百八話 解放された私。
喫茶店『天使の扉』で、お嬢様にご奉仕している私…。
親に捨てられ十と五つ、何の因果かわからぬがメイドの手先…。
果たしてその実態は、魔界から降りたった闇の堕天使ノア!
ここに降臨!!!我が姿刮目して見るがいい!!
とか、たまには中二病セリフを言いたいけれど…。
私はお嬢様へのご奉仕で、ほとほと疲れきっていた…。
今は、私が咀嚼したトーストを、お嬢様の口元に運んでいる…。
果たして、この変態的行為がいつ果てるのか皆目私には見当がつかないのであった…。
そして、ついに最後のトーストの切れ端を、お嬢様の口に運んだ…。
もちろん私がよく咀嚼したトーストだったものをだ…。
ふぅ…。ようやく私の勤めは終わった…。
「ごちそうさま…。とてもよかったわよ…」
お嬢様は私の手を取って、またギュッと握りしめるのであった…。
「また、よろしく頼むわよ…」
お嬢様は私の頰にキスをしようとした…。
「ふふっ、キスは嫌だったわね、ごめんね子猫ちゃん…」
お嬢様は私の髪を、優しく撫で回して頰も撫でた…。
「私はさ、あなたのことが気に入ってしまったのさ…」
お嬢様は、どこか不良娘みたいな口調で言った。
「あなたは私のこと、気に入らないってことはわかっている…」
「でも、私は狙った獲物は絶対逃さない…。そのことは忘れないことね…」
行きましょう…。
お嬢様はそう言い、席を立った…。
ショートボブのお嬢様も席を立つ。
私も席を立ち、お見送りの準備をした。
私は服装を整え、髪も整えてお嬢様をお見送りした…。
「行ってらっしゃませお嬢様。いつでもお帰りをお待ちしています…」
私と翼さんは、深々とお辞儀をして、お嬢様をお見送りした…。
お嬢様は一回だけ振り返り、意味深な視線を私に送りつける。
私はお嬢様の獲物になってしまったのか…?
明日もこのお嬢様は、お帰りになられるのだろうか…?
私はお嬢様に抱きしめられたり、手を握られた感触を思い出していた…。
お嬢様のことを、私は怖いと思っていたのに…。
私は自分の感情が、わからなくなっていた…。
お嬢様に触られたところは、いまだに鳥肌が立っている…。
私は、自分の手をさすった…。
どうにも私の身体は、お嬢様に拒絶反応をきたしてしまうのだった。
私は、隣に立っている翼さんに寄りかかってしまう…。
「翼さん、私…」
私はそれだけしか言えず、翼さんの胸に顔を埋めるしかできないのであった…。