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禍話リライト「六文銭の夢」

夢日記の話ですね。

夢見たんです。

僕、すごい急な坂を登ってるんです。もし自転車で下ろうとしたら、スピード出すぎて事故るぞっていうくらいな坂で。上るのも、おじいちゃんおばあちゃんだったらキツイぞっていう、坂を上ってて。

これ、懐かしいな。この坂登ったことあるな。2、3回あるな、どこだったっけ。

竹が生えてて。その山、竹藪が。そん中に、青い屋根の家があったんです。

ほかは見たことある景色なんですけど、そこだけ全然記憶の中にないんです。見た感じ、竹藪の中にあって廃墟なんですけど、どう見ても。

中から、男女が出て来たんです。二人出て来て。

あれ、あの家窓なかったけどなあと思ったんだけど。ああ、中に人がいたんだと。

で、女性は知らない人なんですけど、男性知ってる人で。
同級生の山川ってヤツなんです。

お、山川。高校卒業以来だな。
同窓会で一回会ったか会わないか?うーん忘れたな。

で、おう、って会釈したら、

山川、心ここにあらずみたいな。ぼーっと、お酒飲みすぎた人みたいになっちゃってて。フラフラしてて。なんかこう、覚束なくてっていう。あれ?コイツなんか、お酒の中毒になっちゃったのかな。えー?大丈夫?コイツ。そうなんですよ、夢の中とはいえね。心配になって。髪の毛も変に伸びてるし、これ普通の仕事今、してないのかなあ

女性は全く知らない、ガタイの…ちょっと大きい、テニスとかしたら強そうな。で、女性こっちに会釈してくるから。山川の知り合いだと思って会釈してくれてんだなあ、と思ってこっちも、あ、どーも、なんて。

で、すれ違う時に女性が、明るい感じで

「あ、そうだ!
六文銭の先生によろしく」

って言ったんです。

六文銭の先生?

六文銭って、全然言葉の引き出しがないから「江戸時代?」とか思いながら、何言ってんの?とか思いながら、

「は、はい」

って言って。二人は下りて行って坂を。急な角度の坂を。

あ、六文銭って?三途の川の渡し賃?
へえそうなんですか。私全然知らなくて。六文銭の先生なんて知り合いいねーけどなあと思いながら。

坂上ってったら、自分が通ってた高校に着いて。
そうだ、高校が山の上にあって。正門はゆるやかなカーブを通っていく正規の道があるんですけど、山の反対側に住んでる生徒は通りにくいじゃないですが、そこまで回り込むのが。だから無理やり切り崩したすごい急角度の坂道があるんです。裏道みたいのが。そっち側に住んでる人しか使っちゃダメよ、って。ほとんど使われてなかった、そっち側に住んでる人実はあんまり住んでなくて。っていうか、そっちに住んでる連中も嫌がるような、遠回りして正門使ってたんです、急角度で、明かりもほとんど点いてなくて、ちょっと昔の話なんで。

そうか、この裏坂を上ってたのか

ってところで目覚めたんです。

もうすぐ同窓会があるっていうから。ああ、懐かしいな、そういうこともあって夢みたのかなあ。

同窓会行ったら、何人かいないんですやっぱり。都合合わなくて、何回目かだし。それはね。そっかーってたら、

山川、会いたかったなあ。俺最近夢見ちゃってさ。
え、山川?
うん、山川。

ああ、山川、やばいぞ。
え?やばいの?

うん、俺山川と大学も同じだったからさ。
ブログやってんだけどアイツ。ずーっと大学時代から。うん、意識高い系のブログなんだけどさ。見てみろよ、教えてやるから。

言われて。で、家帰って興味本位で見てみたんですよ。会えなかったし。

最初はなんか、古い順に見ていって、大学、就活?とかからずっとこう。読まれんの意識してんのか?(笑)って感じの文書で(笑)まあ別に、面白くもなんともない。俺は毎日が充実してますよってアピールの、日記で、へえ〜と思ってたんだけど。

「新プロジェクトに向けて!」○○○○年○月○日
今日は朝から新プロジェクトに向けて会議でした!新人の俺にも発言の機会を与えてくれる会社に感謝です(苦笑)生意気な発言を受け止めてくれる先輩がいてくれるからこそ、成功に向けて努力していけるんだと思います!その後は営業部からの報告書をまとめて、午後から客先の企業訪問。今日も一日頑張りました!

「残業あがりのコーヒーは格別!」○○○○年○月○日
今日は週末だし、来週に仕事持ち越したくないしで、ちょっと頑張りすぎてこんな時間になっちゃいました。でも、社会人はメリハリが大事!遊ぶときは遊ぶ!働くときはトコトン働いて、結果出していきたいと思ってます!って、明日もセミナーだけど(笑)

まあアピールですよ。どんだけ頑張った、みたいな今日は。で、会社の写真かなんか。オフィスの写ってるの、自分の会社の写真が載せてるんですよ必ず。記事の最後にね。

なんだけど。その、直前まで。ある時期を境になんだけど、最近から、もうめちゃくちゃになってて。

夢日記なんです、もう。
途中から、完全に夢日記なんですよ。

「no title」○○○○年○月○日

カレーを作りたいと思って八百屋に行ったら奥から番犬がヨダレ垂らしながら来て逃げて河川敷まで逃げて逃げてああでも走るには限界があるから来年くらいには原付を取ろうなあと思ったら雨が降ってきました

全部そんな感じ。とりとめのない話、夢日記みたいな話を句読点なしでわーっと書いて、オフィスの写真。

どんどん、最近になるとそのオフィスの写真が、廊下とかね。外観とか。最悪、社外の人間でもギリギリ行けるようなところの写真ばっかりになってるんです。

こいつ、会社にも行ってないんじゃないの。会社に入れなくなってるんじゃないの。

夢の内容も、最初漢字も多かったんだけどだんだんひらがなとか、何が出てきたんだ?みたいな。

「no title」○○○○年○月○日
こやのおくからびもがでてきてふんでしまったからせんせいにあやまりにいきましたびもはとてもいたそうだけどしんぱいです

びもって、何?

