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民意を愚弄した「リサイクル」

落選したにもかかわらず

2021年12月2日、岸田文雄は元衆議院議員の石原伸晃を「内閣官房参与」として任命する方針を固めました。担当は、国内外から観光客を誘致する「観光立国」との事です。
さて、石原伸晃と言えば先の衆議院選挙において、小選挙区(東京8区)で立憲民主党新人の吉田晴美候補に敗れ、更に比例復活も叶わず議席を失ったわけです。つまり「民意によって国会議員としての資格を拒否された」という事です。にもかかわらず、岸田文雄は民意によって否定された者を「内閣官房参与」という非常勤の国家公務員として抜擢。これは国家公務員法第1条第1項の「民主的な方法で、選択され」という文言の趣旨を没却する行為です(同法第2条第2項の解釈により、内閣官房参与は「国家公務員一般職」の範疇に属し、同法の適用対象となります)。茨城6区の国光文乃の「日当5000円サクラ問題」然り、金品によって民主主義を捻じ曲げる事は為政者にあるまじき愚劣な行為ですが、選挙の結果を反故にするかの如き恣意的/情実的人材抜擢もまた「民意を無視した愚劣な行為」です。
これは想像の域を出ませんが、岸田は総裁選において自分を支援していたとされる石原に対して「論功行賞」として国政でのポストを付与したのではないでしょうか。そうだとすれば極めて恣意的なスポイルズ・システム(猟官制)の濫用です。かつて石原はテレビ番組において生活保護について「ナマポ」と揶揄/軽蔑していましたが(言うまでもありませんが、生活保護は憲法第25条を具体化した制度であり、市民にとって当然の権利です)、失職した自分が内閣官房参与のポストに就く事は「政府によって事実上の生活保護を享受している」と言えるのではないでしょうか(内閣官房参与には勤務1日につき26900円が支給されるとの事です)。
ところで、「民間人を政府のポストに抜擢する事は不当」といった意見が散見されますが、この事自体は不当ではありません。「高度に複雑化した社会において噴出する問題に対処するには、国会議員に限らず専門的知識/技能を有する者が担当する」という趣旨で民間人を国政に参与させる事は妥当でしょう。実際に憲法においても、国務大臣については第68条第1項で「過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない」とされています(逆に言えば、半数未満であれば国会議員以外の民間人が国務大臣になる事が許容されているわけです)。問題なのは落選した、即ち民意によって国政参与を否定された者を政府が恣意的/情実的判断で公務員として国政に参与させる事であり、これは「民意の否定」として到底是認できないものです。

内閣官房参与による不適切発言

内閣官房参与とは、中曽根康弘内閣の時に設置された非常勤/一般職の国家公務員であり「内閣総理大臣の諮問に答え、意見を答申する」事を任務とするものです(首相のアドバイザー的存在とも称されています)。
ところで「内閣官房参与」と言えば高橋洋一(嘉悦大学教授)が思い起こされます(後述する通り辞職しましたが)。今年の5月に以下のようなツイートをし、非難を浴びました。

日本はこの程度の「さざ波」。これで五輪中止とかいうと笑笑(2021年5月9日のツイート)

コロナウイルス感染症の犠牲者、及び、コロナウイルス禍で営業停止/廃業/失職した市民を愚弄する極めて醜悪なツイートです。

日本の緊急事態宣言といっても、欧米から見れば、戒厳令でもなく「屁みたいな」ものでないのかな。「屁みたいな」とは日本の行動制限の弱さとの意味。下図参照(2021年5月21日のツイート)

「屁みたいな」と、国家公務員のツイートとは到底思えません。自分の著作に「元スーパー官僚」とか記していましたが、このツイートからは知性も品性も感じられません。
これら以外にも「憲法に緊急事態条項を新設しなければ私権制限できない」といった悪質なデマツイートをしていました(現行憲法で私権制限が不可能ならば、民法や建築基準法や土地収用法といった法令は全て「違憲無効」となります)。結局高橋は多くの非難を浴びて辞職する事になりましたが、自由民主党政権における内閣官房参与には「素行に問題のある者」「首相のオトモダチ」が優先採用されるのでしょうか。

各所に垣間見える市民への「反抗」

ところで、石原伸晃は、衆議院選挙における演説の際に市民に「何もやってないじゃないか!」と非難されましたが、当該市民が去った後に「そうしますと、先ほどの女性のように相いれないものは排除、邪魔をする。そういうことが当たり前だと思っている人たちが一緒になって政権だけを取ろうと思ってやってきた」と、逆ギレするかの如く公然と当該市民を敵視する演説をしました。かつて安倍晋三が秋葉原の演説で言い放った「こんな人たちに皆さん、私たちは負けるわけにはいかない!」と、趣旨は共通しています。「自分達に批判的な市民を敵と看做す」のが、自由民主党のスタンスという事でしょう。
思うに、今回の石原の内閣官房参与抜擢は「市民に対する腹癒せ/復讐的人事」ではないでしょうか。「石原を落選させた=自分達のポリシーを否定した」という事で、それに対する「市民へのリベンジ」としての登用ではないかと私は感じています。これも想像の域を出ないものではありますが。

参考文献

⭐️加茂利男/大西仁/石田徹/伊藤恭彦『現代政治学』(有斐閣アルマ)
⭐️渡辺康行/宍戸常寿/松本和彦/工藤達朗『憲法1』『憲法2』(日本評論社)

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