雪国とアート
どのフレーズも、どうやって作ったのかわからない超絶技巧の工芸品のように端正で美しい「雪国」。読みながら、フレーズが描写している情景とともに、脳裏に浮かんでくるアートがある。
“「駅長さん、弟をよく見てやって、お願いです」悲しいほど美しい声であった。高い響きのまま夜の雪から木魂して来そうだった。”
アンドリュー・ワイエス「クリスティーナの世界」
“女の印象は不思議なくらい清潔であった。足指の裏の窪みまできれいであろうと思われた。”
林ナツミ「本日の浮遊」
“鏡の奥が真白に光っているのは雪である。その雪のなかに女の真赤な頬が浮んでいる。なんともいえぬ清潔な美しさであった。”
川喜田半泥子「雪の曙」
“非現実的な世界の幻影のようだった。硬直していた体が空中に放り落されて柔軟になり、しかし、人形じみた無抵抗さ、命の通っていない自由さで、生も死も休止したような姿だった。”
速水御舟「炎舞」
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