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雪女の約束。

もう10年以上も前になる。
私にとっては、ある意味、最大かつ最高、
そして最低の恋だった。


彼に恋をしたのは、離婚をして子育てに忙しかった30歳になったばかりの頃。
同じ部署の、9歳も年下の、若くてカッコイイ彼、叶うはずのない片思い。

だから、誰にも想いを話すこともなかったし、彼に彼女が出来た時も諦めるしかなかった。

本当にただの片思い。
でも、彼以上に好きになる人も現れず、ずっと思い続けていた。

「彼女と上手くいかずに別れた」と噂で聞いた時も、私には何かする資格さえなかった。


ある日、にわか雨の後に虹が出た。
窓から見惚れていた私の横に、彼がいつの間にか立っていて、しばし二人で虹を見た。
ただ、その1分足らずの時間が、私の気持ちを切なくさせた。胸を苦しくさせた。他愛のない言葉しか交わさなかったのに。


彼は、なかなか結婚をしなかった。

結婚したり子どもが出来たりすれば、私の恋心も消失したかもしれないのに、いつまでも独身でいる彼に、思いを消せずにいた。

「彼と二人で話をしたい」
「彼に思いを伝えたい」

身の程知らずの気持ちが湧き上がってきては抑え、湧き上がってきては消し、ただ見ているしかできない日々。


会社の親睦旅行の名簿に彼の名前を見つけた時は、「同じ班だ」と嬉しくなったけど、
当日彼は急にキャンセルした。ガッカリだった。

後輩の女の子が「体調が悪くなったらしいです」と教えてくれた。
その後輩の女の子とは、その旅行がきっかけですごく親しくなった。一回りも年齢が違うのに何故か気があった。


子どもが大きくなり手が離れるようになったので、上司に相談し配置転換となった。

彼への未練たらしい恋心を断ち切るためにも、心機一転、新しい部署で新しい仕事を始めるのは良いことだと思った。


のに、彼は、

「そのこさんが異動になるの淋しいです」

と言った。

なんてことを言うんだろう!
諦めきれない気持ちにさせる、憎い言葉だった。

会社の帰りに、思いが溢れて泣いてしまったことさえあった。
「どうして私は同年代に生まれなかったのか」
「どうして子どもがいるんだろう」って。


新しい部署に移ってからも、彼への気持ちは大きくなるばかり。

今思えば、頭がおかしくなっていたのかもしれない。
恋という病にかかっていたのだと思う。

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