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プロレス観戦中、声援を送れるようになった。「自意識が邪魔をしなくなった」話

TBSラジオの番組「東京ポッド許可局」に「自意識が邪魔をする」というコーナーがある。上手いことをいっていると思う。

生きていると自意識が邪魔をして、行動に移せないことがときどきある。自分の場合、ぱっと思い浮かぶのは、趣味のプロレス観戦をしているとき、自意識が邪魔をして、声援を送れずにいたことだ。

もともと声が小さめである、腹から声を出すのが苦手である、という弱点がある。だから、叫んでもどうせ届かないし、聞こえないし、周りの観客から「そんな声じゃ届かねぇぞ(笑)」と思われてもいやだな、と考えていた。

だからプロレスを観にいくようになってから1年3カ月ほど、選手の名前を呼ぶこともなく、観戦していたのだ(それでも十分楽しかった)。

ただ、転機があったのは去る8月27日(日)、全日本プロレス、両国国技館大会のこと。普段はひとりで観戦にいくことが多いけれど、この日は青柳優馬選手推しの友人とふたりで観にいった。

ジャニーズファンでもある友人は、「ジャニーズのコンサートだと、声援を送らないことがむしろNGとされる。“担当”の子の名前を呼ぶのはあたりまえ」と話す。

そして、いつもチケット取り置きをお願いしている中島洋平選手の試合が始まると、「よーへー!」と隣に座る友人は叫んだ。

そのとき、自分も、そうだ。叫んでみよう、という思いが生まれ、思いっきり「よーへー!」と叫んでみた。

中島選手は昨年初めて全日本プロレスを観たときに、個性的な衣装と可愛らしい顔立ちが印象に残った人であり、売店を物珍しげに眺めている私に、爽やかに微笑んでくれたことを今でも一方的に覚えている。その後、取材をさせていただくなど、ゆるやかなつながりがある。

リングからまぁまぁ近い席をとったこともあり、なんとなく声が届いているような感覚が生まれた。広い会場のあちらこちらから、「よーへー!」「なかじまー!」という声援が飛んでいる。自分の声もそのひとつとして馴染んだ。

友人のお目当ての青柳選手の試合となったときは、「ゆうまー!」と叫んだ。気持ちいい。友人も多めに叫ぶ。

同郷(岡山出身)の佐藤光留選手にも、「ひかるー!」とふたりして叫ぶ。キレキレで、インタビューなんて読むと、緊張感をおぼえる佐藤選手であるけれど、試合中なら「ひかるー!」なんて、超気軽な呼び方が可能。

続いて、今春から自分の「推しレスラー」のひとりとなった、野村直矢選手の試合となったときは、友人に「なおやを応援してね。頼むわ」と自ら依頼し、「なおやー!」と叫んだ。

野村選手のパートナーである、ジェイク・リー選手も推しのひとりだけれど、残念ながら欠場中だ。代わりのパートナーはKAI選手。だから「かいー!」とも叫ぶ。

対戦相手である大日本プロレスの関本大介選手も、好きな選手なのだけれど、今回は野村選手を応援したかったので、声援は送らないでおいた。

こういうとき(好きな選手同士が戦うとき)、試合は面白いけれど、応援するにあたり、若干複雑な気持ちになるなと気づく。

メインイベントでは、全日本プロレスの顔、宮原健斗選手と石川修司選手が戦う。ここはやはり全日が好きな自分としては、「けんとー!」と応援するほうを選ぶ。石川選手もすごく心に残る戦いを見せてくれる、好みの選手のひとりだけれども。

そうやって、選手の名前を呼び、応援し続けるなかで、自分のなかである種の快感が芽生えていたのに気づく。

まず、好きな選手の下の名前を、しかも呼び捨てで、一方的に愛を込めて叫ぶ――これは試合観戦中にしかできないこと。編集者/記者という仕事柄、選手を取材させていただくこともあるけれど、仕事のシーンでまさか呼び捨てなんてできるはずもない。もちろん、しようとも思わない。

そして、叫んでいるなかで、これって母性みたいなもの? と感じることもあった。応援している選手がボコボコにやられている。もう限界が来ていそうだ。でも、立ち上がってほしい。声援が、少しでも立ち上がる気力を醸成するのに役立ってほしい。くれぐれも怪我をしないで、いい試合を見せて、リングを降りてほしい。そんな思いで、名前を呼んでいた。

最初に「よーへー!」と叫んでから、自意識はいつの間にか消え去っていた。そもそも誰も、あんたの声小さいわとか届かんぞとか、そんなことは思っていない。皆が観ているのは、聴いているのは、リングの中と周辺で起きていることなのだ。そんなあたりまえのことをようやく理解した。

もうひとつ、嬉しかったのは、自分たちの声援の影響かはわからないけれど、ひとつ前の席に座っていた女性ファンが、終盤から声援を始めたことだ。遠慮がちに「けんとー!」と呼ぶ声を聞いて、勝手に嬉しくなった。

これからも叫ぶだろう。自分が叫びたいから叫ぶ。自分がその人の名を呼びたいから呼ぶ。ただ、それだけ。

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