見出し画像

禍話リライト「当人と本人」

ドッペルゲンガーの話なんです。

仮に、そいつの名前を山田ってしておくと。

九州で。なんか、高校の同窓会に集まった時に。
あれ山田どうした?何人かは来てないけど、山田も来てねーのかって。でも山田ってわりあい仕事とか、できそうなタイプだったけど?そんな社会でつまずくタイプでもなかったし。なんかいい大学行ったでしょ?頭も悪くなかったでしょ?同窓会に来れないような感じじゃないでしょ。

いやあいつね。変なことがあったらしいんだ。
会社入って、すぐ仕事に慣れて色々任されるようになって、それこそ要領いいから、上には可愛がられて。まあ性格には問題あるけど(笑)いい感じにきてたんだけど、

ある時なんかね、ドッペルゲンガー見たんだって。会社の帰りに、自分と同じ車に、同じ顔のヤツが乗ってるの見たんだって。

それ以来、山田、まいってるんだってさー。

ど、ドッペルゲンガー?なにそれ、えあいつそんなの信じるタイプなん?…え、山田から聞いたの?

いや、そうなんだよ。山田から聞いた。

山田誘おうと思ったら、電話しても繋がらなくて。家知ってるから家行ったら山田居て、電話出れないとか言い出すんだよ。それでまあ、こういうことがあったって。

「その、仕事終わって、自分の家の最寄駅着いて。コンビニで適当にビールとかサンドイッチ買って家帰ってたの。で、車が横通って、ゆっくりと。なんか自分の、普段乗ってる車に似てるなあって思って見たら、運転席に俺が乗ってる。最初すごい似てるヤツかなと、背格好が。そいつが、携帯で電話してるんだ運転しながら。で、目が合ったんだよ俺と。それが完全に自分なんだよどう見ても。双子の兄弟?くらいの。えっ…と思って見てたら、車の中にいるもう一人の俺が、それこそさ、警官に見つかって「すんません」みたいな、リアクションしたんだよ。すんません、電話すぐやめますから、みたいなリアクションして。それが、気持ち悪くて。ドッペルゲンガーなのに、申し訳なさそうな顔して、でそのままス〜ッって車ごと行っちゃったんだ。追っかけたけど、車無いんだよ。そう、車が曲がった先って見渡しのいい、まっすぐな、道路だったから絶対に、あるはずなんだけど無いんだ」

それは気持ち悪い体験だけど、まあ偶然かもしれないし。ねえ、疲れててさ、ちょっと似たヤツがいて、見間違えた、んじゃないの?

「いやー、それがさ、冗談じゃなくて。
それ以来電話が嫌で。
電話を取れなくなったんだよね」

え?でもそれお前仕事できないじゃん。俺はこうやって「遊びいこー」くらいの話で来てるからいいけど、お前普通の仕事とかできないじゃん。

「いやいやいやお前、こっちが出れないって知ってて、かけてくるっていうのは社会人としてどうなの」

え、なにそれ。会社には言ったの?

「言ったよ。みんなに言ったよ、ドッペルゲンガーがね、俺とそっくりなヤツがね。車を運転してて消えた。で、電話をかけてた。俺はもうなんか、嫌だって。だから電話してくるなって。出たくない。

って伝えてるからそれで電話をしてくるのは社会人としてどうなんだってことだから」

コイツなに言ってんだろうと思って。

繋がってないなあと思って。話がね。ドッペルゲンガーを見たことと、電話に出ないことって、繋がってないじゃないですか、話が、そう。そう、間が抜けてるなあって思って。

よーく見たら手紙かなんかあって、机の上に。会社からちょっと「休め」みたいな、通告じゃないけどさ、書類があってうわー、会社も休んでるじゃんって。

もうその日は、突っ込まずに一旦帰った。

帰ったけど、同窓会でみんなで集まって「山田こうなんだ」って。そこはもうあなたもいま突っ込んだように、繋がってないじゃん話が。ってなって。そこは一応聞いとくべきなんじゃない?破綻してるから。じゃ俺らも行こうよ、つって。

みんなで山田ん家行ったら、山田、前に会った日から髭とか剃ってない、髪とかも伸び放題で。

また同じ話をするんだよ。
こういうことがあって、電話出れないんだよって。

一人が勇気を出してね、

山田それ…だからって、いや怖いよ、自分とそっくりな人間がそういうことしてたら怖いのは分かる。車がなくなったから、ひょっとしたらオバケかもしれない。それは、怖い。

でもなんで電話出ないの?

