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虹の彼方を夢見る日

今日は特に何も無い。強いて言えば、友人との約束を破ってしまったことだ。友人宅へ行くはずだったが、作業をしていて寝たのは朝の五時。八時半にアラームをかけたものの、起きたのは十二時半。友人宅までは二時間ほどかかる上に、作業の後限界すぎてお風呂に入らずに寝てしまったため、支度に時間がかかる。飛び起きて友人に「ごめん今起きた!」と連絡すると、「だと思ったわwww」と返信がきた。私が作業で寝ていないのを察していたみたいで、今日はお休みにしようと言ってくれた。優しすぎる。ありがたい。しかし今日会えないとなると、次に会う時は十一月かもしれない。友人の誕生日は十月で、やっとプレゼントを渡せると息巻いていたというのに、十月中に渡せないとは悔しい限りだ。

先週の今日、素敵だと思うことがあった。その日もスロースタートで、夜の十時頃に日用品の買い物に出かけた訳だが、ちょうど雨が上がった頃だった。気分的に雨の中を歩きたかったから少々ガッカリしていると、少し太ったサラリーマンのおじさんが、傘をさして歩いていた。すれ違い様に、何かを言っているのが聞こえた。聞き取れたのは「…さむ…レインボー…」という言葉だけだった。なんのこっちゃと思いつつ、何となく聞き覚えがあって、頭の中で反芻して考えていると、私に衝撃が走った。…さむ…レインボー…、もしかして、オズの魔法使いの「Somewhere Over The Rainbow」ではないか!?まさか小声で歌っていたのか!?雨が降っていない中!傘をさして!私にとってはとても共感できることだった。かくゆう私も、雨が降っていて周りに人がいないのを確認すると、雨に唄えばの「Singin' in the Rain」をついつい口ずさんでしまう。「Somewhere Over The Rainbow」も大好きでよく歌う。一瞬にしてあのサラリーマンに仲間意識を持ってしまった。もしかしてミュージカルが好きなのだろうか。私も大好きだ。面白い話が出来そうな気がする。
昔からずっと現実がミュージカルならいいのに、と思いながら過ごしてきた。歌は私にとって、言葉よりも雄弁な感情表現だ。人と話すことが得意じゃない私にとって、音楽に乗せて感情を歌うミュージカルは昔から憧れだった。自分の感情はもちろん、誰かの人生の物語すら垣間見れるようなきがした。そして何より、きっと楽しい。誰かが歌えば誰かが踊り出す。誰かが気持ちを歌う度コロコロと変わる世界。もしそれが現実ならば、どれだけ美しく、どれだけ人と人が寄り添えるだろう。共感し合える世界だろう。自分や周りに素直でいられるだろう。そんな世界を夢見ずには居られない。
 しかし現実は、急に近くの人が歌い出したら怖いだろうし、一気に変人というレッテルを貼られる。確かにそうだ。場所を考えないと誰かに嫌な思いをさせるかもしれない。怖い思いをさせるかも。明らかなマナー違反だ。だからこそ、あのサラリーマンに共感する。誰か迷惑をかけたい訳では無く、ただ、自分の感情のままに歌いたかっただけだ。ほとんど誰も通らない小道で、誰にも聞こえないほどの小さな声で、虹の彼方を夢見ていた。実際は多分そんな大層なものでは無いのかもしれないが、誰かが自分の感情に素直になっている様子は素敵だと思った。

 そして今日もスロースタートな日だろう。多分また同じくらいの時間に外へ出る。また日常の中の素敵なことを見つけたい。そして彼が虹の彼方を見つけられることを祈っている。

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