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「ヤッホー」は山で言え【♯キナリ杯】

私にとって【おじいちゃん、おばあちゃん】とは母方の祖父母を指す。

祖父母の性格は?と周りに問うと【穏やか】【謙虚】【人の文句を言っているところを見た事がない】と皆口を揃える程の温厚な人柄だが、私始め身内の評判は全く違う。

祖父母は周りに穏やかな分、二人きりになった途端言いたい放題互いの文句を言い合い、毎時間のように喧嘩をしている。

生まれた時から二人の側にいた私からしてみると、二人の言い合いは最早生活の一部で、こちらとしても特に止めに入るような事はしない日々だったが、結婚の報告をする為、夫を祖父母に紹介した際、目の前で喧嘩をし始めた二人を見て夫がドン引きしたというエピソードがある。

そんな喧嘩ばかりしている祖父母に「結婚して60年も一緒にいるんだから、もう良い加減仲良くすれば良いのに。毎日怒り合って疲れないのかな。」と常々思っていた私だが、この考えを覆す出来事が起きた。

私には3つ下の妹がいる。

私の妹は昔から、よく言えば【いちいち悩まず軽やかに行動できる性格】だし、悪く言えば【めちゃくちゃ無鉄砲な性格】なのである。

その性格のせいあってか、妹は過去に違う男性から3度に渡り婚約指輪を渡されてはハメ、その数ヶ月後には男性の方から外してくれと頼まれお返しするモテてるんだかモテてないんだか、よく分からない恋愛を繰り返していた。

3度目に婚約指輪を渡してきた男性とは、結婚指輪も渡され、あっという間に結婚をした後あっという間に離婚。

しかも入籍日も離婚日も自分の誕生日を何故か選んでしまい、この先誕生日になると嫌でも過去を思う出すシステムを自ら作り上げてしまったのである。アホである。いやゲフンゲフン!

そんな妹の離婚は、毎日喧嘩をしつつも60年一緒に居続ける祖父母にとっては言語道断な出来事であり、軽い気持ちで報告し怒りとショックで倒れられても困ると、私も両親も「妹が離婚した」だなんて祖父母に暫く言えないでいたのだった。

だが、ひょんな事で祖父だけに離婚の事がバレてしまい、怒った祖父が妹を呼びつけた。

離婚の事などすっかり切り替えていた妹は、なぜ祖父が自分を呼びつけているのかさっぱり分からない状態で、祖父の所へ向かい、祖父母の部屋に入ると「やっほー」と言った。

その事の重要さをまるで感じさせない「やっほー」という軽い挨拶に怒った祖父が「やっほーじゃないわ!!」と言い返すと、離婚の事をまだ何も知らずにいた祖母が、何故か祖父の怒りに連動し「山じゃあるまいし!!」と一緒に妹を叱っていた。

その二人の合いの手の入れ方が絶妙且つ最高で、その場にいた私は大爆笑。

何をそんなに怒っているのかさっぱり理解が出来ないと言った妹の顔がまた笑いを誘い、暫く一人でひーひー言いながら笑いこけていた。

笑いながら「あぁ〜祖父と祖母は仲が悪いから喧嘩していたんじゃなかったんだなぁ」と感じ、それが妙に腑に落ちた。

二人の間であの言い合いは喧嘩ではなくて、ただの会話だったんだなぁと。

60年一緒にいて、相手に対する遠慮も気遣いも恥ずかしさも全部ふっとび、この人だけには何を言っても大丈夫と確信に近いもの、それを私は【絆】と表現するけれど、二人にとってはどういう言葉が一番しっくり来るのか。

兎にも角にも、祖父と祖母は毎日飽きる事もなく互いを罵声し合う事で、信頼を形成してたんだなと確信した。

じゃなきゃ、祖父が「やっほーじゃないわ!!」と言った次の瞬間に
「山じゃあるまいし!」と祖母が言えるはずないじゃないか。

いやぁ素晴らしい。本当に素晴らしい。もう夫婦として最高の集大成じゃん!と感動すらした私。

その出来事から3ヶ月後に祖母が他界。

今年の冬に祖父も永眠し、数年間1人きりの祖母の遺影の隣に祖父の遺影が飾られたのを見て、家族皆で「あぁこれこれ。やっぱりこの二人は一緒じゃなくちゃね。」と口を揃えた。

今頃二人は行き会えてるかしら?

会えた途端また喧嘩してるのかしら?

あぁ、また二人の喧嘩してる姿、見てみたいなぁ。

その二人の姿を想像してはまた笑ってしまう私なのであった。


#キナリ杯
#祖父母
#「ヤッホー」は山で言え
#私と祖父母の思い出





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