禍話リライト「坂の青い屋根」
僕からしたら「不思議だなぁ」で済んだ話なんですけどね。
ごっこ遊びをしただけなんですけど。
僕、高校生の時クラスでいじめに遭ってまして。それが陰湿ないじめで、あの、カツアゲとか暴力じゃないんですよ。精神的にくるいじめっていうのかな。パッとバレない感じでいじめてきて、だから周りからしたらつるんでんのかなっていう。みんなが分かんないところでいじめてるっていう、うん。すごい陰湿なやり方ね。精神的にどんどん追い込んで行くみたいな、やつで、
いじめてた奴は、仮に山田と山川ってしておきますね。
ただ、そういう時って変な共依存みたいになってて。言えないんです周りに。自分も悪いとこあるし、みたいな。相談できる相手はいっぱいいたんですけど言えないんです。うん…そんときね、あの、僕は国公立系の大学目指すクラスにいたんだけど、私立系のクラスに友達がいて、黒田っていうんだけど、そいつと会うとストレス解消じゃないんだけど…すごい馬鹿騒ぎできる悪友っていう黒田っていうのが。
ホントはそいつに相談すればよかったの。ただ、黒田ってやつが結構…もしそういうこと相談したら義憤に駆られてどこ行くかわからない、許せん!つって、結構自分を犠牲にしても行っちゃうタイプで。その性格分かってるから、黒田には言わないでおこうって、俺もなっちゃってて。ただ、黒田と居ると面白いから。バカなことしてたんですよ二人で。うん、癒されてたんですよ。
で、ま、あのほんとくっだんない、誰にも見せないんだけどラジオとか、学生ラジオ〜なんつってラジカセで録って、二人で。あ、あなたもしてました?大学生の時?(笑)
で、最初は本名で、小谷と黒田の〜なんとかデイズ〜ってやってて。面白くねえなユニット名考えようぜって。
ある時ね、黒田が
「あ、六文銭ってどう?」って。
こないだ時代劇見てたんだけど、三途の川の渡し賃が六文で、え、安くね?六文て。知らねーけど。いや安いよ。そんなんで行けるんだったらいいよな、今のうちから貯めといてもいいかなって。
よくわかんない、ほら、高校生の変なこじらせで「六文銭の〜なんとかラジオ〜」とかって。二人で聞くだけよ、ホントに。で、適当に来てないお便りを読んで。イェーイつって。
で、あるときね。
美術かなんかの選択授業で他クラスと一緒にやるってなって、黒田と一緒になったんですよ。そん時、自分をいじめてる山田と山川は選択で音楽の方に行ってて。よかったあ、癒されるなあって思ってたら、美術の先生がおおらかな人でね、全部で5回の授業で1枚スケッチを完成させなさい、学校内どこ行ってもいいから、って。選択授業は2時間連続で、その中で好きなものを描きなさいと。みんな美術は受験科目じゃないし、じゃあ景色見たり、馬鹿話とか好きにしなさいって、すごいいい先生だったのね。
で、黒田と二人でつるんでたんですよ。二人とも絵下手なわけじゃないから、すぐスケッチはできて。これでまあ普通に評価3ぐらいはくれんじゃない?みたいな。暇だからくっだんないことしよう、コントとか、なりきりで、俺がクレームを言う保護者の役で、黒田が先生の役とか。ホント、アドリブでずっとやってたんです。最初の1時間くらいそういうことやってて、俺ホント癒されてて。黒田といると楽しいな〜と思いながらやってて。
たら、そん時ね。急にね。
学校内に神社があったんです、小さな。山の上にある高校で、エリア内に神社がある。ギリギリ校門のすぐ外にあって、そこも一応学校内っちゃ学校内みたいな。なんか知らないけどね、そこ行こーって。
ただ行くんじゃあれだから、心霊番組っぽいことしよう、コントで、そうそう、ラジオ番組の延長で。よし。じゃあやろやろ、で、俺が霊能者、すごいバリバリ見える霊能者の役で。黒田が、じゃあ俺、レポーターになってイエスマンやるわって。
いや、二人とも心霊関係のことって大嫌いなんだけど怖くて…怖いから。だからほとんど見たことなかったんだけど、ドラマとかバラエティとかも。普通そんなのってグダグダじゃないですか。心霊番組とか見たことないから。あんまり知らないし。
あのね、30分くらいもったんですよ。
記憶ないんだけど、何言ったのか。
お笑い要素は一切なかったと思うの。普通なんかくだらない事言ってなんでだよ(笑)ってなるのに、なんの矛盾もなく怖い、ちょっと怖い感じでずっと進んだんですレポートが。全然覚えてないんだけど。
例えば、冒頭で赤いものを感じるなんてことを言ってたら、しばらくして境内入って裏回ったら、ホントに赤い社があったりして。
これ、ホント怖い話なんですけど。
