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私がどうやって広東語通訳者になれたのかを紐解いてみる(55)- 『肥龍過江 / Enter The Fat Dragon』香港ロケ -

『追捕 / Man Hunt』やったのか!
あれをやったのなら、もう何が来ても大丈夫だな!

この作品の七転八倒ぶりは業界でも有名で、この作品を乗り越えられたのなら、後はどんなに苦しい厳しい作品が来ても屁の河童だと誰もに言われる。香港でも日本でも。喜んでいいのか悪いのか・・・。私にはプリプロからポスプロまで全てを乗り切った体力と気力があるという証明になるのだから喜ぶべきかもしれないね。

『肥龍過江 / Enter The Fat Dragon』

そんな中、次の作品に呼んで頂いた。『肥龍過江 / Enter The Fat Dragon』邦題は『燃えよデブゴン / TOKYO MISSION』。私のポジションはアクション部付き通訳。日本からのスタントマン・チームのお世話を承る。

アクション部やらせるなら『追捕 / Man Hunt』で動作組(アクション部)付きだった Sophie がいいんじゃね?となったんでしょうかね?谷垣さん?アクション好きな私は「うぉっしゃーー!」とガッツポーズでしたけど。

この作品も長かった。香港、東京、深圳それぞれ約1ヶ月ずつの撮影。

まずは香港。アクション監督タカさん、アクション・コーディネイターのSさん、ワイヤー師Oさんと顔合わせ。(公開日決まったからもう名前出してもいいかな?)『追捕 / Man Hunt』ではSさんとOさんのポジションの方はいなかったので、何がどうなるのか予想も出来ないド素人状態の私。

こちらはド兄さんのオフィシャルからお借りした写真。我らがタカさんの日本動作組とイム・ワー嚴華師傅の大陸動作組が全員揃っての顔合わせ記念。

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香港では外景での撮影がメイン。初日から動作組の出番。私は、上記の3人と谷垣監督とド兄さん以外はまだ「顔も名前もわからない」ぐらいの状態で現場入り。いきなりハプニング続出でてんやわんや。だって隣にいる人が名前どころか何を担当している人なのかもわからないのだから。

通訳業務をやりつつ、まずは動作組のメンバーの顔と名前を覚えることから始めた。お世話する日本人チームをいの一番に覚えるのは当然のこと。次に茶水姐の名前。現場の茶水姐って結構重要人物なのよ。なんせ動作組ですから、飲料やご飯の確保が大事なの。それから徐々に制片組(制作部)、特化(特殊メイク)組、場記、場務、劇務、道具組、美術組・・・。大所帯だけれど香港人の名前って覚えやすい。英語名にしろ中文名にしろ、香港人って名前と顔や雰囲気がピッタリ合っているのよね(と私が勝手に感じているだけだけれど)。

そして香港人クルーは皆優しい。特に男性は女性をきちんと気遣ってくれる。これは植民地政策の良き名残だと思っている。なのですぐに打ち解けて仲良くなってコミュニケーションがスイスイ進む。香港人と一緒に仕事するのは本当に楽ちん。

アクション・シーンの無い日の動作組はアクション作りと練習に明け暮れる。本作も香港映画のご多分に漏れず脚本が変わる変わる。その度にアクションを作り直したり調整したり動作組って結構忙しいのよ。作ったアクションを美しく動けるように、そして怪我をしない為に、何度も練習する。その間に私は動作組の為に新しく出て来た脚本を翻訳する。やはりこのパターン。香港電影で通訳やる際には翻訳もやらされるのがデフォルトと覚悟しておく方が良いのかもしれない。

今の世では日本人スタントマンが世界で最も優秀だという。これは事実。私も2作品続けて日本人スタントマンの傍にいて感じた。動きのバリエーションや美しさの創造力は元より、怪我をしないことを重視しつつ進めるのはやはりプロとしての矜持。サポーターもいちいち細かく調整しながらベストの状態に作り上げてから使う。私達の大好きな昔の香港動作片の「命知らず」のスタントは本当に無茶だったよなと今更思う。

アイデア出しまくって練習しまくってあれこれ改造しまくって、結局危険すぎると諦めたアクションもあったっけ。

香港での撮影は私個人としては気が楽だった。ホームですから。どちらかというと次の東京と深圳がアウェイでしんどかったな。(続)

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