上智大学詩歌会 『夕星』 vol.7 + おまけ

2024年12月1日の文学フリマ東京39にて頒布した『夕星』vol.7のpdf版を公開いたします。引用・感想などは #上智詩歌 #上智夕星 まで。
また、春に開催した吟行会の詠草も併せて公開しております。
よろしくお願いします💫


上智大学詩歌会フリーペーパー『夕星』vol.7 (2024年12月1日発行)

短歌連作

  しろ   高井伽称子
目に見えぬことの溢れて夏の日は葉の間を抜けて円を成したり
もうそこに天守はなくて木陰から日向へうつるときの白さよ
戦ひを知らないままに燃え落つる城の幻を炎天に見ゆ
薄雲に秋思ひつつ真昼間の日差しの中を二人歩きぬ
やや前を歩くあなたの二の腕に指を沈めてゆく白鳥路
どこまでも行くんだらうなこの人は スプリンクラー指さしてをり
旅薄れつつある夜のファミレスにレモン搾りて唐揚げを食ふ

  ジオメトリック   若松優都
手をいれて形を確かめるまでにBGMは3度止まった
恋愛って結局性欲じゃないですかってあなたの前で言うことじゃない
知っていることしか起こりえないのでここは私の夢だとわかる
革靴がタクシー乗り場に捨てられて、想像できるいくつかの理由
打ち切りになった漫画のスピンオフは父を名前で呼んでるかんじ
それからも同じ座標で鳩をみる京都タワーを原点として

  あやなし   海葱
わたしにも嫌いなひとはいたからさまた太陽が西へとすべる
車窓には広告みたいに街があるお金を払って消してしまおう
常夜灯ほんとうの月みたいだねほんとうの月ってどんな月?
窓越しに大きな影がのしかかる寝れば言葉はぜんぶ寝言だ
幸せな人が憎いね 柔らかいものならぜんぶ命みたいだ ね
冬色の重たい布団で浅い息いまでも口は象形文字だ
学童のフェンスが茶色い蔦だらけ乾いたいのち型におはよう

  回るのは   榊隆太
冬の道を選んでゆけばすれちがう人も車も向こうから来る
食べるため歌を作って一皿が一首で買える即詠寿司よ
一首百円これが原稿料よりも高いのか安いのかわからない
届くのはいつも隣の家族の寿司でわたしたち断食に向いているかもしれない
目的と手段とを取り違えては湯呑みに冷たい水を注いだ
寿司の皿を数えるたびに人生を運命を試されていただなんて
呼ぶよりも先に振り向く犬の背と顔が入れ替わる その調子

  お願い   鹿戸千尋
必勝法はないはずだったうつくしいゲームの前のルール説明
一冊も借りないなんて図書館のもっとも手の込んだ燃やし方
汚そうとすれば汚せる名画にもお願いだからさわれなくなる
片目を閉じて自分の鼻を見ていると擬人法なんて無駄だと思う
水筒が落ちるだけでも寒かった背骨に音が沁みてくるのは
骨までも使える魚 ほんとうにもう勝てないかまだたしかめる
注文は真正面からつまらないメールアドレスでいい? 任せて

  ケーハク   巣々木盥
逡巡と逡巡は繋がつてゐてチャリンコの籠は繋がつてゐる
妄想の偉人のはねた寝癖のみ頼りにするような青年期続く
未来のこと考えるべき過去のこと面白い 温泉バス運転ロボ引き継ぎ
ご近所のテレビの失せし近未来馬の爪こそぐ動画さへ見ゆ
ほっぺたの検索をしてほっぺたを揉み揉み近近冬冬
礼儀より礼儀が大切にしたがってつまめばたゆむ先生の顎
散々の仮想の人の散髪をする息の自分が許すことと他人が許すこと