その時の俺たちのテンションは「やっぱり心霊のレポートやってるとこういうことが起きるんだなー」くらいの感じで、なんら違和感なく、逆に「進むなー!」くらいのテンションで、すごい楽しかった。「伏線回収!」みたいな
でも、最後はちゃんとお参りして。
「今日は、バカ二人が醜態をお見せしましたけど。すいません」
って、ちょっと高いけど500円玉を。
そこは覚えてるんですけど。
で、見たら7限終わっちゃうよって時間で、1時間以上いたんだ、そんなにもつわけないですよ、心霊知識ない人が、番組見たことなくて、悪ふざけしてる訳でもないのに淡々とレポで。そんな神社でさ、そんなでかくないですよ、学校の横にちょっとある神社って。なのに進んだんです。
でお参りして、帰ったんですけど。
帰りの会とか学活とかになって、そこでもう話した内容忘れてるんです。けど、なんかもったなあ、えらく間がもったな、何喋ったっけな。最後お参りで500円入れて、チクショー明日購買のパン買えねーとか言ってたのは覚えてるんだけど。めっちゃ面白かったなーっていう高揚感がすごくあって。
黒田も楽しかったのか、普段はお互い別々に帰ってたんだけど、わざわざ迎えに来て。
「おー。なんかさっきおかしかったよなあ」
怖いと思ってないんですよ。テンション上がって火照ってて二人とも。
「なんかああいうの、ちょっとまたやりたいなあ」
なに言ってたかわかんないけど、繋がってたし適当に言ったことが。ちょっとやろうか、って学校出て。でもまた神社にするの、悪いじゃないですか。実際にあるもの言うと良くないからさ、完全に無いものを作らないか、みたいな。
その高校、山の上に建ってて。正面から行くとなだらかなカーブで帰れるんだけど、裏が無理やり作った坂があってて。切り崩して無理やりコンクリで固めた、傾斜がやばい、自転車で降りたら事故っちゃうような。そこが竹で覆われてて。灯もほとんどなくて。そっちの道怖いから、帰りに行こうぜってなったんです。
なんか言えるんじゃない?って。二人ともノープランなんですけど。完全に。
そこからは覚えてるんですけど。
行ったら急に「いやこの神社っていうのはね」って自分が言い出して。
「ここは色々な方々がお参りに来る昔からの神社なんですよ。」
そうですねえ!とかってレポーター役だから黒田が。ちゃんと言ってくれて。
「溜まった良くないものを溜めるしかないんですよ、祓えないんですねえ。そうなんですよ。そういうの溜めるためだけに家とか作るんですよ。」
あとで調べたら、そういう家ってあるんですね本当に。でもこの時は、二人とも知らなかったんですけど。
「で、そういう家がね、この坂を降りたところにあるんです。そこはまずいんですよ、私は行きませんよ、行ったらやられちゃいますからね。その場ではやられないんですけど、何年越しとかでやられるらしいんですよ。」
「あ〜何年殺しって言いますからねえ。そこはどういうところなんですか?目印とかあるんですか?」
「えーっとね、普通に小屋みたいなところで屋根が青いんです。何にもないんですよ、ぱっと見。で、カーテンが閉まってるから見えないんですね。ただ、なぜか裏に回るとカーテンが開いてるんです。これ見よがしですねえ」
「裏に回ると、中身が空っぽだっていうことがわかっちゃうんですよ」
「空っぽだってわかっちゃったら、もうおしまいらしいですよ」
「それは一方通行ってことですねえ。」
「それもう完全に作った人の意図がありますよね」
「うんだからそこ確認しちゃったら終わりってことなんですよ」
そこで二人で我に返って。
何この怖い話って。
アドリブで言ってたことが、え、怖くね?この話・・・って坂の途中で醒めて。
何俺たち普通にリアクションしてんの。
え、え、怖・・・こわ〜、すごいな俺ら疲れてんのかなあなんつって。
俺も「そ、そうねえ疲れてんのかな〜」
「いや、戻ろうか、嫌だから・・・」
登りきついけど、急な坂だから。でもこの坂下りて帰りたくないってなって。暗いし。登ろ登ろうってなって
そしたら、ちょうどその時に、山田と山川が坂を下りてきたんです。
そしたら、普段だったらもうイジられるんだけど。おつかれーぐらいで済んだんです。横に別のやついるから。黒田結構でかいし、いじめとか絶対許さないので有名だから。お疲れーって、ああこの道暗いけど下って帰るんだって。
あの二人よく帰れるなあ、俺らみたいなことしてねえから普通か
言いながら黒田が、坂を降りてく二人をちらって振り返って見て
「あれ?」って「ん?」って
ちょ、ちょっとごめん小谷、こういうことしたくないんだけど、ちょっと後ろを振り返って見てもらっていいか?
