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ヴィオロン声

あるときから河村隆一の声がツボにハマって抜けない。「evergreen〜あなたの忘れ物〜」という昭和の名曲を隆一がメロウに歌い上げ倒すカバーアルバムを見つけてから特に。
「はなさくぅ〜ンむすぅめぇ〜たちはぁ〜 はなさくぅ〜ンのぉべぇで〜」と甘ったるく歌う隆一唱法は若干ネタとして頂いているが、やはりこの艶々として、温めたべっこう飴のようにどこまでも伸びる声がサイコーでやめられない。

その隆一声に勝るとも劣らない艶々・伸び伸び声の持ち主つよし。ジュニア時代「ほんまにたよりにしてまっせ」を歌っていた頃から既にその片鱗は発露していた。つよしの声聴きたさに『アイドルオンステージ』のキンキだけ集めたテープを作って、当時『evergreen』よりもヘビロテしまくっていた。麻薬的な響きがある。
だがデビュー後出た1枚目の『Aアルバム』では期待するほどの麻薬性がなかった。少なからず失望を感じてしまってから、つよしの歌声とはご無沙汰となっていた。
今回久しぶりに追っかけはじめて、つよしのソロアルバムをデビューから最新のものまで数枚聞いた。まさに当時聴きたいと願っていたつよしの歌声があった。

おもうにキンキの初期の曲はふたりの歌声をユニゾンで重ねてしまって、それぞれの良さを生かした歌が少なかったように思う。ハモったりの技術面をクリアすることも出来ていなかっただろう。
それに加えて正統派アイドルな楽曲・・メロディも歌詞も・・を歌う制約もあったかもしれない。

キンキデビュー後数年経って立ち上がったつよしソロレーベルでは、そうした制約をはなれて歌い出した感がある。初アルバムの『ROSSO E AZZURRO』のブックレットに当時のつよしの言葉がある。「素直に愛してると動く唇。これだけは素敵だった。」

タイトルの「ヴィオロン声」とはジュール・シュペルヴィエルの短編小説を堀口大學が訳したタイトル『ヴィオロン声の少女』から。
生まれつき楽器が鳴っているような不思議な声をもつ少女が主人公で、彼女がしゃべる度に周囲の人々は奇異なものを見るような目つきをする。彼女はしだいに喋らなくなり、声を封印するようになるのだが、ある日・・という話。
つよしの声を聴くにつけこの「ヴィオロン声」という表現がハマるなぁとひとり悦に入っていた。だがつよしの場合、小説のストーリーとは逆のことが起こったように思える。
小説の少女の場合ヴィオロン声は少女性の象徴で、大人になると失われる。つよしも特殊な声をもって生まれているが、お仕着せの歌を歌うアイドルから「自分自身」を歌うアーティストになった事で、よりその声を鳴らす表現が伸びていったように感じる。
ま、アイドルとは肉体の年齢が大人になっていても、存在としては大人ではない特殊な生き物だ。だから少女のように鳴る声を失う事がなかったのかもしれない・・とかなんとか、ファンならではの妄想がイタキモい今日この頃。失礼いたしました。

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