見出し画像

【まとめ読み】騒音の神様 44〜46 大学生の垂水、喧嘩強い。

垂水は練習が終わった後は、街に戦いに行く気でいた。喧嘩を買いに行くのだ。仲間たちは分かっていたので、「垂水、今から行くんやろ。一緒に行こか、」と声をかけたが垂水は「いや、一人で行くからええわ。また今度一緒に行こや。」と言った。垂水は一人で電車に乗り、繁華街へ向かう。垂水が喧嘩を探す方法は簡単だった。お酒を飲む店が並ぶ繁華街を、歩いて行ったり来たりする。それだけで活気と元気が溢れるこの時代、簡単に喧嘩に出会える。垂水がお酒を出す店の辺りに差し掛かった時、さっそくどこからか喧嘩の大声が聞こえてくる。「やっとるなあ、俺もやるで。今日は試したいことがあるからな。」垂水が試したい技は、ヒジ討ちだった。「自分でヒジ討ちを使ってみれば、その対策もわかるはずや。頭だけやない、実践が大事なんや。」そう思いながら垂水は、酒場通りを歩く。昔ながらの居酒屋、そしてスナック、キャバレー。キャバレーのきらびやかな、キラキラする看板を見ると垂水は、「俺もはよ来たいなあ。自分で働きだしたら。おもろいんやろなあ。」垂水はお酒は大学の仲間とよく飲むが、大人がたくさん行くような店には入らなかった。自分がもっと大人になって、貫禄のある姿で、たくさんお金を持って繁華街を闊歩したい。そんな風に垂水は自分の少し未来を思い描いていた。「ただし、今は戦いや。喧嘩や。拳法や。みとれヒジ討ち男、」そう思いながら堂々と胸を張り歩いた。若い垂水が長い足でかっこよく歩くだけで喧嘩を売られる。特にこういう繁華街では。さっそく、背広姿の顔の赤いおじさんがぶつかって来た。「おい、にいちゃん、なんや痛いやないか。気つけえや。痛い目にあわしたろか、こら」と凄むが垂水は全然怖くなかった。あきらかに酒を飲んで気が大きくなってる、普段は弱い酔っ払いだ。背広のおじさんの周りのおじさん達が、「すまんな、兄ちゃん。気にせんとって、悪かったな、酔うといつもこうなんや。」酔っ払っている男は「何がいつもこうなんや、ふざけんな。この若い奴が俺に喧嘩売ってきたんや。なんぼでもやたらあ。」と息巻いているが、仕事仲間のオッチャン達が無理矢理、酔っ払い男の背広を引っ張って言った。遠ざかりながら「すまんな、兄ちゃん、気にせんとって」と言う声が聞こえた。垂水は「さあ、次、次や。」とまた歩き出した。「これからや、こっからやで本番は。」

垂水が再び賑やかな繁華街を歩き出すと、明らかに肩をぶつけに来る男がいた。垂水は肩に力を入れた。どかっと肩がぶつかる。ぶつかったまま、垂水が歩き続けようとすると後ろから肩をつかまれた。「まてや、兄ちゃん。」垂水が後ろを振り返った瞬間、拳が目の前にあった。ガスッ、鼻のあたりを殴られた衝撃を感じた。垂水はすぐに殴り返した。縦拳で相手の眉間を殴り、すぐに相手の腹を蹴った。すぐ横から、パンチが飛んで来たようでアゴに衝撃を感じた。垂水は、相手の腹に横蹴りをくらわせた。垂水はそれからやっと拳法の構えをとると、男二人が地面にうずくまっている。垂水は「なんや、いきなり殴ってきやがって。とことんやったろかい。」と言うが二人の男はうずくまったまま変な呼吸をしている。垂水は怒りながら「もう終わりかい、おもろないのう。弱いくせにからんでくんな。」垂水は、振り返りながら歩きだした。垂水は自分にがっかりした。「はあ、いきなり殴られてしもた。よけれんかった。はあ、何をしとるんや俺は。相手が強かったらぶっ飛んでるぞ俺は。」幸いと言うか、体が頑丈で首も太いからか、相手のいきなりの攻撃も垂水にはなんのダメージも与えなかった。それでも垂水は自分にガッカリした。「あれくらい、よけれんでどうする。くそっ」そう独り言を言うと、怒りが湧いてきた。「あかんあかん、こっからや。次は自分から強そうなやつにいったろ。」垂水は、さっきまでよりさらに大股で大胆に歩き始めた。キャバレーの光る看板が、垂水を照らす。水商売の呼び込みが、あやしく行き交う。

垂水が賑やかな通りを歩いていると、段々と静かになってきた。明らかに店が減り、ただの暗い夜道になってきた。「このへんまでか。戻ろか。」そう思って垂水が振り返り、今来た道を戻ろうとした時だった。背中にドンっと、人がぶつかって来た。「おい、どこ見て歩いとるんじゃ。前見て歩かんかい、」と言いながらガタイの良い、見るからに強そうな黒いシャツの男が垂水に蹴りを入れる。黒いシャツの男は続けざまにつま先や足裏でガンガンと垂水を蹴る。垂水は蹴られながら「来た来た、強そうな男。」と楽しみになってきた。「ヒジ討ち試すチャンスやん。」そう思い、連続でガシガシ蹴ってくる黒シャツ男にさっそくヒジ討ちを繰り出してみた。ブンっ。黒シャツ男は、垂水のヒジ討ちをさっと下がってかわした。「なに仕返ししとんねん。黙って蹴られとけや。」黒シャツ男が、大きな動きで胸を蹴飛ばしに来た。垂水は横に動いてかわしながら拳を顔面に一発ぶち込む。そしてついつい二発三発と黒シャツ男の顔面を殴り、みぞおちに横蹴りを入れる。さらに顔面に横蹴り。ガシっ、横蹴りが黒シャツ男のアゴに直撃。男はよろよろと下がりながら、お腹も抱えてうずくまった。「うう、ぐ、ふう、」と黒シャツ男が苦しそうな声を出して完全に動きを止めてしまった。垂水は「しもた、ヒジ討ち出す前に決めてもうた。」と反省しながら黒シャツ男に話しかける。「おい、立たんかいおっさん。人をさんざん蹴っ解いてもう終わりかい。」垂水は堂々と胸を張りながら言ったが、黒シャツ男はうずくまったまま、うめき声をあげるだけだった。「くそっ、おもんない。見た目より弱すぎるやんけ。やっぱ一人はあかんな。二人か三人おらんと倒しがいがないな、」そう思いながら垂水は来た道を、きらびやかな繁華街を再び歩き始めた。


いいなと思ったら応援しよう!