2022年施政方針演説を斬る
言行不一致の極み
2022年1月17日、ようやく通常国会が開催されました。1月上旬の時点でオミクロン株の急激な感染拡大となったにもかかわらず、中旬まで国会を召集しなかった事は「岸田内閣の懈怠」であると言わざるを得ません。昨年8月に東京五輪/パラリンピックを敢行して感染爆発/医療崩壊を惹起させたのみならず、野党の要求を無視して臨時国会を召集しなかった事に関して(当時は菅義偉内閣でしたが)、岸田文雄と言うより自由民主党政権は全く反省をしていないようです。過去の経験/失敗から学ぶ事もできないようでは到底政権を担う資格はありません。
さて、通常国会開催にあたって内閣総理大臣である岸田文雄による「施政方針演説」が行われましたが、予想通り「美辞麗句を並べ立てるも中身が伴っていない」ものでした。これは2012年の安倍晋三内閣以降の自由民主党政権の伝統でしょうか。本来ならば、施政方針演説の全文についてコンメンタール的に解説したいところですが、突っ込みが追い付かないくらい膨大になる事は自明なので、ここでは問題となるフレーズを相当絞り込んで論評していきます(以下、深刻な順に取り上げているため、実際の演説の順序とは異なります)。
1:「私自身、総理に就任した時から、デルタ株を超える強力な変異株が現れる、そうした最悪の事態を想定して万全の体制を整えるべく政府を挙げて取り組んできました」
岸田文雄が内閣総理大臣に就任した直後に「任期満了に伴う衆議院選挙」が行われたわけですが、その前に臨時国会は召集されたものの、野党が要求していた「コロナウイルス禍対策のための議論」はほとんどされないままあっという間に解散されました。そもそも自由民主党の総裁選の時点で、恰も「コロナウイルス禍は終息したもの」であるかのように総裁選にかまけていました(そして菅義偉は「新型コロナ対策に専念する」という理由で総裁選に出馬しませんでしたが、一体何をやったのでしょうか。何故未だに空港検疫は抗原検査のままなのでしょうか)。
そしてオミクロン株の感染拡大に際して「大学入試共通テスト」への懸念が叫ばれる中、文部科学大臣の末松信介は「これほどの急拡大は想定していなかった。いろんな意見があることは分かっているが、受験機会の確保に向け精いっぱい努力をした」と弁明しました。岸田が施政方針演説で「最悪の事態を想定して万全の体制を整えるべく政府を挙げて取り組んできた」と述べたのは一体何だったのでしょうか。閣内不一致でしょうか。言い訳の如く使われる「想定外」というフレーズですが、要は「想定して対応すべきだったにもかかわらず想定していなかった」という事であり、懈怠以外の何物でもありません。
2:「内閣総理大臣に就任してから、国内外の山積する課題にスピード感を持って決断を下し対応してきました」
南アフリカでオミクロン株が発見され、市民や野党が「空港検疫をPCRにすべし」と要望していたにもかかわらず、それを全く聞き入れずに抗原検査を継続。挙げ句の果てには厚生労働大臣の後藤茂之が「PCR検査キットはコンテナくらいの大きさ(だから導入できない)」といった嘘を国会で言い出す始末。岸田内閣にとっては市民の生命や健康よりも抗原検査の方が大事なのでしょうか。政府にとって抗原検査でなければならない正当な理由があるとでもいうのでしょうか。果たせるかな、オミクロン株の侵入を許し、感染拡大第6波となりました。そして感染拡大してから「蔓延防止等重点措置」と言い出す始末。そもそも感染拡大拡大してから蔓延防止しても全く無意義です。「後手後手」のみならず「事後対応も無為無策」という救いようのない醜態です。
3:「皆さんの声に丁寧に耳を澄まし、状況が変化する中で、国民にとってより良い方策になるよう、粘り強く対応し、判断の背景をしっかり説明する努力をしてきました」
