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『毒見』リターンズ/パンケーキの如く政府関係者に甘いメディアと警察?

退陣表明後の『毒味』のススメ

先日、イオンシネマ市川妙典にて2度目の『パンケーキを毒見する』観賞をしてきました。1度目の観賞は東京五輪が開催されて間もない時でしたが、その後「東京五輪強行による医療崩壊及び自宅放置」「ラムダ株の発覚と厚生労働省による隠蔽」「パラリンピック強行」「菅義偉の退陣表明」「総裁選準備」を経て、2度目の「毒見」というわけです(実は同じ映画を複数回観たのは私にとって今回が初めてです)。多くの「失策」「愚行」を経験してきたせいか、1度目に観た時よりも菅政権、延いては自由民主党政権の酷さが際立って感じられました。特に、自由民主党がコロナウイルス禍が終息していないにもかかわらず「新総裁の選出」という身内案件にかまけている事を重ねて観ると、怒り倍増になる事請け合いです。今年の終盤には衆議院総選挙を控えていますが、まだ「毒見」していない方は投票前に1度「毒見」しておく事をお勧めします。「怒り」は「市民の政治参加の正当な動機」です。ちなみに総裁選候補者の1人である河野太郎ですが、劇中において国会で爆睡するシーンが暴露されています。

反政府に対する「狙い打ち」?

2021年9月10日放送の「ひるおび!」での、八代英輝による以下の発言が「炎上」しました。

「共産党はまだ暴力的な革命を党の要項として廃止していませんから」

日本共産党の綱領においてそういった記述は一切ありません。つまり八代は報道において悪質なデマを放ったという事です。当該行為は刑法第233条「信用毀損及び業務妨害罪」の構成要件に該当し、加えて弁護士法第56条第1項の「懲戒事由」に該当するでしょう。条文を見てみます。

刑法第223条:虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
弁護士法第56条第1項(抜粋):弁護士及び弁護士法人は、この法律又は所属弁護士会若しくは日本弁護士会連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。

八代の「日本共産党に関するデマ発言」は刑法第223条の「虚偽の風説」に該当します。また「人」については判例上自然人に限られません。法人の他、法人格のない社団も含まれるとされます。つまり政党である日本共産党は「人」に該当します。加えて「信用を毀損した」とは判例上「現実に信用が低下した事」は必要とされません。名誉毀損罪と同様に「人の社会的評価を低下させる虞のある状態」で足りるとされています。
そして、弁護士法第1条には「基本的人権の擁護」「社会正義の実現」が「弁護士の使命」として規定されています。公共の電波を使って悪質/軽率なデマを撒き散らす事は「社会正義に悖る、弁護士としての品位が欠片もない非行」でしょう。
その後多くの抗議が『ひるおび!』に殺到し、9月15日の放送で、八代英輝は番組の後半になって以下のような「謝罪」を行いました(後にその謝罪を巡って非難が起こり、スポンサーの1つであるキユーピーもCMの見合わせ、という対応を取りました)。

「先週の私の発言ですが、私の認識は閣議決定された政府見解に基づいたものでした。日本共産党はそれを度々否定している事も併せて申し上げるべきでした。申し訳ありませんでした」

番組冒頭に謝罪をしない時点で謝罪の意思なしとも取れますが、凡そ謝罪とは程遠い「自分の発言は政府の閣議決定が原因だ」とでも言わんばかりの責任転嫁です。しかもその閣議決定もデタラメという有り様です(「安倍昭恵は私人」とか「安倍晋三はポツダム宣言を読んでいる」といったものを見ればお分かりでしょう)。日本共産党の綱領も読まず、閣議決定という「漠然不明確且つ恣意的なもの」を根拠としてデマを垂れる。八代に法曹としての素養があるとは到底思えません。その後再び謝罪しますが「現在の共産党の党綱領にはそのような(暴力革命についての)記載はない」と、恰も「以前は記載があったかのような言い回し」でした。今も昔も「暴力革命を正当化する記載」は日本共産党の綱領にはありません。

また、2021年9月中旬、日本共産党の山添拓議員が「鉄道営業法違反」で書類送検されました。事件の内容は2020年11月3日に山添議員が秩父鉄道の線路内(勝手踏切)に入ったというもので、鉄道営業法第37条(線路内立入)違反との事です。文語体表記でやや読みにくいですが、条文を見てみます。

第37条:停車場其ノ他鉄道地内ニ妄ニ立入リタル者ハ十円以下ノ科料ニ処ス

科料については現在に合わせて読み替えられます(科料=1000円以上1万円未満)。「妄ニ」というのは「正当な理由なく」「むやみに」「軽率に」といった意味ですが、これに基づくと同条は過失犯処罰を予定している事になるでしょうか。ちなみに本人は「線路を渡ったということは事実であって、軽率な行為だったと反省している。今後、そうしたことはしない」と反省の意を述べています。
それにしても気になるのは埼玉県警の姿勢です。軽微なものとは言え刑事事件について「構成要件該当事実」及び「行為者」を認識していながら、1年近くの間「放置」していた事は「著しい任務懈怠」ではないでしょうか。一応公訴時効期間内ではありますが、これは「権利失効の原則準用案件」ではないでしょうか。長い間権利行使をせず、それにより相手方に対して「権利行使をしないもの」と信頼させた場合、その後突如「権利行使を主張する」事は「それが消滅時効完成前であるとしても信義則違反として許されない」という理論が「権利失効の原則」です。主に民法等の私法領域における理論ですが、私法に限らず公法においても適用/準用されます(租税法規のケースですが、賦課処分が信義則に照らして無効と扱われた判例があります)。今回の不相応/不自然に遅れた書類送検については警察側が「権利失効したもの」と見る事が妥当ではないかと思われます。
『ひるおび!』然り。「微罪の書類送検」然り。昨今のニュースを見ると、政権交代を危惧するあまり、何者かが日本共産党を始めとした野党勢力を「狙い打ち」したものではないかとの疑いは拭えません。微罪について「書類送検」する埼玉県警。その一方で「桜を見る会問題」において安倍晋三の公職選挙法/政治資金規正法案件について捜査を懈怠している東京地検(「不起訴不当」となったのは、東京地検の捜査不尽によるものです)。刑事手続における「法適用の平等」は果たしてどうなっているのでしょうか。最後に、憲法第14条第1項を掲げた上で一言。

憲法第14条第1項:すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

刑事処分というペナルティを科すに当たって、特定の思想を持つ/特定の組織に属する事を理由として有利/不利に扱う事は「憲法違反」です。

⚠️山添拓議員の行為について多くの意見が出ていますが、本記事では言及しません。

参考文献

⭐️川端博『刑法総論講義』『刑法各論講義』(成文堂)
⭐️長谷部恭男『憲法』(新世社)
⭐️渡辺康行/宍戸常寿/松本和彦/工藤達朗『憲法1』『憲法2』(日本評論社)

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