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経営におけるアート、サイエンス、クラフトのバランス

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』を久しぶりに読み返しました。

読書記録を確認したところ、以前に読んだのは1年半前でした。改めて読み返してみると、記憶とは違ったことが書いてありました。

以前、どこかの記事で、本書を引用して「企業がアートを買うのは、我々の会社はこういう未来を想像しながら活動していることを示すため」と、書いた記憶がありますが、本書には書かれていませんでした。「美意識」=アートと勝手に解釈したのでしょう。

ですが、近しいことは書いてありました。

経営学者のヘンリー・ミンツバーグによれば、経営に必要な要素は「アート」「サイエンス」「クラフト」の3つを挙げています。

アートは、組織を活気づけ、未来の社会を想像する力を与えます。そのビジョンを裏付けるのがサイエンスの役割であり、データや理論を用いてそのビジョンを支えます。そして、クラフトは知識や経験を活かして、ビジョンを実際に実行するための手法を生み出す。

私の記憶違いでしたが、結果的には間違っていませんでした。経営陣がアーティストに影響を受け、自分の会社が掲げるビジョンとして、アートを社内で飾るのは理にかなってると言えます。

著者が海外の美術館のギャラリートーク(美術作品の意味や制作過程を教えてくれるプログラム)に参加すると、以前は旅行客や学生ばかりだったそうですが、スーツを着たいかにもビジネスマンのような人たちがチラホラいたそうです。

これは、会社に飾られているアート作品を見て、他社や自分の会社がどんな方向性の社会を作ろうとしているのか、ひと目で分かるように鍛えているのでしょう。

今の日本社会では、先に挙げた「アート」「サイエンス」「クラフト」のうち「サイエンス」と「クラフト」偏重の社会になっていることも挙げられています。

それはなぜか。

アートには説明責任が果たせないからです。

それぞれについて意思決定をするとしたら以下のようになります。

アートは、「なんとなくこれが良いと思ったから、これにしました」
サイエンスは、「色々な情報を分析した結果、これがベストだと判断しました」
クラフトは、「過去の失敗事例からこのように改良して、選びました」

アートの「なんとなくじゃ、選べないんだよ」というのが答えです。アートは、論理的な裏付けや説明がしにくいため、ビジネスの場では選ばれません。失敗したときに、説明できない。だから、選べない。

ですが、論理を突き詰めていくと、誰もが同じ答えにしか辿り着けない(正解のコモディ化)。それでは差別化できない。だがら、ビジネスとして成り立たない。

たとえば、パソコンやスマホはその良い例です。

「容量はどのくらいで、通信速度はどのくらいか」

性能面ではどの製品も似たり寄ったりになっていて、差がつけにくい。

それならば、「なぜその製品を選ぶのか?」という問いに対して、多くの人はデザインやブランドイメージなど、感性的な要素で選ぶようになってきています。

このように、アートや美意識は、企業や製品の独自性を表現するためにますます重要な要素となっていきます。

たまにNewsPicksや『令和の虎』で事業プレゼンを見ます。

よくよく思うのが、「提案事業が既存の企業とやってることと変わんなくない?」という感想。

今までは「何か違ったことをしていることがスゴイ」と思っていたが、本書を再度読んでみると、別に同じでもいいことに気づく。

スマホは知っての通り、Appleが最初に売り出し、後発になって日本企業も売り出しました。

この流れは当然のように感じますが、「別にAppleがスマホ出しているからウチから出す必要なくない?」という疑問が出てきてもおかしくない。

事業ピッチでも、社内会議でも出される疑問も同じです。では、「なぜ出すのか?」もちろん理由は色々ある。というか、「出せるから出す」という意見もあるだろう。

本書では、「説明できることは再現性があることであり、マネしようと思えば真似られる」という趣旨のことが書いてある。

「出せるから出す」はまさにその例。

そう、サイエンスと、クラフトはパクられる。パクられないのは、アート。

サイエンスとクラフトは、自分たちの実現したいビジョンを叶えるための、あくまでも手段であって、目的ではない。

事業ピッチを見ると、「どんな手段で、何をやるのか?」ばっかりに着目しすぎて、「やってること変わらなくない? それやる必要ある?」で終始してしまう。

むしろ、事業を始めようとする人にとっては、「この技術があれば私の叶えたいことが叶う!」くらいにしか見てなかったのに、「なんでそれやるんですか?」と詰められる。

問われるべきは、「この技術を使って、何を実現するのか」というビジョン。そのビジョンが消費者に共感され、製品やサービスが選ばれる理由となる。

たとえば、「このビジョンを達成させるために〇〇なビジネスも考えられると思うんですが、それではなくこれをやる理由はなんですか?」という質問に答えられるのなら、納得感が得られるかもしれない。

改めて読み返して、ビジョンを始点にした事業の考え方の大切さに気づいた。

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