先に述べた通り「空港検疫にPCRを」といった声はガン無視です。のみならず「森友学園事件」の訴訟について、政府側は事もあろうに「請求の認諾」という形で強制的に問題を終結させました。「認諾」と聞けば「相手方の言い分を認めるもの」と捉えられがちですが、民事訴訟手続においては「請求が理由のある事を認めて一方的に訴訟を終了させる行為」を指します(民事訴訟法第266条)。そしてこれが調書に記載させると「確定判決と同一の効力」となります。つまりこれ以降「上訴で争う事ができなくなる=財務省による不法行為が闇に葬られる」事になります(同法第267条)。これは原告である赤木雅子氏、そして命を絶った赤木俊夫氏を愚弄する行為であり、到底是認できるものではありません。「聞く力」をアピールしておきながら、自分達にとって不都合な声は捻り潰すのが岸田内閣であると言っても差し支えないでしょう。政府側の「不意打ち的な認諾」については、同法第2条に規定される「信義に従った誠実な訴訟追行」とは到底言えず「権利の濫用的行使」となるでしょう。
4:「先の臨時国会において憲法審査会が開かれ、国会の場で憲法改正に向けた議論が行われたことを歓迎します。憲法の在り方は国民の皆さんがお決めになるものですが、憲法改正に関する国民的議論を喚起していくには、我々国会議員が国会の内外で議論を積み重ね、発信していくことが必要です。本国会においても、積極的な議論が行われることを心から期待します」
まず、国会議員を始めとする「公務員」は、憲法第99条に規定される通り「現行憲法を尊重し擁護する義務」を負います。つまり国会議員を始めとする「公務員」の使命は「憲法/法令の枠内で問題解決に向けた活動を行う」事です。「憲法改正に関する国民的議論を喚起する事」は国会議員の職務ではありません。そもそも、安倍晋三/菅義偉/岸田文雄の内閣3代に渡って「臨時国会の召集を不当に引き延ばして問題について議論をしない」という「憲法違反行為」をしてきているわけです。私のnoteでも何度も述べていますが、現行憲法(と、公職選挙法を始めとする各種法令)も遵守できないのに「憲法改正」等と言い出す厚顔無恥振りを、岸田始め自由民主党議員はいい加減に恥じるべきです。
5:「昨年末に明らかになった建設工事受注統計調査における不適切な処理についてひと言申し上げます。先週14日に国土交通の第3者委員会及び総務省の統計委員会及びから検証結果が高評価されました。検証結果を真摯に受け止め、国民の皆さんにお詫び申し上げます。関係大臣に対し、直ちに再発防止に取り組むよう指示しました。政府統計全体の信頼を回復するべく指導・監督してまいります」
所謂、国土交通省による「基幹統計改竄事件」ですが、これは2013年~2019年にかけて、つまり第2次安倍晋三内閣発足直後から約7年間に渡って二重計上という「国家の統計の基盤を崩壊させる行為」が行われてきたという事です。しかも調査票自体が書き換えられた上に書き換え前の調査票の控えが残存していないため、正確なデータの復元が極めて困難という状況です(端的に言えば「約7年間の日本のGDPを始めとする経済指標が『空白』となっている」わけです)。つまり「アベノミクス」は「捏造されたデータの上で成り立つ虚構」である事が証明されたという事になります。結局、二重計上の結果、1月あたり実に1.2兆円の差額が生じた事が判明しました。
国家の経済指標を崩壊させる程の不祥事にもかかわらず、経済再生担当大臣の山際大志郎は「(上記の差額について)非常に軽微なもの」という認識でした。軽微であれば改竄をしても許されるとでも思っているのでしょうか。経済再生のためならば改竄も辞さないとでもいうのでしょうか。
ところで、安倍晋三が「経済界大賞」を受賞したようです。「アベノミクス」等の経済政策が評価されたとの事で本人は悦に入っていたようですが、先述の通り「アベノミクス」は「捏造の上に成り立つ虚構」です。虚構で満足するとは、厚顔無恥も大概にして貰いたいものです。
6:「国民の皆さんの『またか、いい加減にしてくれ、もう限界だ』という声を、私自身聞いてきました。しかし、新型コロナという目に見えない敵は想定以上に手強いことを改めて認識しなければなりません」
「認識しなければならない」のは市民ではなく岸田政権です。市民のコロナウイルス禍終息に向けた努力を、これまで幾度に渡ってその「後手後手且つ無意義な対策」で台無しにしてきておいて、何を言い出すのでしょうか。市民にとって岸田政権は想定を遥かに超える無能振りで厄介極まりないようです。
参考文献
⭐️上田徹一郎『民事訴訟法』(法学書院)
⭐️上原敏夫/池田辰夫/山本和彦『Sシリーズ 民事訴訟法』(有斐閣)
⭐️長谷部恭男『憲法』(新世社)
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