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ベーシックに新提案を取り入れる心地よさ—35過ぎて私の思うこと。

 人生の8割以上をショートヘアで過ごしてきた。大人になってからは自らの意思で、「似合うから」という理由で、短い髪にしているわけだけれど、髪を伸ばすのをやめた決定的な出来事もあった。

 大学3年生のとき、ひどく酔っぱらって帰宅し、洗面所の鏡を見てギョッとした。「なんか怖い」「なんで?」と鏡のなかの自分を見つめる。鎖骨のすこし下くらいまである、個人的感覚としては「だいぶロングヘア」が、まったくしっくりきていなくて、不自然さと違和感の圧が強かった。

 翌日そうそう美容院に行って、あご先までの長さのショートボブにしたのを覚えている。以降はどんなに伸ばしても、髪の毛が肩につくことはなく、お風呂あがりにドライヤーを使う時間は5分ほど。

 ただ、メンテナンスは比較的こまめにしているほうだと思う。シルエットをととのえてもらうため、月に一度は美容院でカットしてもらう。人からは「そんなに頻繁に行くの?」と驚かれることもあるけれど、ショートヘアを楽しむための必要経費だ。

 そうして長らく、さっぱりしたショートヘアでいつづけたけれど、「刈り上げ」をリクエストしたことはなかった。スタイルじたいは知っていたものの、印象が変わりすぎるのではないか、ボーイッシュになりすぎるのではないかと懸念していたから。

 そんななか、チャンスがやってきた。センスのいいパートナーが「絶対に似合うし、髪がすぐ乾くようになるよ」と話していて、やってみることにしたのだった。いつだって私を褒めまわす彼がそう言うなら、刈り上げるとますます褒められるだろうとも思った。

 刈り上げる側頭部や後頭部以外の髪の毛は、ほとんど長さを変えないので、大きな変更を加えるわけではない。それでも、表面の長い髪の毛を耳にかけると、大胆なスタイルチェンジをしているようにも見えた。そして、辛めなスパイスが効いているような、おしゃれなスタイルにも感じられた。

 単にロングヘアが好きだからと、「髪長くすればいいのに。似合うと思うよ」と言ってくる相手もいた。「私のベーシック」がショートヘアであることはいっさい考慮されていない。一方で、彼はそれを踏まえた上で、新しい提案をくれたから、素直なきもちで乗っかってみた。

 やみくもに変化したいわけではない。心地よくつづけてきたベーシックの延長線上で、新しいスタイルを取り入れる、ちょっとしたアレンジならしたい。「この人が言うことなら」と安心感を持って、同時にワクワクしながら、ささやかな変化を試しつづけたいと思う。

このコラムは最近読んで感銘を受けた『40過ぎてパリジェンヌの思うこと』の日本版を作りたいと思い立って書き始めたシリーズものです。


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