  ざらざらとしたい   石橋莉瑠
理屈だけざらざらしていてコミカルに狂うことでしか生きられない…
解決させない というあり方 誰にあげるわけでもなく残す唐揚げ
ソーシャルの中でソーシャライズされしゃらしゃら生きてる君を見ている
罪罪罪罪罪罪罪罰ぐらいの毎日やだね、散歩に行くか
乗っている一人ひとりにある姓が揉みくちゃにされてもう新宿だ
ふるさとの天気予報は正確で陰謀論者に憧れている
天才であらねば!白衣を虹色に染めてからはじまりははじまる

  CORPORE SANO   小山内図式
二重瞼のようにか細い月がうろこ雲の底を這っていた
目と鼻の先で見られるものはゆっくりと膚の間を切り離すように
ゆるやかな坂をくだっていく人の眼には見えない夜を呑むこと
長い槍を思い、いつかその槍を引抜いたり差したりして遊ぶ
不眠だったけれども目を閉じていればニューロンに錯覚の明日が来る


おまけ 春の吟行会詠草

去る2024年4月28日(日)、新入生歓迎企画として小石川後楽園を訪れて吟行会を行いました。以下に参加者の詠草の一部を公開します。

梅林を抜け八つ橋へだんだんと昼の姿になっていく影
空っぽの東屋にも神様が居て染み出している光の軽さ
古井戸を奥へ奥へと魂はずっと三人称の視点で
飛石に踏まない部分があることに納得できずに老いていこうね
会いに行く/この池の水全部抜く/踵は石段の数を知る

海葱

地下鉄に閉じ込められて十一時寝癖なくて健全な遅刻
新緑の若木のもとのこの肩にカメムシ降り立つ とにかく座る
塀の外竹藪眺めた あと半歩 ほとほと疲れ後輩はどこ?

淵淵泪「集合時間は十時」

曲がりくねった幹の葉でやる花占い 当たるも八卦当たらぬも八卦
鯉が井の中としている ちいさなだいだらぼっちの琵琶湖
わたしの首のあたりで折れて光を食べて育つ唐梅
湖面に波紋を生んだから鯉はいつでも半月を見る
わたしたちがそこに居たのは菖蒲をも葱と見紛う季節で

かきぬ

暑さすら小脇に抱える夫人会澄まして咲むは主催のカキツ

雲英

水道橋から後楽園に歩いたら東京ドームと地続きだと思える
セブンでうどん買ってうどん食べる 高井さんが見せてくれた蓮の花
エドワード・ヤンが早稲田でやっていて思い出しつつ大学の木

込谷和登

不自然に傘を広げて待っているあなたに後ろから声をかける
想像の外でも松は衰えず体躯を水の上に伸ばして
あの道の草の渚に踏み込んで聞けない過去のことは聞けない

榊隆太

チョコミントアイスと火傷 あの夏で結べなかった像に別れを

さわ子

名勝は大震災で焼け落ちてそのとき生えていた羊歯の横
わたしのパスワードなどが溶けだしている池をぱくぱくする鯉なんて

鹿戸千尋

我が前に降り立ち再び飛んでゆく土鳩の首の明るきを見ゆ
人生といふ喩を払ひ蛇行する道の流るるままに歩きぬ
庭内に地名を名付く淋しさよ温冷のある風を受けつつ
人の気配ふとなくなりて借景に見返る我と出会つてしまふ
風吹けど光動かず初夏といふ長き事象のかたはしに入る

高井伽称子

ペルソナがまたひとつ 九時の帰路の桜 行潦の上風に押される
(※「行潦」に「こうろう」のルビ)

蠅鳥

青い冬が過ぎてなおも青いままなら早く春、渡してほしい
よくみると手すりみたいな傷がある このひと工夫で染み入る笑顔
チャンプルが炒め物と知ってればもっと機内は眠れなかった
手の届く567の先っぽにまだ届かない休憩はまだ
柳葉がモテる理由なんとなくわかるよストールと言えるんだよ

原川「皮算用」

「赤色の、もみじの季節、じゃなくて、こうようの季節ね」ってセンス好きかも

ふかわたろ

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