「電話出たら負けじゃん」

負け?
勝ち負け?どういうこと?って聞いたら

「俺が電話出た段階でアイツと一緒になっちゃうってことだろ?
電話出るポーズ作ったら、アイツと同じになる状況を作っちゃうってことだろう?」

うわ気持ち悪いこと言うなあって。ちょ、そのちょっと怖いなと思ってその想像が。

そうだけど、まずいの?一緒になるとその状況が。って聞いたら

山田、机バーンと叩いて。
「まずいだろそれは!アイツと一緒になるのはそれは!まずいと思うわ」

あ、ああそう、アイツねえ…って、みんな。引いてて。

で一人が、
なんかアイツって言ってると、知り合いみたいになっちゃってるけどね
アハハって、まあ冗談だけどって
言ったら。

「まあでも冗談じゃ済まねえよなあ」

って指さすんです山田が。部屋に鏡があるんですけど、そこ指差して。山田が映ってるだけなんだよ。当然。

でもその時、フッと、ワンテンポ遅れた気がしたんですよ。

鏡に映ってるアイツだけ笑ってて。笑ってた山田の顔がちょっと遅れて元に戻った気がしたんだよね。なんとなくですよ。そりゃそういう、ドッペルゲンガーっていう刷り込みがあるからかもしれないけど。
なーんか嫌な気持ちになって。

じゃあ、帰るわ。元気出せよ。
同窓会は無理かも知んないけど、また遊ぼうなー…。

ってみんな家出たんです。
出て、エレベーターの中で、

ごめんなんかバカなこと言うけど、俺、鏡の中のアイツ、ちょっと笑ってなかった?

そしたら全員がね、

いや笑ってたかどうかはわからないけど、ワンテンポ遅れて真顔になったような気が、しちゃったんだよね…。
うん、そう、ズレがあったんじゃないのかって。なんか鏡の中のアイツが違う顔になってて、真顔の山田に戻ったみたいな。

うわあ気持ち悪りいなあちょっと、怖い…全員がそう思ってんならダメじゃん…って。エレベーター降りて外出て。

で、何気なく。
その時ってね、もう夜だったんだけど、外出た時にふっと建物の方を振り返ったんですよ。したらベランダに山田がいてね。あれ?山田いるじゃん。服かななんか干してんのかなって一瞬、でも洗濯物なくて。

「おーーーいっ、また来てなーーーーっ」

手振ってるんです。すげえテンションで。あんなヤツじゃないよねってみんな、え?って。あー、えっ、おかしくない?おかしくない?

「またなーっ」

まあはっきりとはさ、ちょっと遠いからさ。ほんとに山田かどうかわからない、でも山田っぽいヤツが、またなーとか言ってる。え?あんなテンション?まあ、ちょっとおかしくなってるんだったら躁鬱状態になるって、ありうるから。そうなのかなあって思ってたら、

その部屋のベランダの横、トイレの窓が外に面してて。
トイレに電気点いてたらわかるんですよ。

その時、ぱって、トイレに電気が点いたんですよ。

うわって、みんなが。だいたいみんな家に何度か行ってるから、だから、誰かもう一人トイレ行ってるヤツがいるんですよ。気づいてうわってちょっと待ってトイレ行ってるよって

「また来てなーーーっ」

って、言うんです。

どっちがホントかわかんない。でもトイレに電気点いたのは間違いないから。アイツ彼女とかもいなくて一人暮らしだから。誰かがいるのは間違いない。

みんな逃げちゃって、それで。それ以来、誰も行ってないんです山田ん家。

ドッペルゲンガーっているんですよ。

このテキストは、権利フリーの青空怪談ツイキャス「禍話」で語られたお話を文章化・イラスト化したものです。

出典:​​「シン・禍話 第二十夜(やや閲覧注意)」(放送日:2021/07/24)

語り手:かぁなっきさん

ライブ履歴:https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/693691816


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?