ネクタイピンの日
朝、起きた時、寝覚めが最悪だった。と言っても、起きたのは昼で、寝覚めが悪いのはいつもの事だ。ただ、やはり遅刻できない予定のある日は、ぐっすり眠ることは出来ず、大体二、三時間おきに起きて、目覚ましが鳴るまでまだ時間があるのを確認し、また眠る。それを繰り返す。目覚ましが鳴っても、眠った気がせず、何度もスヌーズして、一時間以上かけてドロドロと起きる。今日は午後四時からアルバイトの面接だ。
私は面接が苦手だ。そんなのみんな苦手だろう、とか、得意な方が珍しい、とか、そういうことではなく、人一倍の倍の倍くらい苦手で下手くそだ。受かって働いてきたバイトもあるけれど、ここ最近めっきり受からない。働いている時も、仕事は好きでも、環境や人間関係が会わずにしんどくなってしまうことが多い。だから正直億劫だ。逃げ出してしまいたい。
アクセサリーショップでの勤務経験があるため、またアクセサリーショップに応募した。しかも私が良く行く店だ。落ちたらもう気まずくて行けないかもしれない。しかし以前、働くならこういう店で働いてみたいなぁ、などと考えていたので、結構受かりたくて緊張している。
店は暖色のライトが印象的なので、それに合うように少しレトロガーリーにコーディネートを組んだ。赤いチェックのロングプリーツスカートに白のセーラー襟のブラウス、黒のニットベストと、スカートの赤に合わせて赤いベレー帽を被った。
面接は終わった。明るい笑顔の店員さんが、明るく笑顔で、そして丁寧に面接をしてくれた。いつもならガッチガチに緊張して、混乱して訳の分からないことを口走ってしまうが、始まってしまえばあまり緊張せず、いい意味で気軽に受けることができたので、受け答えもしっかりできたように思う。終わったあとは大体「絶対落ちた」なんて思うけれど、今回はまだ希望があると思う。思いたい。優しくしてくれた店員さんに感謝感激である。
店を後にして数歩歩いたところで、大きな溜息をつき、ベレー帽をギュッと握って被り直した。ごちゃごちゃ考えてももう後の祭りだ。受かっていることを願おう。気持ちを切り替え、面接した店のある下北沢から三軒茶屋へ歩くことにした。以前にも書いた、古着屋の五百円引きのクーポンを使うためだ。三軒茶屋にもう一店舗あること、以前見た時に気になるジャンパースカートがあったことで、散歩がてらもう一度行こうと思ったのだ。向かう途中でPatisserie KOZUに寄ってソフトクリームを買った。だって頑張ったから。ここのソフトクリームは以前から好きで、ことある事に買ってしまう。巻いてくれる人にもよるかもしれないが、いつも大きく巻いてくれる。そのビジュアルだけでも幸せになるし、何よりミルクの香りと濃厚さがたまらない。私はソフトクリームを食べるのが下手で、いつも(特に夏場は)気づいたら溶けて、どこかしらからこぼしてベトベトにしてしまうが、涼しくなってくれたおかげなのか、久しぶりこぼすことなく綺麗に食べられた。嬉しい。
三軒茶屋の古着屋に付いたら、以前気になっていたジャンパースカートをもう一度見つけられた。しかし、やはり五百円引きでも割高で、また手が出せずじまいだった。他にも見たが気になるものはなく、もう一度下北沢の店を見てみようと、三軒茶屋を後にした。
下北沢に戻って以前見た店をもう一度見たが、やはりピンとくるものはなかった。クーポンは今日までだし、せっかくだから使いたかったが、だからと言って、特にちゃんと好きだとも言えない服を無理やり買うのも違うと思い、私は五百円引きクーポンを使うことを諦めた。
そういえば、三軒茶屋から下北沢へ戻る途中に古本屋サムタイムへ寄った。行きにも目を引いた、蝶の様な、蛾の様な柄の端切れが気になった。最初はハンカチだと思ったが端切れで、ハンドメイドが趣味な私でも、その模様を活かしたものが思いつかなったため断念した。その後、ネクタイピンが目に入った。クラウンの模様のついた小さなネクタイピンが気に入ったので購入し、赤いベレー帽につけた。ベレー帽に少し高級感が出た。今日はこれで満足だ。
面接から逃げ出したいと思った緊張も、もうとっくになくなった。家に帰って、風呂に入って、ご飯を食べて、明日の準備をしよう。明日は早い。寝起きの悪い私だから、早く目覚ましをかけないと。