では少なくとも1000個は用意しただろうなとか考えちゃって。

動作組のあれこれがぎっしり詰まっていて、もうあの映画の現場に自分も入っているようなワクワクとドキドキと胸キュンと・・・いろんな感情がこみあげてきて物凄く泣けた。こんな映画でこんなにボロボロに泣いてるの私だけだろな。絶対にもう一度観に行く。

しかし日が経つにつれ、この作品を観たという人の感想が増え、武師以外の男性や映画業界にいる女性で「めっちゃ泣いた」という香港人が増えている。こんなに低予算(首部劇情片計畫受賞作なので800万香港ドルのみ)で20組(20日の意に近い)でこんなクオリティの作品を撮りきったのは凄いとの声も増えている。監督に聞いてみたいことが増えてきた。謝票か映画祭で会って話したいな。

キャスティングについて監督が話しているインタビュー記事を教えてもらったので参考までに貼り付けておく。

高先電影院にて鑑賞。★★★★★

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