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読書記録

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2024年8月の記事一覧

「普通」を迎合する

「普通」を迎合する

『マリリン・トールド・ミー』を読みました。

この本は、コロナ禍で思い描いた大学生活を送れないまま、気づけば3年生になった女子大生が主人公のお話。彼女は、ジェンダーゼミに所属し、マリリン・モンローを研究することになる。

作中では、田中美津「新版 いのちの女たちへ とり乱しウーマン・リブ論」について、議論を交わす場面があります。

この場面では、どんな関係性においてもそれっぽく見せて、取りつくろう

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自己啓発書をメタ的に見る

自己啓発書をメタ的に見る

図書館で本を探しているときにたまたま目に止まった。

最近、話題の新書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読んだ。

ここにも自己啓発本について語られていたので、近しいことが書いてあるかも?と思って手に取った。

ペラペラめくると片づけと自己啓発の繋がりについて書かれていた。「同じこと書いてある!」と思ったのもつかの間、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の文献リストを見ると、本書をちゃ

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同人文化を取り巻くもの

同人文化を取り巻くもの

『「同人文化」の社会学』を読みました。

近年というか、8年前くらい?から、世間一般でも同人文化としてコミックマーケット(コミケ)が知れ渡ったように感じます。

私もアニメが好きで子どもの頃から見ていましたが、同人にはそれほど興味はありませんでした。ここ数年でコミケが爆発的な人気を呼んで、どんなものか知っておきたいという、いたってミーハーな理由で読みました。

本書では、「運営団体」「スタッフ」「

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自分の熱との表裏一体

自分の熱との表裏一体

『マリリン・トールド・ミー』を読みました。

『文藝』で連載されていた時から、面白そうと思ってました。ちょいちょいつまみ読みしてましたが、読み通したのは単行本になってからです。

この本は、コロナ禍で思い描いた大学生活を送れないまま、気づけば3年生になった女子大生が主人公のお話。彼女は、ジェンダーゼミに所属し、マリリン・モンローを研究することになる。



主人公が研究を進める中で、調べ物をして

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読みやすさと自分らしさのハザマで

読みやすさと自分らしさのハザマで

島田潤一郎『長い読書』を読んだ。

今回で、3本目の記事。それだけに学ぶことが多い本。

「リーダブルということ」というエッセイで特に印象に残ったのは、「読みやすい本」に対する批判的な視点。読みやすさを追求した結果、表現の豊かさが犠牲になり、複雑なものが単純化されてしまう危険性があるという指摘。

「読みやすいのは書いている本人が配慮しているから当たり前」だが、「読みやすさ」を追求することが、必ず

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読書とランニングに学ぶ、続けることの大切さ

読書とランニングに学ぶ、続けることの大切さ

島田潤一郎『長い読書』の一番はじめに書いてあるエッセイ。めちゃくちゃ刺さる。全部が刺さる。

つい先日、この記事を読んで、「読者を惹きつけるために重要な部分を最初に持ってくるとはこのことか」と感心した。

全部を載せる訳にはいかないので、抜粋して思ったことを書いておく。

夜じゃないんだけど、中学校の朝読書をしている私と全く同じ(朝も眠いのは同じ)。

「訳わかんねぇ。けど、読まなければ終わりの時

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書くことで世界を縮める

島田潤一郎『長い読書』を読んだ。

この本は雑誌『望星』で書かれたエッセイを中心にまとめられた本。著者の人生の一部分と本のつながりについて書かれている。

写真と書くことの共通点。

「思い出に写真を撮っておく」という行為はよくやりがちなこと。今はSNSに自分の近況を知らせたり、アルバムとして使ったりするために撮る人もいる。

けれども、後で見返すことは、ほぼほぼない。そんなことを思ってから、私は

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雑誌『世界』2024/2月号・3月号のメモと感想

雑誌『世界』2024/2月号・3月号のメモと感想

家を掃除したら、3年前の『世界』が出てきた。読むと興味深く、今後も読みたい雑誌になった。図書館にあった中で、興味の湧いた2024/2、2024/3を読んでみた。

そのメモと感想。

世界 2024/2『「問い」へのアプローチ』小川哲。

・問いに対して、答えが知りたいのか、起源が知りたいのか。前者が理系的で、後者は文系的。

『絶望と希望が隣り合わせのこの世界で』畠山澄子。

・被爆者は日本人だ

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アイデンティティを増強するバイアス

アイデンティティを増強するバイアス

最近、『エビデンスを嫌う人たち』という本を読み始めました。

まだ2章しか読んでいませんが、その中で「人々は陰謀論を信じているわけではない」ということに驚かされました。

この視点は非常にハッとさせられました。彼らは、信じたいことを信じているのではなく、自分が受け入れられない状況に対処するために陰謀論に頼っている場合が多いのです。

これは、私自身の考えにも通じるところがあり、共感を覚えました。

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批評と看護とは何か: 群像2024年7月号を読んで

批評と看護とは何か: 群像2024年7月号を読んで

『群像』2024/7月号を読んだ。

今月、気になったのは2つ。

批評という言葉: 『批評と倫理』水上文

「批評」という言葉。分かるようで分からない。冒頭で批評をこう定義している。

他にも「批評」という言葉について意味はあるのだろう。

たとえば、同雑誌に掲載されている『「夫」になれない男たち 『君たちはどう生きるか』『街とその不確かな壁』そして『【推しの子】』』三宅香帆 では、こう書いてい

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久しぶりの群像

久しぶりの群像

2か月前の『群像』2024年6月号を読みました。

中々、図書館で借りられませんでした。

3つの連載について感想を残しておきます。

『ハザマの思考』

副題に「仕事と余暇のハザマで」とある。いくつかの章に分かれている。その中に「疲れる」「余暇が競争」「孤独」「他人指向性」といった文言があった。「あ、これは私にどストレートだな」と思った。

これまで読んできた、

この辺の本と関わってくるんだろ

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たまには掘り出し物が見つかる

たまには掘り出し物が見つかる

久しぶりに『小説新潮』を読んだ。

2年ほど前に、面白い話が数ヶ月載っていて読んでいた。それからは読んでもピンとこないものばかりで遠ざがっていた。しかし、特集の見出しだけは見るようにしていた。

2024年6月号は「生まれたての作家たち2024」という特集。新潮も図書館で借りた雑誌。新刊をよく借りる私にとって、「知っている人がいるかも?」と思って手を伸ばした。

表紙には、宮島未奈の名前がある。読

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贅沢な悩みを取り巻く社会状況

贅沢な悩みを取り巻く社会状況

文學界2024年6月号の『贅沢な悩み』を読んだ。

この連載は文學界の中でも楽しみにしている。

単行本になったら間違いなくヒットするんじゃないだろか、と勝手に思っている。

今回連載では、社会的な贅沢とは何なのか?それを時代の変遷を追いながら書かれている。

前近代では、資本主義が始まり身分制を打ち破ろうとする贅沢。自分の身分には必要のない衣類や食事などの贅沢さを求める。

前近代が終わり工業資

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