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水木しげるが見た光景
調布市文化会館で「水木しげるが見た風景」という企画展をみた。
水木は鳥取出身で、戦後、調布に長く在住していたという。
自身の戦場での体験を反映した戦記漫画に圧倒される。原画と、それを拡大したパネルで構成される作品のハイライトを、時間を忘れて辿った。
戦争末期、職業軍人の兄と特攻隊に志願した弟が対峙する。弟の特攻参加に驚く兄は、〈戦争は、おまえのような者が50人、100人死んでも、どうなるものでもない。もっと大きな力と力の対立なのだ。出撃しても途中の島に不時着して生き延びろ〉と言う。あるいは、孤島の全滅直前の部隊で、部下を生かすために白旗を振り続ける指揮官。大破した戦艦『比叡』の艦長が部下に力ずくで退艦させられ、駆逐艦の上で、自分の艦が魚雷で処分されるのを見る光景。
1961年。終戦からそれほど時間が経っていない時期の証言と、自分が経験した感触をよりあわせて、水木はありのままの戦場を見せる。勝敗がすでに決まった、絶望的な状況の中での意見の対立と葛藤が作品のひとつの軸になっている。映画的な構成や、線描の魅力もある。そして、軍隊という理不尽な組織の同調圧力のなかでも、理性を失わなかった人間が、僅かだが存在したという貴重な証言になっている。
2022年10月22日