私がどうやって広東語通訳者になれたのかを紐解いてみる(51)『追捕/Man Hunt』- 追加撮影とアフレコ -
無事撮影終了した『Man Hunt / 追捕』だったが、それでおさらば、とはならなかった。今度は「後期工作=ポスプロ」という快楽的アリ地獄へ。
補拍=追加撮影
俗に言う「追撮」が行われた。香港から最低限のクルーがやって来た。俳優本人は来ない。吹き替えもしくはスタントマンのみ。
補拍ももちろん初参加の私。映画製作に関わっている人なら、どのシーンがどれほどヤバかったか本編観ればわかると思うけれど、あまりにヤバイことばかりだったので、詳細は書けない。
あまりのヤバさにビビりまくりの私に香港人カメラマンは「大丈夫だって。サッと撮ってサッといなくなればいいんだから。」
「あんたたちは香港人だから、え?日本語わかりません、ごめんね~、って切り抜けられるけど、私はどうすんのよ!」「Sophie も広東語だけ喋って香港人の振りしとけばいいじゃん!」「あ、そうか・・・・・いや、でも、私BNO(註1)持ってないしーー!!」
補拍はなんとか怪我人も逮捕者も出さずに終了して香港人クルー達は帰って行った。
(註1)正しくは「BNO = British National Overseas 英国海外市民」のことであるが、英国から英国海外市民である香港人に発給されるパスポートを香港人は通常BNOと呼んでいる。
配音=アフレコ
2017年8月30日から9月9日のヴェネツィア映画祭出品が決まり、間に合わせる為に必死の編集作業とスケジュール調整。
一番最初に出たラフカットは4時間半あったと監督本人の口から聞いた。「この作品はストーリーがスカスカだ」というレビューを見かけたが、4時間半のものを110分にしようと思ったら、そりゃスカスカにならざるを得まい。事情を知らん奴が勝手なこと言うな!とも思うけれど、仕方がない。傍らでずっと見てきた者としてはちょっと悲しいレビューだったけれど。
ラフカットを半分以下に切ったのだから、セリフも随分カットの憂き目に。脚本日本語版担当および日本語指導係の私の業務は、セリフをカットしても流れがおかしくならないように整えるところから始まった。
そして東京のスタジオでアフレコ。
出演俳優たちのスケジュールを調整、の中には実は私も入っている、むふふ。そう、彩奈です。
なんと、普通話のセリフ用の老師がスタンバイされていた。私だけの為じゃないよ。主演俳優も、というか主演俳優用に雇ったのだと思うけれど、私も普通話セリフがあったのでご指導いただいた。
因みに、例の成龍専属の英語の Dialogue Coach もスタンバイしていた。もちろん主演俳優の英語セリフの指導の為。ご本人一生懸命頑張っていたけれど・・・実は・・・。
さて、彩奈のアフレコ。レコーディング・ブースに入って皆が注目している中でモニターに映る映像を見ながら一人で芝居をする、というのはさすがにちょっと緊張した。いや、緊張というより照れる。現場じゃないから雰囲気も無いし、話しかけているはずの相手も目の前にいない。なんだかこっぱずかしいので目の前のモニターの集中するしかなかった。
被弾の瞬間の叫び声は「ああっ!」と女性らしいたおやかな声をあげてみたところ、監督から「違う、ウッ!だ」とオッサンかと思うドスの効いた声の要請が出され、「ウッ!」で一発OK。彩奈、ますます可愛げ無し。
アフレコで一番面白かったのは國村準さん
当初國村さんは「俺、アフレコなんか一度もやったこと無いのに!現場と違うから気持ちの入り方が違うんだぜ?どうやってやんのよ?」と激おこぷんぷん丸でスタジオ入り。スタジオ中ピリピリ。
「香港映画は全部アフレコですが、『ハードボイルド 新・男たちの挽歌 / 辣手神探』にも出ていらっしゃいますよね?」
「あれはね、俺はアフレコしてないの。だからアフレコなんてやったことないの!今回が人生初なんだよ!」
しかしさすがの國村さん、やってるうちに慣れてきて、最後にはノリノリになってしまった。OKが出ても「あ、ちょっと待って。もう一回やっていいかな?ちょっと違う感じでやってみたいんだよ。」とか探求心が素晴らしい。
全て録り終えた時には「いやー、楽しかったよー!アフレコって、やってみたら面白いもんだねー。」とご満悦でスタジオ内も胸をなでおろした。
池内博之さんの変貌
池内さんがスタジオに現れた時には驚いた。あまりの変貌ぶり。さすがの私も「えええ!すごいことになってますね!」とご本人に言ってしまった。
実はこの時の池内さん、次の作品の準備に入っておられた。それは来年やっと公開になる香港映画。オフィシャルのトレイラーが出ているので情報解禁だとは思うけれど、トレイラー観て何の作品か当ててみてね。
ある日、『追捕』の副導演から写真が送られてきた。「さっき突然「お久しぶり!」って道端で声掛けられたけど、最初は誰かわからんかった!」
次の作品を香港で撮影されてると知らなければ、香港の街角でこの風貌の人に突然声掛けられても、そりゃわからんよね。
香港は狭い。香港電影界も狭い。道端でばったりなんて日常茶飯事。(続)
(註)トップ画像は Cinemas PLUS からお借りしました。ありがとうございます。多分オフィシャルの宣材だと思うけど、とりあえず。
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