![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/168855354/rectangle_large_type_2_7364c5a7252a2e15d3772c0c1376b334.jpg?width=1200)
電影鑑賞記『十方之地 Obedience』(2024)
ドキュメンタリー作品はあまり観ないのだけれど、これは口碑(口コミ)がとても良いので観ておこうと思っていた作品。実は少し前に書いた電影鑑賞記『只是影畫 Still Life』で「ゴミ収集者のドキュメンタリー作品だと勘違いして」と書いたのがこの作品。やっと観られた。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/168966944/picture_pc_3c852c69475e8131e9748b7710c64c34.jpg?width=1200)
話が少し逸れるが、実は私、数年間「アジアン・ドキュメンタリーズ」というドキュメンタリー専門の配信チャンネルの香港映画リサーチャーをやっていた。その時点までの全ての港產紀錄片を紹介し尽して、もうこれ以上ありませんということで終了した。このチャンネルは曾翠珊の『河上變村 Flowing Stories』を配信したこともある。とても質の高いものを配信しているのでドキュメンタリー好きの方は是非サブスクしてみてほしい。
![](https://assets.st-note.com/img/1736168861-UbBh8jWnZaMOGQED12pygVCk.jpg?width=1200)
とりあえず観やすい時間帯のを選んだのだけれど、チケット購入時には映後分享があると書いていなかったはず。End roll が始まった頃に入口から人が入ってきてスクリーン脇に立ったのを見て、もしや謝票ありか?と。海上が明るくなって前に出て来たのは黃肇邦導演だった。まだ若いのに本作がドキュメンタリー7本目である。
![](https://assets.st-note.com/img/1736168912-F0xUmnJqGaYOPWr9cshBkd5z.jpg?width=1200)
実はこの上映前日夜、ほぼ同じ時間帯に隣のスクリーンで上映の『破・地獄』に急遽映後分享が入り「しまった・・・」と思っていたのだけれど、時間を計算したところ、本作上映10分後に『破・地獄』が終わるので、これを観た後、ホワイエで待っていれば『破・地獄』映後分享チームに会えるな、監督と話せるな、とホクホクしていたのであった。
ところが、作品の尺が短いせいか、次の上映まで時間がかなりあったのかして、この映後分享が長い長い。終わったら『破・地獄』の映後分享もすっかり終わったんじゃ?という時間で、そちらのチームに会えず。。。残念。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/168855399/picture_pc_a20e8fbbc087da7d31a0d5fbf52a83c4.jpg?width=1200)
話を本作に戻そう。場所は紅磡。内容は大きく三つのパートに分かれている。第一パートは觀音借庫(その年の金回りが良くなるように観音様にお金を借りる日)の模様。香港は(言い方が下衆だが)お金で様々なことが決まる大都市。民衆がお金のことを非常に気に掛けるのは当然のことだが、その傍らでゴミを金に換えて生きる底辺の人たち(ほとんどがおばあさん)を映すことで貧富懸殊をメッセージとして伝える。メインである第二パートはゴミ回収業者の生活を描く。レストランのゴミを日に二、三度店先から回収して垃圾站に持っていく男性とその家族をメインに第一パートに登場するおばあさんたちもクロスオーバーさせる。ここで話を聞かせてくれる人たちは皆淡々と生きていく。メインの男性は自分の仕事に誇りを持ち、家族を養っている自分は偉大だとまで言い切る。第三パートは俯瞰のアングルを使うことで沙中綫という新しい機能と長生店(葬儀関連物品商店)や廃品回収業者の衰退や撤退といった古い商売の対比と交代を描いている。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/168967026/picture_pc_b36adbf34042e2f67704de6e312d52dc.jpg?width=1200)
導演が本作で投げかけたかったものは、格差への気付き、変わってゆく都市とその足元で変わらぬ生活を送っている「社会から忘れ去られた」人々、その人々は実は自分の背後で大きな変化が起きていることに気付いていないということ。金を持つ者と持たない者や新しい物と古い物のバランスをどうやって取ればいいのか。これまでの映後分享で少なからぬ観客から、こういう人たちをどうやって助けてあげれば良いのか、彼らはどんなサポートを必要としているのか、私たちに何ができるのか、という質問が出たという。「何も要らない、何もしなくていい。ただ、誰もと同じように人としてリスペクトしてあげてほしい。」というのが導演の答えだそう。すごく良くわかる。本作を撮る為に非常に長い準備期間を設けた。このエリアに足を運び、半年ほどしてから、撮影の対象となりそうな人々への声掛けを始め、撮影に二年は掛けたという。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/168855400/picture_pc_3833d9d57d36236fa8b78216b69c3ae5.jpg?width=1200)
鑑賞しながらずっと『破・地獄』のことが頭から離れなかった。まずはタイトル。『破・地獄』のトレイラーで文哥のセリフに「好聽啲事就食十方飯,唔好聽就發死人財=良く言えば十方(あらゆること)で飯が食える、悪く言えば亡くなった方(のおかげ)で儲ける」というのが物凄く印象に残っていたのだが、本作タイトルもいみじくも『十方之地』である。これがまず私の興味をそそったのは確か。
そして両者共に舞台は紅磡。本作の中で「世界殯儀館」や長生店が何度も映る。導演は「十方」というタイトルの字面について、この紅磡というエリアの特色がやはり葬儀関連であるということと、実は「拾荒 sap6 fong1=荒れ果てた」との double meaning も狙ったと言う。確かに、再開発の工事がまだ始まらない区域やビルは「拾荒」状態である。上手い。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/168855404/picture_pc_866525c3031dd37d3c9226a7f4868505.jpg?width=1200)
導演に、本作は良い意味でドキュメンタリー的過ぎず、どちらかというと劇情(ドラマ)的な雰囲気を感じたと言ったら、実はそれを狙っていたんだよと喜んでくれた。帰り道が同じ方向だったので、いろいろとお話しながら一緒に歩いた。これ、大阪アジアン映画祭で掛けて欲しいな。World Premier は取れないけど、Japan Premier は取れるかもしれないからさ、テルさん、お願い!アジアン・ドキュメンタリーズにも久しぶりに紹介してみようかな。
高先電影院にて鑑賞。★★★★★
【おまけ】百老匯電影中心でも大力推介だったので。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/168994629/picture_pc_e8c6e900297a2ac963499900e9f39b4c.jpg?width=1200)