何かを打ち間違えたのかと思ったけど、もう一回「びもは」って出てきてるから、「びも」なんだろうな…みたいな。何これ、みたいな。

1時間くらいかけて全部読んで。でも結構、更新はされてるんですよ。嫌なことに、二日に一回くらいは。だからちょっと、教えてくれた奴に電話して。

お前さこんなのダメだよ!山川に言ってやれよ

いやおかしいんだよ、なんかさ、あれは俺書いてない、とか言うんだよ。

ええ?何言ってんの。

いやちょっと俺もねー、なんかね、会社にちょっと行ってみたら山川、長期の?長期療養してます、みたいなこと言われて。

え、そうなの?

まあ、そらそうだろうな。

どんどん廊下とか、外側の写真になってて、外から窓ごしに撮ったみたいな、自分が働いてたであろうオフィスを

これやばいよ…

まあでも、どうしようもないよね。結局他人の人生だし。

あと山川、ちょっと嫌なやつだったし。申し訳ないけど、助けようって、積極的には気になんないよねアイツ、いじめしてたし。

って話になって電話は終わって。

それから2、3日経って。

商店街歩いてたら、山川が座り込んでたんです。

完全に、あの夢の中で見た、ボサボサの山川、が。ボロボロのスーツ着てなんか、こう、コーヒーのロング缶?みたいなのあるじゃないですか。缶だけど蓋がついてるやつ。近づいたら、そのコーヒーを飲んでるんですけど、酒入ってるんですよ、どう見ても。そうそうそう、酒の匂いがして、あ、コーヒー缶に酒入れてんだ、って。水筒みたいに。世間的にはコーヒー飲んでますってアピールなんだけど、もう全身から酒の匂いとか、あとゲロみたいな匂いがするというか。吐いたりしてたのかな。

もう、汚いんです。ホームレスになりかけてるというか。

えっ、おい、山川だよな、おい!山川?

全然反応してくれないんです。ずっと酒を飲むか、缶を置くかしか。

山川?

って近づいたら、急に立ち上がって。

「あのブログ俺書いてないからね」

俺なんにも言ってないのに。ブログ読んだとか。

「あのブログ俺書いてないからね。あれさ、アカウント乗っ取られてるんだ」

お、おう、アカウント乗っ取られてるんだ

「そう、アカウント乗っ取られてるからね。あれ俺書いてないんだよ。

これ警察に言ったらいいのかな。

市役所?

弁護士?

先生?

あの俺がいつも行ってる先生?」

う、ああうん先生かな!?うん

って言って別れたんです。で別れた後で、

いやなんで俺がブログ見たこと知ってんだ?ってなって。

おかしいんだよね、自分がブログ読んだなんて一言も言ってないから。山川に。でも、その、目の前に完全に目が血走ってるヤツがいたら、会話に乗るしかないじゃないですか。もう。うん、て言うしかなかったです。気持ち悪いなあって思って。

で、まあ家。せっかくの休み台無しで家帰って。夜になったら、付き合ってる彼女が来て「そんな気持ち悪いことあったの、見せてよ私にも」って。

俺もう見たくないからさ、見ていいよもう病んでるからさ。夢日記だよ。って教えたら、彼女がブログ見て「引っ越した方がいい」って言うんですよ。

は?なんで?

え?って見たら、

「懐かしい友達と会いました!」○○○○年○月○日
今日、〇〇商店街を歩いていたら、たまたま高校の同級生と再会!お互いに、夢を語り合いました。今、自分は夢の途中だけど、ここまで来てるって、報告することができました。やっぱり懐かしい友達と会うっていいもんですね。今住んでいる家の場所も聞いたので、今度また、自分が取り組んでいることに進展があったら、お邪魔して語り合いたいと思います!

自分の後ろ姿が写ってるんです。

携帯かなんかで、撮られてたんです。

家の場所も言ってない、これ家まで着いて来たってことだと思います。

彼女が、お金貸すから引っ越した方がいいって、とりあえず私の家に来て、もう、引っ越すしかないよ!って言ってくれて全力で引っ越して、山川と結ばれそうな線は全部切るくらいの勢いで。

だからもうあの商店街にも行ってないし、同窓会にも、友達に「そういうことだから」って伝えて、もうずっと行ってないんです。

このテキストは、権利フリーの青空怪談ツイキャス「禍話」で語られたお話を文章化・イラスト化したものです。文中の写真はフリー素材サイトぱくたそ様からお借りしました。

出典:​​「シン・禍話 第二十夜(やや閲覧注意)」(放送日:2021/07/24)

語り手:かぁなっきさん

ライブ履歴:https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/693691816


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