言うから、え?って見たら。
絶対そこ何にもないはずなんですけど、真っ暗のなかに青い屋根が見えたんです。小屋が。
えーって思って、俺逃げちゃったの。
結構な急勾配の坂をバーって登って、校門まで走って。ちょっと遅れて黒田がきて。
おお、お前意外と足速いんだなあ
ごめんごめんごめん、ちょっと先逃げた感じになって
いやいいんだけど、俺が見ろっつったから
いや、いやいやいやあれ…なんか
あったよね
小屋、ないけど、あったよね
あそこ、ないよね何にも
ないない、あそこ何にもない
屋根っぽいの見えたよね、見えた
見えた
おっかしいよな…ちょっともう一回見てくるわ
いや行かない方がいいよ!
いやちょっともう一回だけ見てくる
って黒田行っちゃったの。怖いなあーって思って待ってると、校門で、黒田がうわーってさっきよりも早く戻ってきて。え?て思ったらもう、尋常じゃないのね脂汗が。
いやいやいや、良くない、良くない。って。
いや確かに、ちょっと下りてったら屋根が見えて。小屋がある!おっかしいな適当に言ったのに。ないはずなのに。
そしたら、小屋の前の道を山田と山川が通ったんだけど、その時急に二人が角度キュッと変えて、車がキュッとターンしたみたいな感じで、そっちの方に入ってっちゃったんだよ。
小屋の方に。
俺はその足のギュンて曲がり方が、なんて言うの、組体操でピッピッて、右向け右ってやったみたいなすごい綺麗だったからうわーって、見ちゃいけないものを見たって思って全力で戻ってきたんだ、やべーやべーもうやめよう、やめよう。正門から帰ろう。
ってことがあって。
それから、別にね。
山田と山川は変わることなくて。僕相変わらずいじめられてて。なんだよ全然変わんねえじゃねえか。俺も黒田も、怯えて変なもの見たのかなあって。思ったんです。
そしたら同窓会に行ったら二人がいないんですよ。
最初の同窓会はいたんだけど、社会でも成功してるって言うからあー、憎まれっ子世にはばかるかなあって思ったら、次の同窓会いなくって。
おっかしいなと周りが噂してて。山田と山川おかしいって。僕はよく知らないんだけど、他の同級生は知ってるんで、紹介しますから。二人がどういう状況か聞かせますよ。
あとあと見に行ったんだけど、そんなところに小屋ないし、良くないものを溜めておくとか、そんな謂れもないんだけど。
これ関係あるかわかんないんですけど、山田と山川がそういうことになって、同窓会に来なくなったそれと同じタイミングで、その神社で民間人が関わるイベント、全部なくなったんですよ急に。ちょっとした夏祭りとか正月に甘酒配るとかしてたんだけど、一斉に中止になって。はっきりした理由はなくて、いや書いてても無理があるような理由で。一切なくなったそうです。
僕らはアドリブでやったと思ったけど、言わされてたのかもしれないです。
あの時、あの瞬間だけ、あの神社の悪いものを貯めた空間ができてたのかもしれないですよね。
このテキストは、権利フリーの青空怪談ツイキャス「禍話」で語られたお話を文章化・イラスト化したものです。
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出典:「シン・禍話 第二十夜(やや閲覧注意)」(放送日:2021/07/24)
語り手:かぁなっきさん
ライブ履歴:https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/693691816
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