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電影鑑賞記『曾經擁有 Remember What I Forgot』(2017/2025)
この作品、実は『電影痴漢』という原題で2017年に撮影したものを7年も寝かせてやっと公開にこぎつけたそうな。なので、タイトルに付ける年表記に(撮影年/公開年)の両者を入れた。これでまずはこの作品の特別さがわかっていただけるかと。撮影はしたものの一向に公開されないということで「都市伝説」となっていたらしい。導演自身も「やっと出土した」と笑いを取っているという。
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上記写真の「一月11日電影痴看」がおわかりいただけるだろうか。「痴看」は無理やり訳すなれば「バカみたいに見まくる」。本作の原題が『電影痴漢』、「痴漢」と「痴看」は「chi1 hon3」で同じ音。こういうウィットが香港人らしいところ。
ちょっと脱線するが「痴漢」という日本語の単語は香港人(港式廣東話)には「變態」の意味として定着して久しい。但し本作の原題『電影痴漢』は、映画を観て痴漢行為を働く野郎の意味ではなく、「電影に対して痴(バカ=オタク)である漢(=野郎)」として使われているので誤解なきよう。
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写真を見てわかるかと思うが、謝票場なのに空席が結構あるのは
1. キャパがデカすぎ(ざっくり見たところ400はある)
2. Philip Keung 姜皓文、Fish Liew 廖子妤、Endy Chow 周國賢では港產片迷ではない一般観客も呼び込んで400を満員御礼にするにはちと弱い
ということなのだろう。謝票を見ずに席を立った観客もいた。
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おおまかなストーリーを書いておく。港產片電影人にとって最も恐ろしいのはネガティブな評価しか書かない「劣評王子」。TV局プロデューサーの姜世傑(=廖子妤)は、撮影現場になぜか必ず現れる吳少金(姜皓文)が「劣評王子」ではないかと睨み、番組のネタにする為に仲良くなるが、吳少金の背景を知るにつれてネタにすることを躊躇うようになる。
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まず最初に私の心を掴んだのは「吳少金」というネーミング。「唔少金」と掛けたなと。記憶力に問題があるという発達障害的な症状を持つ底層の男の名前が「唔少金」というのは港式ブラック・ジョークである。
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当初『電影痴漢』というタイトルで製作されただけあって、あらゆるところに明に暗に港產片への愛とリスペクトが詰まっている。吳少金の部屋には港產片DVDやVCDのみならずポスターがあれこれ貼られているのだけれど、その中に当然ながら龍哥作品もあった。
【修正】と、思っていたら二度目の鑑賞で龍哥のポスターが貼られているのは虎哥(吳志雄)の店だったことを確認。吳少金の部屋のシーンで延々ポスターが出て来ないなぁ、私の思い違いだったか?と不安を抱えて観続けていたら虎哥の店で出て来た。私の記憶も当てにならんなぁ。失礼しました。
さて、その龍哥のポスターが『精武門』と『雷雨』なのは、それが手に入りやすかったせいか、導演の好みなのか。
作品全体を通して、港產片の1シーンを彷彿とさせたりオマージュだとわかる画を沢山挿入してある。例えば、オープニングは『一代宗師』ですよねと観客に言われ「どこで何をオマージュしているかは敢えて言わないので皆さんであちこち探してね」と回答したり、吳少金が映画を観に行くのが「人手劃位」の劇場だったり。港產片愛に溢れている。寶石戲院が健在なうちに行っておきたくなっちゃった。
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天下一電影作品とはいえ、資金的になかなか厳しかったのか、或いは敢えてその面白さを使いたいという意図からなのか、ゲリラ撮影を所々で使っている。荔枝角道ではないかと思われるバス停前(店の前)での喧嘩シーン。
【追加】店に向かう姜世傑と肥腸の背後にぼかしてはあるが「飛鷹餐廳」の看板が見えた。やはりこのバス停は私が大南天梯への行き帰りに使うバス停だ。私の直感もなかなかのものよ。
そして、北河街街市の角と思われる四つ角から内街を歩くシーン。北河街街市らしきシーンはドローンによるトップ・ショットである。資金的に厳しいのではないかと推測するが、案外ドローンも使っているのは、やはり画へのこだわりか。周りの待ちゆく人が振り返ったり足を止めて演員を見たりするので、これは本当のゲリラ撮影だと思う。古き良き港產片の雰囲気がこういう所にも感じられるのも良い。
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黑哥こと姜皓文については、これまで『翠絲 Tracey』が初主演作ということになっていたのだけれど、撮影順で言うと実は本作が『翠絲 Tracey』より先に撮影されているので、真の初主演作はこちらということになる。芝居は言わずもがなでとても良い。
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廖子妤は見た目が今と変わらないので、他の演員に比べて違和感が少ない。芝居にまだ少し硬い所もあるが、キャラを上手く体現していて良い。
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何よりも誰よりも周國賢の違和感が凄い。私は彼が歌手であることを全然知らず、『一秒拳王』で初めて認識し、『白日青春』で「あれ?この人『一秒拳王』だよね?」となり、『全個世界都有電話』で「おお、芝居が凄く上手くなったね」となった。『全個世界都有電話』での印象が一番深い(新しいと言うべきか)ので、本作で観た瞬間「え?若いやん、いや、子供やん?」と感じた。芝居は悪くはないけれど全くもって垢抜けていない素人に毛が生えた子、という感じ。7年でこんなにも変わるのか。
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そして、私的サプライズで地味に嬉しかったのが Mang Hoi 孟海の出演。今この記事を書いている時点では Hong Kong Movie Data Base にはまだ反映されていないが、製作年からみるとこれが最後の出演作のようで、感慨深い。
そうそう、エンド・ロールでかかるテーマ曲は胡子彤だよ。なんで周國賢じゃないのかな。
嘉禾海運戲院にて鑑賞。★★★★★
と、書き終わったところで電影朝聖 Gary が導演のインタビューを出してくれているので、中文ですがご参考まで。なぜ公開までに8年もかかったのか等等、興味深い内容になっているよ。