自転車を借りる暮らし(ボツ原稿)
あってもいいけれど、なくてもまったく問題はない。自分にとってそう言い切れるもののひとつに自転車がある。何年も自転車を持っていなかったのだけれど、友人の影響で33歳くらいの頃にクロスバイクを買った。それまでシティサイクルにしか乗ったことがなく、しかもそれすら数年乗っていない。
だから最初は足がつかないくらいの高いサドル・前傾姿勢での運転が怖くて、慣れるまでに一定期間を要した。自転車の車輪を外す練習をした幼少期を思い出すくらい、緊張感のある練習を家の前の道路で繰り返したのを覚えている。ただ、人間は慣れる生き物で、よほど適応が難しい物事でない限りは、練習を重ねるうちに順応していく。私もクロスバイクに乗れるようになった。
でも、結局のところ、乗る機会は多くはなかった。友人はロードバイクに乗っていて、毎日のように都内を移動する人で、1日に20〜30kmもの距離を動くことも珍しくはない。一方、私は1回につき10kmくらいの移動が限界だった(自転車用のショーツを履くなど、対策をしてもだんだんお尻が痛くなる、車道を走るとき近くを通るクルマに対し、怖さやストレスを感じるなどが理由)。
基本的には電車を使っていたし、徒歩圏内で用事を済ませることも少なくない。そんなわけで、自分のライフスタイルを考えると、クロスバイクはなくてもいいと判断し、東京から福岡へ引っ越すタイミングで、妹夫婦に受け取ってもらったのだった。
福岡で暮らし始めてから、自転車を使う機会は月1〜2回程度である。福岡市はコンパクトな街で、私は都心部に住んでいることもあり、多くの場所には徒歩で行ける。片道2km程度だと運動がてら歩く。3kmになると運動不足を感じているなら歩くけれど、いろいろ歩き回って景色も見慣れてしまったため、自転車を使うようになった。4〜6kmくらいだと自転車一択で、天気が悪ければバスや電車を使う。
何しろ市内の至るところで見かけるシェアサイクル「チャリチャリ」が安くて便利なのだ。1分あたり6円で乗れるから、15分乗っても90円。アプリを開いて鍵を開けて、目的地近辺の専用ポートに停めるだけ。先日も片道5kmの目的地にチャリチャリで移動した。歩くのはしんどいけれど、公共交通機関に乗るほどの距離でもなく、せっかくなら自転車で軽く運動したい。そんな距離感のときには自転車を使いたくなる。
ただ、そんな機会はあまりなく、私の日常は徒歩移動で成り立っている。だから自転車はいらない、という結論に。ひとり暮らしで身軽で、子どものいる人のように大きな荷物を持つ必要がないから、というのも大きいと思うけれど。
「道具(モノ)から入りやすい人間」であるのは自覚していて、クロスバイクに限らず、趣味に関しても始めようと思ったら、そのモノを即買ってしまうところがあった。でも「あなた、もう少し熟考しましょうよ」と、この経験をもとに自らを戒めている。
何のためにそれを買うのか? 代用できるものはないか? まずはレンタルで使ってみないか? そんな視点を持って、浅はかにモノを買うことのない人間を目指したい。自分に本当に必要なモノだけを集めた生活を叶えるために。
この原稿は池田園子が「日常生活」に関するKindle本を出版するために、2022年11月〜2023年1月にかけて書いたものでしたが、4月「自転車に関する状況」が変わったためボツとしました。代わりにnoteにUPします。
なお、こちらのツイートに記したように、Kindle本の出版はやめて5月下旬に日常生活に関する独自メディアを立ち上げます。改めて告知しますので、応援いただけたらうれしいです。