金子未弥「未発見の小惑星」
川俣正の「コールマイン田川」で面識のある山野真悟氏の最近の仕事を辿っていくと、金子未弥のドローイングが気になり、横浜・黄金町にあるギャラリーを何度か訪れた。黒澤明の「天国と地獄」の舞台となった町でもある。
NPOが主宰するギャラリーの前を流れる大岡川は、犯人役の山崎努が歩いた場所に続く。
確かな力量で描かれた「小惑星」のドローイングには、コロナ禍での生活体験が反映しているという。他人との関係が閉ざされた後、自室で、梱包に使うような紙に、人間が住む場所の基本単位=民家や公園などで構成される「小惑星」の表面の一部を、俯瞰する形で描き始め、当初は平面的だったものが、やがては、石片のような立体感を持つ造形に。公開制作の場では、来訪者の〈記憶のなかの地図〉の話をきいて、それをある程度、拠り所にして、重層的に描き進めてきた作品でもあるらしい。
この夏、8月19日から末広町の「3331」で始められた公開制作では、この作家の創作のプロセスを、より近い距離で確認することが出来た。
金子が描くドローイングは、カメラを引くと「小惑星」の形に像を結ぶが、その実質は2020年、2021年、そして2022年に経過した、隔絶された、特異な時間の記憶。あるいは、その断片のようにみえる。
いつか雨が上がるように、コロナが終息して、純粋に〈来訪者の記憶の地図〉を作家に伝えられる時期がきたら、多分、加藤淳は幼少期の湯河原での記憶を話すだろう。吉浜海岸の真鶴寄りに神社があり、そこを内陸の方へ、急な坂道を上ると、東海道線のガードをくぐる。黒い貨物列車が轟音を立てて、その上を通りすぎたことを。
2022年9月