散らかった部屋に私とラブソング
きっとお母さんが見たら悲鳴をあげるだろう。きっとお父さんが見たら頭を抱えるだろう。きっと貴方が見たら、引かれちゃうだろうな。そんなぐちゃぐちゃでとっ散らかったこの部屋が、私の、私だけのとっておきの城なのだ。
薄い扉は私の世界の境界線。たちまち息苦しい魔法が溶けて、私はだらしの無い王様になる。足の踏み場は作るものだ。けれど、ここはお一人様用だから貴方の分は無い。「掃除をするとすっきりするから」なんて言われても、どうにも綺麗すぎる部屋は苦手なのだ。このくらいの方が自分には分相応な気がして落ち着いてしまう。
部屋の真ん中に寝っ転がると、物たちの中に埋れて溶けて無くなっていくような感覚に酔う。嫌な記憶は引き出しの一番奥へ、怖い未来は積んだ漫画の一番底へ。淀んだ今は……目を閉じれば誤魔化せるかな。そうやって今夜もいつも通り、視界に喧しい静かな部屋で一人寛ぐはずだった。はずだったのに。突然聞こえる大きな笑い声、騒ぎ声、いくつかの足音。ああ最悪。今日はハズレだ。楽しい楽しい飲み会が開催されたであろう天井の奥を、重い心で仰ぐ。イライラ、イライラ。羨ましい?違う。僻み?違う。うるさい、まるで私の心が狭いみたいじゃないか。私の範囲に入ってくるな。
こんな時はイヤホンで耳を塞ぐしかない。音で世界を孤立させる。最近はワイヤレスが主流みたいだけれど、散々「耳からうどん」だなんて面白がっていたせいで、なかなか踏み出せずにいる。そうだな、明るめのラブソングでも聴こう。馬鹿みたいだと笑っちゃうような夢見がちなやつ。甘ったるいやつ。私からは程遠いやつ。私はこんな風に恋愛に全てをかけるような、そんな盲目的な人間にはなりたくない。もっとずっと理性的でいたい。それでも、そうしたら、そう思いながら、一人で生き続けるのだろうか。
このラブソングみたいに熱く、私も誰かを愛せるだろうか。
このラブソングみたいに強く、私を誰かが愛すだろうか。
このラブソングみたいに揺るぎなく、私は私を愛せたなら。
そうしたら、この部屋も片付けられるのかもしれない。
…いや、やっぱり無理かもなあ。