私がどうやって広東語通訳者になれたのかを紐解いてみる(44)『追捕/Man Hunt』- 超大物の陣中見舞い -
ハイスピード撮影
彩奈が銃弾に倒れるシーン、実はハイスピードで撮影したのよ。ハイスピードでの撮影と聞いた時、え?もしかして本編でスローモーションにしてくれるの?吳宇森電影で銃撃戦でスローモーションなんてサイコーじゃない!と思ったのだけれど、結局本編ではノーマルスピードでの採用だった。残念。
彩奈という名前はクルーにとって大事なんだよ
しかし、この「彩奈」という役名、日本版では「アイダ」だったかに変わっている。日本で観たときに「え?なんで?」と思った。家政婦のおばさんに「彩奈」なんていう可愛い名前は似合わないと思って配給が変えたんだろうかと思うけど、それってエエの?監督が付けた名前だよ?ちゃんと了承取ったのかな?自分でも可愛すぎる名前だとは思ってたけどそれでもちょっとムカついた。クレジットも彩奈なのにさ。
役名もセリフもあったおかげで私は香港電影業界に女優としてクレジットされたのでこの「彩奈」という役と名前を私はとても大事に思っている。
またもや大物が陣中見舞い
牧場は私有地なので所有者に迷惑がかからないようにと、ここで撮影が行われていることは本当に関係者にしか知らされていなかった。山の中すぎてGPSさえ使えないような場所だったのに、陣中見舞いに来られた方がいる。監督の隣に座って脚本チェックしたり俳優たちの日本語チェックなどしていて、ふと振り向いたらこんな方が音もなく座っておられた。
大阪城外での Eddie Peng 彭于晏にも驚いたが、あれは大阪市内。たまたま日本にいるから陣中見舞い行っとこか、はまだわかる。こんな誰も知らない場所でしかも山道のルートを本当にわかっている人の車で来るしかないところへの陣中見舞いは「ついで」ではない。「わざわざ」だ。
喧嘩別れして一時期絶縁していたという噂を聞いていたが、今の事実はこれだ。やはり吳徐タッグは鋼鉄だった。当然脚本にはツイ・ハーク徐克エッセンスが数滴垂らし込まれたらしいが、どの部分にどうなのかはわからない。
監督はツイ・ハーク徐克とどんな風に一緒に仕事をしてきたのかという昔話をたくさんしてくれた。あまりに細かい話で作品名がたくさん出て来すぎて、とにかく監督が才能を発掘して育ててやったという大筋しか覚えていないのだけれど。
この牧場シーンでの撮影は私にとって大切な宝物になった。撮影中は本当に苦しかった。撮影は家の中、カメラに映り込まないように遠いところに設置してある屋外の簡易トイレに行くには靴を脱いだり履いたりしなくちゃいけない。そしてなぜかいつも上手い具合にトイレに行っている時に呼び出しがかかる。トイレもおちおち行っていられない。私が彩奈を演じることになったおかげで某俳優がややこしいことになり現場が振り回され続けた。屋外での撮影だからと気合入れて買った3万円もした Ray-Ban のサングラスをたった一日で失くした。ずっと付けていたダイヤのネックレスも失くした。
それでも、彩奈の役を頂いたこととツイ・ハーク徐克に会えたことは辛かった全てを凌駕する。大きな実りと思い出の場所となった。(続)